いわゆる“名ばかり管理職問題”とは?

まず世間を賑わせている“名ばかり管理職”問題とは何なのか?ということから、ご説明していきたいと思います。

基本的に法律で定められた労働時間は原則1日8時間、1週40時間という縛りがあります。
また、1週間に少なくとも1日の休日(法定休日)を付与することを事業主側に義務付けております。

その法定労働時間を越えて従業員を労働させるため、もしくは法定休日に休日労働をさせるには、次の3つのことをしなければなりません。

1)就業規則に会社の命令所定労働時間を越えて労働させることがある記載。
  (残業がある旨をきちんと従業員に周知するということです。)
 
 就業規則の作成義務のない事業所(10名未満の労働者の事業所)に関しては、個々の雇用契約書により残業がある旨をきちんと周知。

2)労働基準法36条の手続きに従い、時間外労働の上限時間、及び休日労働の上限日数を労働者代表と協定する。(いわゆる36協定と言われるものですね。)

3)実際に法定労働時間を超過して労働した場合、及び法定休日に労働した場合に関しては法定割増賃金を支払う。
(法定割増率⇒時間外:2割5分増、休日:3割5分増):労基法37条

ということで、法定時間外労働、及び法定休日労働に関しては、法定割増賃金の支払いが義務付けられているわけです。

ところが、その例外として、労働基準法41条2号に該当する労働者は時間外労働及び休日労働の適用除外とされております。つまり、時間外労働をしても休日労働をしても割増賃金が支払われる
対象にはならないと法的になってしまう人たちです。
その労基法41条2号の対象者といわれる労働者が“管理監督者”なわけです。

そこで、この時間外、休日労働の適用除外になる労基法41条の“管理監督者”と企業側の認識で考える“管理職”との概念の差がいわゆる“名ばかり管理職”問題をおこしているといれるわけです。

つまり企業側が“管理職”だという概念だけでは、法律上の“管理監督者”としての残業に関しての例外的な扱いを受けるわけではないということです。
もう一つ突っ込んで言うのであれば、職制上の役職付がついておったとしても
全てが法律上の管理監督者ではないということになります。

名称だけで判断するのではなく、実態に即して判断しなければならないという通達もでております。

名称だけ役職がついているが実態は管理職としての権限も与えられておらず本来、残業代の支払いの適用除外とされるべきではないのに、残業代が払われていない従業員をいわゆる“名ばかり管理職”と呼ぶわけです。

最近、この“名ばかり管理職”の残業代を巡って裁判で争われるケースで会社側に残業代の支払いを命じたというニュースをよく聞きます。

会社側がこのような状況にならないようにきちんと予防するには、会社の
役職の名称だけにとらわれず、裁判例や行政通達などをきちんと踏まえた
上で、きちんとした理解と労務管理が必要になってくるのではないでしょうか。

 

この“名ばかり管理職問題”は非常に判断が難しく、各企業さんにとっても悩ましい部分ではないでしょうか?当事務所では御社の就業規則や賃金体系等をチェックし、労使紛争が起こる前に水際で予防するお手伝いをさせていただいております。お問い合わせはこちらから

判例や通達での判断基準

法的に時間外手当及び休日手当が免除される労基法41条に該当する“管理監督者”なのか??
それとも本当は手当を支給しなければならない、いわゆる“名ばかり管理職”なのかという判断基準に関して、どのような判例や行政通達が出ているのでしょうか?。

まず裁判例を見ていくと、法41条の管理監督者として認められる要件としては次の3要件に該当していることが判断材料となっているようです。

1)経営方針の決定に参画し或いは労務管理上の指揮命令権を有していること

2)出退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有していること。

3)基本給、役職手当、ボーナス等でその地位にふさわしい優遇措置を受けていること。

という3要件がそろって初めて時間外手当、休日手当の適用除外になるという判例の見解となります。

また、行政通達(昭和六三・三・一四 基発一五〇号)などを見ていくと

 “監督もしくは管理の地位にあるもの”とは、一般的には、部長、工場長等の労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者の意であり、名称にとらわれずに、実態に即して判断すべきものである。

となっており、更に

企業においては職務内容と権限に応じた地位(職位)と経験、能力等に基づく格位(資格)とによって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、このような資格、職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること

課長だからといって必ずしも法律上の管理監督者になるわけではないということなのです。

これらの行政通達や裁判例なんかを見ていっても、これといった定量的な判断基準がないということが判ってもらえるのではないかと思います。

特に裁判例の1と3なんかは“方針決定の参画ってどの程度の参画なの…??”とか

“給与上の優遇措置って一体いくらくらい一般社員と差をつけたらいいの???”

とか色々疑問が湧いてくるのではないでしょうか?


このようなあいまいな判断材料しかないという危惧があったのかどうかはわからないですが、昨年9月9日にこの“名ばかり管理職”の判断材料、指針となるような通達が出されました。

この通達の対象事業所は全国展開するチェーン店の店長に関しての判断基準となっておりますが、一般企業での判断基準としても参考になるのではないかと考えます。


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以下通達(基発第 0909001号 平成20年9月9日)抜粋

1 「職務内容、責任と権限」についての判断要素
店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。

(1) 採用
店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む。)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(2) 解雇
店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(3) 人事考課
人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう。以下同じ。)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

(4) 労働時間の管理
店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。

2 「勤務態様」についての判断要素

管理監督者は「現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻、早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、次のように判断されるものであること。

(1) 遅刻、早退等に関する取扱い
遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。

(2) 労働時間に関する裁量営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。

(3) 部下の勤務態様との相違
管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。


3 「賃金等の待遇」についての判断要素
管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。

(1) 基本給、役職手当等の優遇措置
基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。

(2) 支払われた賃金の総額
一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。


(3) 時間単価
実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、
管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。

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ある程度これで、判断基準が明確になっているのではないかと言えます。

 

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出退勤の自由裁量の程度

管理監督者の勤怠管理をどのようにすべきなのか?ということなのですが、この件に関しては、判例では“出退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間について自由裁量権を有している”労働者でないと、労基法の管理監督者であると認められないという考え方が浸透した考え方となっています。

よって、会社の中で管理職であったとしても、“必ず9時に出社しなければならない。”
            であるとか、
どれだけ仕事が暇になろうが“とりあえず夕方の6時までは退勤してはいけない。”
という勤怠管理をしているのであれば、法律上の管理監督者には該当しないと考えられます。

このことは、前述の通達(基発第 0909001号 平成20年9月9日)においても、

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“遅刻、早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。”

                     また

“労働時間に関する裁量営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。”

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という形で以前からの通説である上記の考え方を明文化した上で支持しています。

よって、管理職を一般社員なんかと同様に、タイムカードで勤怠管理をしているようであれば、法律上の管理監督者であると主張することも難しくなってくるのではなかろうか?と考えます。

とはいっても、管理監督者であっても、時間外手当、休日手当に関しては、適用除外だけども、22時以降の業務に対する、深夜手当や有給休暇に対しては通常の労働者と同じで適用対象にはなってくるので、まったく勤怠管理をしなくてもいいわけではありません。

22時以降の出勤状況や有給休暇の付与を見る際の出勤率なんかは管理が必要になっては来るわけです。

よって、管理監督者に対しては、基本的には出勤簿管理で出勤率のみ管理するであるとか、タイムカード管理をするとしても、あくまで22時以降の分を管理する等、一般従業員とは、差別化した形で勤怠管理する必要があるでしょう。

また、昨今、過重労働が原因で健康障害が懸念されるため、管理職に対しても過重労働対策として、タイムカード等において労働時間を管理している会社さんもあると思います。

管理監督者に対する労働時間の自由裁量が、そういった勤怠管理まで規制するわけではありません。

実際、今回の通達では

“ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。”

ということが明文化されております。

だからといって、遅刻早退部分を欠勤控除したりするのであれば、管理監督者にならないということになってしまいますし、時間管理はあくまで、過重労働とならないかどうかのチェックためだけということに限定する必要があるでしょう。

過重労働となる可能性のある管理職に対しては、会社の方から積極的に、“労働時間の自由裁量”を利用した、労働時間の調整を管理職従業員に働きかけていく必要があるでしょう。

 

当事務所では御社の管理職従業員さんの勤怠管理方法や労務管理に関して、お力にならせていただきます。お問い合わせはこちらから。

もし労基署から管理監督者不適切の指導を受けたら‥。

会社の人事階層の考え方が否定されたら…。こんなときどうすれば…。

前述したとおり、会社が考える“管理職社員”と労働基準法の概念の“管理監督者”の違いが招くトラブルがいわゆる“名ばかり管理職問題”なのですが、会社では“管理職”として、時間外手当や休日手当の対象となっていなかった階層の従業員が、労基署から管理監督者として適切ではないと指摘を受け、是正を求められればどうすればよいでしょうか?

 このページでは、当事務所が携わった事案をもとに、イザという場合の対処法のヒントを提起していければと思います。

*なお、この事案のHP上の掲載に関しては、お客様から会社名等を公表しないことを条件に事前に許可を頂いております。

 

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 被指摘事業所:精密機器メーカー、従業員数約150名、関西に本社及び製造拠点を持っているが、営業所や出張所を各地方の主要都市に設け、全国展開をしている。

 

 A.労基署からの監査及び管理監督者不適切の指摘の経緯

  関西地区にある、製造拠点(工場)に定期監査ということで、労基署の監督官が事前にアポイントを取って訪れた。(アポイントすら取らず、いきなりやってくる臨検ではない。)特定の労働者からの申告(申し立て)があったわけではないということであったが、もしかしたら匿名での労働者あるいは退職労働者からの情報提供があり、定期監査のターゲットにされた可能性はあるだろう。

 その際に監査を行った監督官から以下の2点に関しての指摘があった。

 1 過重労働に関する指摘

    当事業所は、時間外労働協定(36協定)の協定時間を1ヶ月40時間、年間300時間という形で労働者代表と協定していたが、ある特定の部署の数人が直近の6ヶ月で月間100時間以上の時間外労働を行っていた。その原因としては1人は製造工程で客先専用仕様製品(カスタム製品)を製造していることが主になっており、そういった製品が短納期で注文が来た場合の対応に協定時間以上の時間外労働が必要になるとのことであった。また、品質保証の部署の従業員は市場に投入した新製品が不具合を起こし返品されているケースで、不具合解析の件数の多さに協定時間を超える時間外労働を行わざるを得なかった。

 

 2 管理監督者不適切の指摘

    当事業所では、スーパーバイザー職といわれる、中間管理職の職層の従業員を管理監署として扱い時間外労働や休日労働の管理から外して労務管理を行っていた。しかしながら、その職層の従業員たちは、出退勤の自由裁量を持っているわけではなく、(基本始業終業時刻に縛られている) 、月間2万円の役職手当は出るものの、それ以上に給与的に優遇されているものではなく管理職会議の出席は義務付けられているものの、彼らの会議での発言や意見が直接会社の舵取りを決定付けるような発言権もなかった。同職層の従業員の中には部下の管理をするものもいたが、部下を持たない者もいた。また、部下を持っていたとしても査定の際の一次考課者になる程度で、それ以上の人事権を持っているわけではなかった。 (いわゆる通常の会社でいうところの

係長クラスの職層であろう。)

 また、このスーパーバイザー職以上の職域の従業員が社内全体で見た場合に過半数以上占めており、会社の組織として、いわゆる“管理監督者”として、時間外や休日の対象外としていた従業員が社内全体で半数以上となっており、その点でも担当した労働基準監督官から、管理監督者として不適切ではないかという指摘を強めてしまう結果となった。

 (昨今ポスト不足等の問題で、どの会社も階層がきちんとしたピラミッド型に形成されていること自体難しいのではないだろうかと個人的には思うが…)

 

 B.当方が関与後の労基署との折衝

 こういった監督署の行政指導を受け、是正の勧告、是正期日の指定を受け、事業所側から当事務所あてに対応策の相談を頂いた。

 当事務所はまず、労基署の指摘の1、過重労働の部分に対しては、36協定の協定時間を特別条項(多忙時の特別延長)の手続きを付記し、新たに労働者代表と協定し直す手続きを進めた。と同時に時間外労働が80時間を超える過重労働が複数月続いたり、1月に100時間以上の時間外労働を行った場合の医師の面接指導を対象労働者に義務付ける等のシステムを確立され、指摘の1に関する是正報告として労基署に提出した。また、と同時に事業場内に各従業員に仕事の効率性を見直させるべく、“残業の上限は1ヶ月40時間以内”であると社内掲示を行い、ダラダラ勤務や無駄な残業の削減を従業員に対して啓蒙した。 それに加え、残業の事前許可制度、及び事後報告制度を就業規則上に明記し、無駄な残業を一掃したり、特定の従業員のみ残業過多にならないような社内体制を強化した。

 

 労基署の指摘の2の部分つまり、管理監督者不適切の部分に関しては、会社側の主張と監督署側の指摘があくまで食い違い、かなりの議論を労基署側と重ねたが、最終的に行政通達や裁判例を考慮に入れ、“スーパーバイザー職”は法律上の管理監督署ではないという、労基署側の指摘を会社側は受け入れるという結論に達した。

 そこで、今後は時間外手当、休日手当の対象としなければならないことは承知なのだが、問題なのは、遡って残業代をどれくらい支払えば行政指導を是正したことになるのか?という点である。法律上は2年の遡りが必要なのはわかっているが、スーパーバイザー職の従業員が全社的にかなりの数が存在するために、遡りの人件費として、2年間も支払わなければならないのであれば、会社の経営上破綻しかねないほどの金額的なインパクトがある。

 今後の会社の決算の予測等の会計上の様々なシュミレーションを積み重ねた結果、会社としてこれ以上支払うと経営上影響が出るというギリギリのラインが5ヶ月間(の遡りの残業代)であった。

 そのことを当方から担当の監督官に包み隠さず伝えたところ、“状況が状況だけにやむをえないでしょう。労働者側がその条件でもいいということなら、労基署としてはそれで結構です”という回答をしぶしぶながら得た。また、その際に、対象従業員に対する説明や、合意を取り付けるまでに、長期戦になる可能性を想定し、労基署が提示した是正期限よりも、3週間ほど期限を延ばして欲しい旨を担当監督官にお願いし、了解を得た。

 (*この対応は担当する監督官の裁量によりかなり違うと聞いている。今回はこれで認めてもらったが、全ての事案に適用されるわけではないということにご注意いただきたい。ただ、個人的に思うのは、労基署も会社を経営難に陥らせることが目的ではなく、今後の法律の遵守ということを第一の目標で是正勧告を行っているので、会社が財政上ギブアップしている状況に関わらず、それ以上の金額を払え!という指導はないのではないかと思われる。ただ、これは情報に基づく監査のケースであって、個別の労働者の労働債権の申告事案では、2年まで遡れ!というケースはありうるだろう。)

 

 その後、スーパーバイザー職の従業員を本社に集めて、説明会を行い、以下の2点を説明。

 1)今後は時間外労働、休日労働の適用とし、労働時間管理超勤に対しては時間外手当や休日手当を支払うこと。

 2)過去の残業手当に関しては、法律上は2年前まで遡る必要があるが、そこまで遡るとなると、会社の財政上に非常に大きな影響が出ることや、経営状態が人件費で圧迫され、最悪、整理解雇や会社自体の倒産等も検討しなければならない非常に逼迫した状況を説明し、会社として支払えるギリギリの線が5ヶ月分の遡りの未払い残業代であるということ。

 

 説明会の後、支払い分5ヶ月以外の残りの19か月分の労働債権を放棄する旨の合意文書を対象従業員の全員と交わした。

 説明会の3日後に対象従業員に対し、労基法に基づいて計算された、5か月分の残業代を直接払い(手払い)で支払い、各々から受領書を取っておいた。

 支払日の翌日、説明会での議事録や各々の従業員からの合意書、支払い受領を担当監督官に持参し、最終の是正報告書と共に提出し、今回の監査に関しては終了の運びとなった。

 

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 いかがでしょうか?当方がこの事案に携わらしていただき、感じたポイントが以下の3つです。

 対労基署へのポイント

 ・回答期限の遵守。(やむをえない事情で遅れそうなのであれば、必ず担当監督官へ連絡する。)

 ・担当監督官とコンセンサスを取って進める。決して独断で進めない。

 対従業員に対して

 ・誠実に対処する。(もちろんこれは対労基署にもいえますが)

   対象従業員に対する説明会も、本来支払うべき労働債権を放棄してもらうわけですから、きちんと誠実に会社の実情を伝える必要があるでしょう。今回のケースでは幸いにも、対象従業員全員から、債権放棄の合意が頂けましたが、もし反対従業員がいたとしても、粘り強く交渉していくべきでしょう。もちろんその際も誠実に、間違っても解雇をちらつけたりして、高圧的に進めることはすべきではないでしょう。

 

 また、こちらの会社は、監督署の監査の前は、割と無駄な残業を放置していたり、黙認していたりするような傾向があったのですが、今回当方が介入させていただいて、新制度を確立した結果、その部分に関してはかなり改善されたという感謝の言葉を人事責任者の方から頂いております。これも監督署の監査をきっかけに、うまく好転した事例といえるのではないでしょうか。労基署の監査をきっかけに適切な人事制度を改革することも可能なので、決して悪いことばかりではないように思います。

 

 何度も繰り返しますが、労基署は会社を経営難に陥らせるために監査に来ているわけではありません。あくまで将来の法令順守の指導が第一目的です。彼らは会社の財力以上の支払いの指導をしても、その結果在職している従業員がリストラ等で不幸になる可能性も充分に承知しているわけです。会社としてはそのことをわきまえて、どのように労基署に対処するかを検討していくべきでしょう。

 

 当事務所では、管理職の労務管理や労基署の監査対応に経営者さんに対して、サポートさせていただいております。

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