トラック運送業の現状・経営課題・労務上の課題について

トラック運送業界の現状について

  “深刻なドライバー不足の継続”

     “燃料費の相場に左右される営業利益”

       “傭車の依存による人件費の増大”

                   

 直近(平成28年度)の全日本トラック協会が発行する経営分析報告書を参照すると現状のトラック協会の経営上の課題は上記の3点に絞られてくると思います。

 トラック運送業は燃料費の相場という外部要因が営業利益、経常利益に大きく影響する業界です。決算上の業績が好転した年度があったとしてもそれだけでは安心できない非常に厳しい業種であるといって過言はないでしょう。燃料費が予想以上に高騰すると、本来なら喜ばしいことである、顧客(荷主)からの注文の増加が逆に利益を締め付ける結果となるということもあるでしょう。こればかりは営業努力をいくらしたところで解決できることではありません。中小規模の運送会社の多くは燃料費の高騰で一気に赤字に転化するリスクと隣り合わせということが言えると思います。 

 “深刻なドライバー不足”につきましても、主に若年層のドライバーが中々採れないといった状況がここ数年継続的な課題となっており、最近では“人手不足”を理由に廃業される運送業者さんもあると聞いております。

 “雇用”という形態で中々人材が確保できない状況が続くのであれば、“傭車”という形態に依存せざるをえない運送会社さんも増えているようですが、雇用よりも人件費がかかる結果となり、経営を圧迫するリスクに繋がる可能性も否定できません。

 こういった経営上の課題もそうですが、労務管理という点に目を向けましても、運送業界はその特殊性もあり、労働時間の管理についても、労働基準法という規制以外にも“トラック運転者の改善基準”という労基法よりもさらに厳しい規制の対象になるため、2重の負荷がかかる業種となります。

 また、トラック運転業特有の歩合給を中心とした賃金体系が労使間のトラブルが起こりやすい環境となっており、これまでにも裁判や組合が介入した争議が多く見受けられます。

 賃金体系については、労働争議の予防や回避という観点でも大事でありますが、(退職金も含めた)金銭的報酬は従業員たちの大きなモチベーションポイントになりますので、深刻な人材不足が続く運送業界においては、ドライバーの採用や定着という観点でも賃金制度、退職金制度をどのように運用するかは大きな課題といえるでしょう。

 こちらのページではそういったトラック運送業における労務管理、特に改善基準という運送業界独特の労働時間管理、運送業にふさわしい賃金体系やドライバーの採用、育成、定着についてのエッセンスの解説記事を記載しております。

 燃料費の相場の増減に悩まされても、従業員が安心して働ける環境を整え、よい人材のやる気を高め、結果に結びつける経営をしていれば、そんな外的要因もただのマイナス要素の一つに過ぎないはずです。

 是非ご参考にしていただければと思います。

 

 当事務所ではトラック運送業の労務管理や人材(ドライバー)の採用・戦力化等でお力添えさせていただきます。運送業特有の労働時間管理を盛り込んだ就業規則、賃金制度、退職金の導入や戦力化・定着のための社員教育はお任せ下さい。

改善基準告示とトラック運送業の労働時間管理のポイント

『トラック運転者の労働時間等改善基準』が大きな壁となる運送業界の労務管理

 

トラックドライバーの主な就業形態は大きく分けて次の3パターンになると思われます。

 ・地場輸送

  地元を中心とした一般的な輸送形態で、その勤務形態は会社や個々のドライバーによって異なるが、原則1日完結型の仕事となるので暦日をまたぐような形態とはならない。

 ・作業輸送

  引越し便や倉庫でのピッキング作業を含む、『運転以外の業務もありき』の勤務形態で運転時間と同等またはそれ以上に積荷作業の労働時間占有率が高い。

 ・長距離輸送

  片道距離が300km超の輸送を業態とするもの。業務が1日で完結することは物理的に不可能となるため、車内での仮眠等が必要となる。長時間労働、過重労働の温床となりやすいため、しばしば、行政からの指導対象のターゲットとなることもある。

 

トラック運転者の長時間労働を抑制する『改善基準告示』とは…。

 原則の労働基準法における労働時間の規制は1日8時間以内、1週40時間以内ということだけです。しかしながら、自動車運転者においてはその勤務の特殊性や過重労働による事故の発生のリスクを考慮し、上記労基法の規制に加え、『改善基準告示』というドライバーのみに適用される規制が設けられています。

 

 改善基準告示での主な規制内容としては

定義区分 規制内容
*拘束時間

原則:1ヶ月293時間

ただし、労使協定締結により、1年のうち6ヶ月までは、年間の拘束時間が3,516時間を越えない範囲内で1ヶ月320時間まで延長可

1日の最大拘束時間

 原則:13時間以内

例外:最長16時間以内(15時間超は1週2回まで)

**休息期間

 1日継続8時間以上

(ドライバーの住所地での休息期間が、輸送先等や中継地での休息期間より長くなるように努めること)

 

連続運転時間

 4時間

*運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に30分以上の休憩等(積荷作業も中断事由となる)を確保することにより、運転を中断しなければならない。

(4時間以内での分割休憩や運転中断も可。例えば1回につき10分以上、かつ合計30分以上としてもよい)

トラック運送業の改善基準告示における規制時間の概念、用語の定義

  労働時間=運転時間+作業時間+手待ち時間

  拘束時間=労働時間+休憩時間

  休息期間=1日24時間−拘束時間

  (休息期間は勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠を含むトライバーの自由時間、生活時間と定義される)

 

トラック運転者の労働時間管理を困難にしているのは、純粋な『労働時間』だけの規制だけではなく、上記の改善基準での『拘束時間』『休息期間』『連続運転時間』等の規制であり、長距離輸送が業務の中心となる運送業者さんにとっては、遵守することが非常に困難な場合がケースもたびたび見受けられます。

 また、運送業者さん側が法令遵守の自助努力をしたとしても、荷主側の都合により中々労働時間が減らせないという事情もあるでしょう。

 そういった運送業者特有の逆風のなかで、どのように労働時間管理を行っていけばよいのでしょうか?まずは、『労働時間』を特定し、それを法に準拠するようにマネジメントすることが、対策の一歩だと思われます。

 

 マイクロマネージメントの推奨

 トラックドライバーの労働時間管理を難しくしている原因の一つとして、『非運転時間』の扱いが労働時間にカウントすべきか否かが不明瞭であることです。非運転時間でも休憩しているのか、運転以外の作業をしているのかを、きっちり明確に判定できるような、管理体制の構築は必須となってきます。

 マイクロマネージメントとは、『箸の上げ下ろしのような細かいところまで指示する』管理方法のことを言います。ドライバー業務は内勤ではないので、何から何まで業務を指図するという形態には向かないと思いますが、少なくとも労働時間、休憩時間や休憩場所の特定等はきちんと経営者側も把握していないと、労働時間に算入する必要のない非運転時間まで労働時間とされてしまう可能性があります。

 ここはしっかり、タコグラフやデジタコのチャート紙上などのあらゆるツールを使い、『運転時間』『非運転時間』を特定し、非運転時間=非労働時間と立証できるような管理体制を確立したいところです。

 上記トラック運転者の改善基準での『連続運転時間は4時間以内、30分以上の非運転時間の確保の義務』がありますが、この規制をうまく活用して、オン・オフの切り替えを管理する体制を構築し、就業規則に落とし込んでおく方法を取れれば、非運転時間を労働時間と判定されるリスクは格段に改善できます。

 また、長距離輸送の場合はどうしても労働時間が算定しづらいことがあろうかと思われますが、その場合は多少強引な類推方法でもよいので、労働時間の算定を行っておくことが大事になります。

 ただ、その際は適当に決めるのではなく、過去の実績やテスト走行等の確固とした根拠に基づいた行き先ごとの『標準労働時間』というものを算定しておくのも一つの方法です。

 

参考)働き方改革による時間外労働の年間上限時間の設定

 2019年4月に労働基準法の抜本的改革(いわゆる‘働き方改革’)が行われ、残業時間の上限時間が1か月、1年とそれぞれ設定されました。自動車運転業務は原則これらの適用除外業務となっていますが、2024年(令和6年)4月より年間の時間外労働の上限が960時間という適用のみ受けることとなります。月ごとの上限時間の管理や2か月〜6か月の平均残業時間の管理を強いられる一般業種と異なり、運送業者様はさほど制約がなく、比較的融通が効きやすいと思われますが、令和6年以降は単月ごとの残業計画を立て、実績管理はしっかりと行い、『貯金を使い果たして、年間の集計の最終月に残業ができない』というようなことにならないよう留意する必要はあろうかと思います。

 

 当事務所ではトラック運送業の労働時間管理方法、賃金体制や就業規則の見直しで労務トラブルのリスク軽減のお力添えができます。ご相談は以下のバナーより

トラック運送業の賃金設計について

争いを引き起こしやすいトラック運送業の賃金体系

 トラック運送業、特にトライバー職の賃金体系、給与形態はその特殊性もあり、訴訟や組合を巻き込んだ団体交渉等の紛争の火種となる可能性を秘めたものです。

 ここでは、上記のような紛争に発展しないためにどのような賃金設計をトラック運送業者がすべきなのかを見ていきたいと思います。

 

トラック運送業の賃金体系のパターン

 トラック運送業、とりわけドライバーに適用される賃金体系はおおむね次の3パターンが多いのではないかと思われます。

1.固定給部分オンリー

・賃金の構成が月給制(日給月給)、日給制、時給制のいずれかの構成のみで歩合給はなし

・固定給オンリーは地場輸送や作業輸送等の『1労働日完結型』のドライバーに適用されることが多い

・固定給制の中でも時給制は、非正規雇用のドライバー、宅配ドライバー、コンビニ配送ドライバーに多く見られる。

2.歩合給オンリー

・固定給なしの歩合給100%

・長時間労働が勤務常態となっている長距離ドライバーに適用されることが多い(固定給設定の賃金体系では長時間労働による高額の割増賃金が発生するため)

3.固定給+歩合給の2本立て

・一般的な賃金体系であり、地場輸送、長距離輸送、作業輸送の輸送形態に関わらず、運送業では一番採用される体系でもある。

・建前上は「固定給+歩合給」であったとしても、固定給部分がごくわずかな額の日給、無事故手当、食事手当等の低額に抑えられ、歩合給のポーションが大部分を占めるケースも少なくない。(特に長距離輸送のドライバーのケース)

・固定給部分が全体の支給額のおおむね6割未満の場合は、保障給の設定が必要となる。

      (行政通達:平成元年基発93)

 

 参考)変動式歩合給制度

 *100%歩合給にも関わらず、歩合額確定後に『歩合給+固定給(+割増賃金)』に割り振る仕組み

 実態としては100%の歩合給にも関わらず、便宜上、歩合額が確定した後に、基本給や各種手当、歩合給、割増賃金に割り振るやり方。トラック運送業やタクシー業界で以前は散見されていたが、現在はこういったやり方は違法とされる可能性が高い。

  参考判例:S交通事件(札幌地裁 平成23年7月25日)

 賃金の総支給額の実態は営業収入×54%であるが、給与規定上は基本給+歩合給+割増賃金という数式を構成し、名目上は基準内賃金とは別に割増賃金を支払う設定としていた。裁判所の判断は『形式的には割増賃金が支払われていたとしても、実質的には賃金名目の組み替えに過ぎず、実態は100%歩合給である』とし、『完全歩合給制の場合の計算方法による新たな割増賃金の支払い』を求めた。(会社側敗訴)

 

 固定給と歩合給の割増賃金の算出方法の違いについて

 時間外労働を行った際に加算される割増賃金ですが、固定給部分と歩合給部分とではその計算方法が大きく違います。よって、固定給を中心に据えるのか、あるいは歩合給を中心に据えるかによってその額が大きく変わってきます。

 例) 月間所定労働時間:170時間  時間外労働:80時間を行った月で考えると

  ①総支給額が固定給:30万円のみの場合の割増賃金の計算方法

    時間給単価     30万円÷170時間 ≒ 1,765円

    残業代単価     1,765円×1.25 ≒ 2,206円

    残業手当額     2,206円×80時間 ≒ 176,471円

  ②総支給額が30万円で内訳が固定給15万円、歩合給15万円の場合の割増賃金の計算方法

   a.固定給ベースの部分

   時間給単価    15万円÷170時間 ≒ 882円

   残業代単価    882円×1.25 ≒ 1,103円

   残業手当額   1,103円×80時間 ≒ 88,236円

   b.歩合給ベースの部分 

    時間給単価    15万円÷(170時間+80時間)=600円

    残業代単価    600円×0,25=150円

    残業手当額    150円×80時間=12,000円

   c.固定給ベースの残業手当額と歩合給ベースの残業手当額の合計額(a+b)

    88,236円+12,000円=100,236円

 

  ③総支給額が30万円で内訳がオール歩合給であったときの割増賃金の計算方法

    時間給単価     30万円÷(170時間+80時間) = 1,200円

    残業単価      1,200円×0.25 = 300円

    残業手当        300円×80時間 = 24,000円 

 

歩合給の1時間当たりの割増賃金算定方法は以下の通りとなります。

 月間の歩合給総額÷残業時間含む月間総労働時間(*)×0.25(**)

        *労働基準法施行規則 第19条1項6号

        **行政通達 昭23.11.25 基収第3052号

 

歩合給導入の際の注意点

 上でご覧いただいたように、時間外手当の算定という観点で見た場合、固定給部分より歩合給部分の方がかなり残業代のベース賃金が下がるのがご理解いただけると思います。長時間労働が常態となっている長距離輸送のドライバーのケースでは歩合給のポーションが高いほうが、割増賃金がかなり低く抑えられるので、単純に人件費対策という点においては歩合給の割合を増やせばよいということになります。しかしながら、単純に人件費対策、残業代対策として、安直に歩合給への変更を進めることは非常に危険です。歩合給の導入は以下の点に留意して進める必要があります。

 

 注意点1:個別同意の獲得及び不利益変更への対応  

 ドライバー職、特に長距離輸送のドライバーにも『みなし残業代、定額残業代』の賃金制度も判例で認められる一定範囲内のルールにおいては残業手当の高騰対策にはなりえます。加えて、歩合給の導入や割合の調整で人件費を適正化するやり方も一つの方法には違いありません。ただ、やはり賃金形態を変更するに際しては、『不利益変更』の問題は避けて通ることはできません。賃金制度を変えていく上で、労働者に不利益が生じることになるのであれば、慎重に進める必要があります。各労働者に対する個別合意、もしくは就業規則変更による歩合給導入についても合理的な手続きは踏まなければならないことにはなります。

 

 参考)基本給の減額、歩合給導入の個別合意の有無を争った判例

 光和商事事件(大阪地裁、平成14.7.19 労働判例833号 22頁)

  会社側の基本給減額、歩合給導入に対して社員が異議を唱えた裁判。賃金形態の変更に対して、社員の個別同意があったかどうかが争われた。社員側は賃金形態変更後の減額された賃金を受領しており、これが黙示の承諾があったとし、裁判所は労働条件変更の個別合意を認めた。(会社勝訴、社員敗訴)

 

 また、歩合給の設定に対する不利益変更の注意点はこちらの記事にも記載しておりますのでご参考にしていただければと思います。

      『賃金制度(歩合給の導入)と不利益変更』の記事へ

 

 注意点2:保障給の設定

 総支給額に対する歩合給のポーション(割合)を増やしていくような賃金制度の構築を検討するのであれば、どうしても労働基準法27条に規定される『保障給の設定』の部分は無視できません。

 前述の行政通達(平成元年基発93)の考え方でいくと、保障給は『通常の賃金の6割程度』という基準で設定を行う必要があります。

 歩合給のベースになる指標と組み合わせて、いくらくらいの時給単価が適切なのかを検討していかなければなりません。また、設定された保障給は制度として就業規則(給与規程)等にきちんと明記(規定化)することが求められます。

 完全歩合給の場合、もしくは固定給部分がごくわずかで給与の大部分が歩合給で占められる場合、その月の歩合給の額が結果的に通常賃金の6割上回っていたとしても、保障給の定義を何もしていなければ、上記でご説明した基準法27条に抵触すると考えられますし、揉めた際に就業規則(賃金規程)に明文化されていない額や条件を後付けで設定するのも基準法27条に抵触すると考えられます。『結果オーライ』や『後出しじゃんけん』ではNGだということです。

 

 注意点3:歩合給のベースとなる指標の検討

 どのような指標に基づいて歩合給を決めるのかということも非常に重要な要素となります。割と単純に売上高だけをベースにしていることが多いとは思いますが、できれば成果が偏りなく、ドライバー達のモチベーションが保たれるような指標をベースにしたいものです。もちろん、どのような要素が企業としての収益を作っていく部分なのかいうことも、指標を設定する上で不可欠な検討事項となります。

 “ドライバーのモチベーションポイントと企業の収益の生み出すポイント

 この2つがうまく合致するポイントを探り、指標を設定すれば、歩合給への変更の際のドライバーからの支持や同意も得やすくなるでしょう。

 

 この際の注意点はあまり複雑な指標とはせずに、ドライバー本人たちが自分たちの歩合給を計算できるような明快な設定にしておくことが彼らのモチベーション維持には不可欠であるということです。

 

 歩合給の占める割合が高い支給形態はそういったやり方に慣れているベテランドライバーからは抵抗なく受け入れられる一方で、別業界からの転職してきて間もないドライバーや業界に不慣れなドライバーから観るとやはり抵抗を感じるようです。

 深刻な人手不足が続く運送業界では、就業形態や、従業員のモチベーションポイント、会社の人件費予算等の様々な判断要素から最適な賃金制度の構築が必要になるでしょう。

 

注意点4 含み型割増賃金との併用

   ー国際自動車事件 第2上告審(令和2年3月30日 最高裁)のインパクトとは…

 タクシー業界やトラック運送業において、割と広く普及している『歩合給の中に残業手当の全部又は一部を組込む』という賃金設計の考え方が最高裁判決において違法性ありと判断され、審議が高裁に差し戻されました。今後こういった賃金制度の運用は訴訟リスクが伴うため、吟味及び見直しを推奨致します。

 

 *国際自動車事件(第2上告審)の詳細については別途解説記事を設けておりますので、そちらをご覧ください。

 『定額残業・みなし残業・含み型残業の司法判断の推移と賃金設計の留意点』の解説記事へ

 

 現行、歩合給と含み型割増賃金の制度を併用しているトラック運送事業者さんは今回の最高裁判決をしっかり吟味し、リスク軽減の施した賃金制度への見直しが必要になってくる企業様も多いと思われます。

 

 とかく、歩合給制度とみなし残業制度、定額残業制度の併用を考えられている事業者様においては、最新の司法判断に沿った形態で、かつ訴訟リスクを最小限に抑える設計が必要です。専門家の意見を取り入れながら、賃金制度の構築を行うように強くお勧め致します。

 

今後の法改正に伴う運送業の賃金設計の懸案事項

・労働基準法改正による時効期間延長の影響)

 また令和2年4月の労働基準法の一部改正により未払いの残業代の時効期間が2年間から5年間(ただし当分の間3年間)と延長されたことにも注意です。令和2年4月以降に支払い日が到来する賃金債務には3年間の時効が適用されます。

 もし未払い残業代の存在が発覚した場合、令和5年4月以降はこれまでの2年間遡った支払い義務から3年間遡った支払い義務に増額されることを念頭に入れた賃金設計が必要になることに留意しなければなりません。

 

・中小企業に対する割増賃金率の引上げ)

 2010年の労働基準法改正で、60時間を超える時間外労働には割増賃金率が25%から50%に引き上げられました。中小企業には一定期間この法改正の適用が猶予されていたのですが、2023年(令和5年)4月よりこの猶予が撤廃され、大企業同様に50%の支払が求められます。つまり、1か月100時間の時間外労働に対しては、固定給ベースでみた場合、60時間までは125%、それを超えた40時間については150%で計算した割増賃金を支払わなければならないこととなります。長距離輸送を主業務としている中小の運送業者様におかれましては、こういった負担増も前提に賃金設計を検討する必要があろうかと思います。

 

・トラック運送業の賃金制度見直しの必要性)

  放置することでどれくらいのリスクがあるのか…?

 上記でご覧いただいたようにトラック運送業、特に長時間労働を常態とする長距離輸送を主たる業務とされている運送業者様は賃金設計を適切に行わないと、多額の潜在的な未払い残業代のリスクを抱えることとなってしまいます。

 上記では残業時間80時間で、ドライバー一人の残業代が1か月で18万円近くに積みあがる例を取り上げさせていただきましたが、ここまで極端ではないにしろ、コンサルティングの現場に携わっているとドライバー一人当たりの1か月の潜在的な未払い残業代が5万円〜7万円くらいになるケースにはよく遭遇します。

 ドライバー一人当たり未払い残業代が月間7万円とすると…

 50人従業員がいた場合)

  ・月間の潜在的未払い残業代のリスクが

   7万円×50人=350万円

  ・年間の潜在的な未払い残業代のリスクが

   350万円×12か月=4,200万円

 と経営に大きな打撃を与えるような金額に膨らみます。また、今後は前述した時効期間の延長や時間外労働割増率の引き上げでさらにリスクは増していきます。そして、この潜在的なリスクは、労基署の監査、労働組合の介入、労働者側弁護士からの請求等がきっかけで顕在化してしまう危険と常に隣り合わせです。

 当事務所ではこういったリスクを先回りして回避するべく、トラック運送業に最適な賃金制度再構築のコンサルティングサービスを提供しています。

 1年間で約5,000万円、2年間遡ると約1億円の潜在的な未払い残業のリスクを解消!!その革新的な賃金制度改訂の手法とは??

      “賃金制度改訂サービス:未払い段業代請求リスクの回避のために”

 

当社の潜在的な未払い残業代は一体いくらくらいになるのか…?』ご懸念、ごもっともなことです。当事務所では専用ソフトで潜在的な未払い賃金の累積額を無料でシュミレーションすることが可能です。シュミレーションの申し込みはお問合せフォームより「未払い残業額のシュミレーション希望」と記載の上、ご送信下さい。

 当事務所に賃金制度改訂や就業規則改定のサポート、各種コンサルティング支援をご希望される事業主様や人事責任者の方からのご連絡はいつ何時でも歓迎いたします。

深刻なドライバー不足問題にどう対処する

深刻な『ドライバー不足問題』の継続

 少子高齢化のあおりを受けて、若年層のドライバー不足が慢性的に続いています。賃金アップによる人材確保戦略や事務員や役員を運送業務を担わせる等により、トラックの稼働率は若干改善しているように見えますが、根本的な解決にはなっていないように思います。

 傭車の依存率も微増しているのが、最新の統計上で見受けられますが、結果的にはドライバーを直接雇用するより人件費がかかってしまったり、融通が利かなかったり等のデメリットの方が先立ち、出来れば傭車依存の体制を脱却したいと思われている運送業者も多くいらっしゃると思います。

 こちらでは、ドライバーの採用や定着に関しての留意点を記載をさせて頂きます。

 

ドライバーの採用について

 Point1  求職者目線での求人広告、求人票の記載!

  求人広告は会社紹介ではありません。会社の紹介を主体にした、あたかも“会社案内”のような求人票や求人広告も散見されます。もちろん、求職者にどんな会社なのかを知ってもらう必要はありますが、あくまで主体は就職者が知りたい情報であるべきです。

 Point2  費用対効果に見合った採用ルートの構築を!

 今はナビサイトやIndeed等を中心にしたネット媒体や昔ながらの求人広告、折込等のリアル媒体の双方で様々な採用ルートが構築できます。採用で他社より先行するには限られた予算でどれだけ効果的な採用ルートを築けるかということになります。

 Point3  会社の長所をしっかり把握した上でしっかりアピールを!

 求職者が魅力を感じてもらえる御社の長所、強みはなんでしょうか?金銭的報酬や福利厚生等大企業といくら争っても勝ち目がないような土俵の上で戦うより、もっと個性的な部分をアピールすることも一つの方法です。ガソリン価格という不安定な外部的要件に少なからず影響を受ける環境下にも関わらず、今現在に至るまで、しっかりと根付いた経営を継続してきた御社であれば、何らかPRできる魅力は絶対にあるはずです。

 Point4  若者が惹かれるようなキャッチコピーを求人に盛り込もう!

 たとえ“アットホーム”な会社だとしても、その言葉のままでPRしても若い求職者には胡散臭いと思われ逃げられてしまいます。その一方で若者は“自分の素敵な未来がイメージできる”求人広告、求人票に対しては興味をそそられ、問い合わせや応募する傾向が見て取れます。現状の求人広告、求人票がそういった工夫が凝らされたものになっているか、再度見直してみてはどうでしょうか?

 

 ドライバー職の求人は以外とハローワークとの相性がいいとされています。無料のハローワークでも『使える求人媒体』としてしっかりと恩恵を受けるには、求人票の書き方を見直す等のちょっとした工夫が必要になります。

 無料のハローワークをうまく活用するコストパフォーマンスに優れた採用手法は姉妹サイト“大阪人事コンサルティングセンター”に紹介記事を記載しております。

   “ハローワークの効果的な活用法”はこちらから

 

  ドライバーのリテンション策(人材引止め策)はどのような方法があるか

  ドライバーの人手不足問題を解決するには、『採用戦略』についてはもちろん大事な部分になってきますが、せっかく採用したドライバーが短期間で辞めてしまうようであれば、また振り出しに戻ってしまいます。

 ドライバー、特に長距離輸送を主に行うケースでは、どうしても長時間労働が常態化する傾向があり、他の業種に比べて労働環境が過酷になってしまいます。こういった状況下でも 採用したドライバーがしっかり定着し、長期的な戦力となるようには彼らに対してどのような処遇や職場環境を提供しなければならないのでしょうか?以下ご参考にしていただければと思います。

 

 Point1  やる気やモチベーションを持ってもらえるような処遇やキャリア制度構築を!

  これはドライバーに限らず、どのような職種でも同じだと思うのですが、『この会社にいれば、自分は将来どうなっていくのか、どのように成長できるのか』ということ、つまり、成長段階の道筋が存在していることが、特に若手の働き手にとって、職場に対して求める優先項目の一つとなります。

 運送業界のドライバー職の平均年齢は年々高齢化しつつあります。若年層の労働力が中々入ってこない、あるいは短期間で辞めてしまうのは、トラック運送業にこういったことにしっかり取り組む経営者が少ないことが原因の一つではないかと思います。

 大手新聞社の調査でも、『ヒトを育てる仕組みがある会社』『評価制度がある会社』『教育・研修の多い会社』等がビジネスパーソンが会社に対して求める優先順位の高い要素であるというデータもあります。

 多くの会社でリテンション(人材引止め策)として、人事評価制度を新規で導入したり、今の評価制度をより公正公平になるように、改訂・リフォームすることが活発に行われています。

 人事評価制度を導入した上で、等級制度を設け、成長段階を可視化していくというのは、その会社に入社する人、在職する人たちにとっての今後自分が会社でどのような階段を上がっていくのかということを知る上で、最善の道しるべとなります。

 何の目標もなく、ただただ、淡々と日々の運転業務をこなすのと、目標を持って日々研鑽に努めながら仕事をこなすのでは、従業員の『イキイキ度』が全く違ってきます。

 当事務所の『ヒトを育てる人事制度』では、ただ単なる給与を決めるための評価制度ではなく、従業員にやる気を持ってもらえる制度、従業員の成長をサポートする制度設計となっており、キャリア構築の道しるべが従業員に対し明確に指し示すことができます。

 当事務所がご提供する 『ヒトを育てる人事制度』 のご紹介ページ

      ( 姉妹サイト“大阪人事コンサルティングセンター”に飛びます)

 

 Point2  長期継続勤務についての動機付けを!

  長期継続勤務を促す福利厚生の充実も一つのリテンション(引止め策)になりえるでしょう。若い世代の働き手にとって勤め先に求める一番の福利厚生は『退職金』であるといわれています。ドライバーの長期的な貢献に応じて、きちんと報いてあげることができる退職金制度を持っている企業は従業員の定着という点について大きなアドバンテージを持っています。

 退職金のような勤務期間で個々に差が出る福利厚生があれば、長期勤務の動機付け、つまり『にんじん』としてうまく機能させることができます。

 しかしながら、退職金については、その資金準備に結構なハードルを感じられている経営者の方も多いのではないでしょうか?

 『大企業ならともかく、中小企業がどうやって多額の退職金の準備をするの?』

社長さんからこういった疑問が出てこようかと思います。中小零細企業であっても、外部積立制度をうまく活用できれば、節税や法定福利費の軽減のメリットをうまく活用しながら、退職金の原資を準備していくことは可能です。

 当事務所の退職金設計サービスは、『資金準備方法』『金額算定方法』『退職金規程の作成』の三位一体のサービスで、従業員の長期勤務の動機付けとなるような退職金制度の設計にお力添い致します。

 当事務所の『退職金制度設計サービス』のご紹介ページです。

    (姉妹サイト:“大阪人事コンサルティングセンター”へジャンプします。)

 

 Point3  受身的な仕事、ルーティン業務(運転、積荷等)を目標を持って、刺激的にこなす工夫を!

  ドライバー職の仕事と言えば

    ①主たる業務=運転

    ②付随業務=積荷

 が2本柱となってきます。単純作業と言えば単純なのでしょうが、長時間労働になりがちの長距離輸送、しかも事故がないように注意力も切らすことができない状況下での運転や作業は非常に過酷で、そういったことが若年層のドライバーが入ってこない、よしんば入ってきてもすぐに離職してしまう要因になっているのではないかと思います。

こういった過酷な環境下でも、仕事を楽しむような工夫をしたり、受身的な単純作業が長時間続くような状況でも、少し視点を変えることによって、目的意識を持って業務に取り組むことが出来れば、仕事にやりがいを感じることが出来ます。従業員に仕事のやりがいを感じてもらうような仕組みが構築できれば、定着率の改善にも直結することはもちろんのこと、生産性向上や顧客満足度の向上にもつながります。

 当事務所ではドライバーのリテンション(引き留め策)の一つとして『仕事のデキるドライバーの行動(専門用語で“コンピテンシー”と言います)』を事業所全体で共有し、目的意識をもって業務に取り組んでもらうことによって、社員満足度を高め、定着率を改善するメソッドの提供をしております。

  『コンピテンシーって一体何?』

  『どういう風に職場がよくなるの?』

こういった疑問をお持ちの経営者の方も多いと思います。姉妹サイトの“大阪人事コンサルティングセンター”にコンピテンシーのご説明を掲載しておりますので良ければご覧になって下さい。

 当事務所ではトラック運送業の労務管理でのお手伝いはもちろん、従業員の採用や育成(戦力化)、定着に付きましてもサポートさせていただいております。人手不足の昨今、いい人材をいかに惹き付け、育て、定着させるかは経営側の緊喫の課題でしょう。ヒトの事でお困りであれば当事務所までお声掛け下さい。

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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大阪の社労士、行政書士の児島です。私は10期勤めた労基署の相談員時代に、通算件数15,000件以上もの労働相談を受けてきました。また、年間に300件以上の民間企業・法人の就業規則のチェックを行っており、これらの経験で培った、労働トラブルの予防に対する引き出しの数の圧倒的な多さが当事務所の武器です。

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