企業はどのような懲戒行為を従業員に課すことができるのか
ここでは、一般的に就業規則に定められる懲戒の種類についてご説明をしていきます。
実は従業員の不祥事に対してどういった罰を与えれるのか、つまり懲戒の種類については、労働法上何の定めもありません。何の定めがないといっても、もちろん従業員に対して身体的に加虐を加えるような体罰的なものはNGであることは言うまでもありません。
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一般的によく就業規則に記載される、懲戒の種類としては、1.戒告、けん責、2.減給、3.出勤停止、4.降格・降職、5.諭旨退職、6.懲戒解雇(処分が軽⇒重の順に記載)という段階に考えられます。
それぞれについて解説していきたいと思います。
1.戒告、けん責
どちらも不祥事を起こした従業員に反省を促し、将来を戒めるものです。一般的には、戒告は口頭による注意のみ、けん責は口頭注意に加えて始末書の提出を伴う処分というように言われます。(法的な定義付けがされているわけではありません)
始末書というのは、従業員が行った不祥事(非違的行為)を認め、反省し、将来に同様の不祥事を行わないということを書面により約束させるものです。
けん責の時に限らず、戒告の際も、書面により不祥事に対する注意を書面により行い(イエローカードの提示)記録を残しておくほうが将来、同様のことが起こり、その従業員に対して厳罰で臨まなければならない事態になった場合、会社に有利に働くでしょう。要は記録の積み重ねですね。
なお、けん責により会社が始末書の提出を求めても、従業員が提出に応じない場合は、始末書の提出に応じないことに対して何らかの懲罰が課せるのかどうかということが問題になる場合があります。
判例での見解は分かれますが、会社側は始末書の提出は強要できないという考え方が一般的です。
2.減給
不祥事に対する懲罰的な意味合いで、本来受け取れる賃金の額からいくばくか減額するという制裁方法です。ただしこの減給の制裁には、減給できる額は一定の制限が課せられており注意が必要です。(労働基準法91条)。つまり、一回の不祥事に対しては、平均賃金(おおまかにいうと1日分の日額賃金相当額)の半額まで、不祥事が複数回に及ぶ場合は一賃金支払期(月給制なら月給額)の賃金総額の10%以内までしか減額できないということになります。
例)・月給額が30万円
*平均賃金が10,000円となる場合
*厳密に計算すると、こんなきっちりの数字になることはまれですが、あくまで1例として
・“遅刻”という不祥事を制裁の対象としているケース
この例のケースでは、従業員が1回遅刻した場合の減給の制裁の限度額は、平均賃金=10,000円の半額であるところの、5,000円までしか引けないということになってきます。
これが、同じ賃金支払期(月給制なら、1ヵ月間)に複数回遅刻するとどうなるでしょうか。
例えば、賃金計算期間の1か月の間に、同じ従業員が7回遅刻したとしましょう。
この場合は、1事案につき、平均賃金の半額、つまり5,000円までは制裁的に減給することが認められますので、単純に5,000円×7回=35,000円までは減給できると考えがちですがこれは誤りです。
なぜなら、この減給制裁には、一賃金支払期の支給額(月給制ならその月の月給額)の10%を上回ってはいけませんので、35,000円を引いてしまうと、10%の上限を超えることになります。
この場合は30万円の10%、つまり30,000円が制裁の限度額ということになります。
3.出勤停止
これは、不祥事(非違的行為)を起こした従業員に一定期間就労を禁止することを言います。
出勤停止は懲戒処分として従業員に課す以上は、不就労部分に対しては、会社は賃金の支払い義務は発生しませんし、労働基準法26条の休業手当(会社都合の休業の際の60%保障)の支払い義務もないというのが一般的な考え方です。
出勤停止期間に関しては特に、法令で制限はありませんが、従業員側にとってあまりに理不尽なほどの長期に渡る出勤停止は、公序良俗に反して無効と判断される可能性があるので注意が必要です。
また、具体的な懲戒処分を下す前段階、つまり、会社側が従業員に不正があったどうか等を調査をするようなケースで従業員を出勤停止(自宅待機)にする場合は、懲戒処分としての出勤停止の場合とは異なった考え方をするので注意が必要です。
この場合は、会社都合での休業と受け取られる可能性が高く、労働基準法26条の休業手当が必要となるケースも出てこようかと考えられます。
4.降格・降職
これは、懲戒処分として、職位や等級、資格といった企業内での格付けを引き下げることを言います。
職位等が引き下げられた結果、それに伴い賃金も低下することが予想できますが、この場合の賃金低下は前述2.の減給の処分とは別に考えます。
ただし、この降格・降職はあくまで、職位、等級、資格等の引き下げに限定すべきであり、例えば、正社員を有期雇用に引き下げるであるとか、時給制のパート社員に引き上げるとなると、これは降格・降職ではなく、従来の労働契約を一旦強引に終了させて、新たに別の労働契約をするという概念になりますので、こういった懲戒処分は許されないとされた判例があるので注意が必要です。
5.諭旨退職
懲戒解雇の事案に該当する非違的行為があったが、情状酌量し、会社側が一定期限内に辞表の提出を求め、自己退職を勧告することをいいます。書籍や文献によっては、“諭旨解雇”との文言になっているものも見受けられますが、事業主側からの一方的な労働契約の解除という解雇という概念では、従業員からの“辞表の提出”ということはあり得ませんので、ここでは“諭旨退職”としておきます。
従業員側からの退職届、辞表の提出が伴うものは合意退職と解され、法律上、解雇とは一線を引きます。
この場合は、会社は不祥事(非違行為)を行った従業員に対し、一定期間の猶予を与え、その期間中に退職届の提出を求めます。もし、その期間内に退職届の提出がない場合は懲戒解雇に処するという手順となります。
懲戒解雇との違いは、諭旨退職の場合は、自己都合退職扱いとして退職金の支給が受けられるということがあげられるでしょう。(ただし、就業規則によっては諭旨退職でも、退職金を全額支給しないルールにしているケースも見受けられます。)
6.懲戒解雇
懲戒処分の中で最も思い処分がこの懲戒解雇といえます。いわば、企業における死刑判決に等しいものと言って過言ではないでしょう。
この懲戒解雇ですが、“懲戒解雇の場合は30日前の解雇予告は不要で即日解雇が可能”と誤解されている方が結構おられるようです。懲戒解雇の場合であっても労働基準法20条の“30日前予告または30日分の解雇予告手当を支払った上での即日解雇”という法律上の原則が適用となってしまいます。
解雇予告手当の支払いなしで、即日解雇しようとすれば、“労働者の責めに帰すべき事由”ということを“労働基準監督署長の認定を得た”場合に限られます。(いわゆる“解雇予告除外認定”と呼ばれるものですね。)つまり、労働者が解雇されてもやむを得ないような不祥事をしでかしたということの“お墨付き”を行政官庁から取らなければならないということになります。
ただ、この“労働者の責めに帰すべき事由”の考え方が、会社の懲戒解雇基準と労基署の認定基準とは必ずしもイコールとは限りませんので、従業員の不祥事に対して、この“解雇予告の除外認定”の申請を検討する場合は注意が必要です。
申請が却下された場合は改めて、30日の解雇予告(もしくは予告手当の支払い)をやり直さなければならないことになります。
懲戒解雇の際は、就業規則等で“退職金の全部または一部を不支給とする”規定が設けられていることが多いです。
ここで説明した“懲戒の種類”は罪と罰のうち、“罰”の部分になります。不祥事に対して、従業員を処罰しようとすれば、会社のルールブック(就業規則)に“罪と罰”やそれに伴う手続きをしっかりと記載しなければなりません。(この考え方を罪刑法定主義と言います。)
この罪刑法定主義の考え方から行くと、ルールブック(就業規則)上に、どういったことを行えば罪となり、どのような罰が待ちかまているのかという明示を行っていなければ、従業員を処罰することは理論上できないわけです。
この“罪刑法定主義”の考え方と、就業規則の中での懲戒規定の存在意義はリンクするわけです。
“就業規則がない”あるいは“就業規則はあるが、懲戒規定の部分に穴がある”となると、不祥事を起こした従業員を適正に処罰できないことになってしまいます。
この機会に就業規則、特に懲戒規定を注視して穴がないかどうかご確認されてみてはいかがでしょうか?
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