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企業の懲戒権限ー権利濫用かどうかの判断基準
企業は企業内の自治をするにあたって、その秩序を保つために一定の懲戒権限を持っていると考えられるのは前述した通りですが、果たしてその懲戒権が、権利の濫用となってしまう基準はどのあたりなのでしょうか?
労働契約法の15条には以下のような条文があります。
『使用者が労働者を懲戒できる場合において、その懲戒が労働者の行為及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、その解雇は無効とする。』
条文の最初の“使用者が労働者を懲戒できる場合において”という部分は、前の記事で記載した、“罪刑法定主義”を満たした場合のことです。つまり、就業規則で“罪と罰”を明記したうえで周知していることが、事業主が不祥事(つまり罪ですね!)を起こした従業員を懲戒処分できる(罰を与える)最低条件になります。
ただ、条文のその後の部分“その懲戒が労働者の行為〜その権利を濫用したのものとして、その解雇は無効とする”とあります。これは、仮に就業規則に“罪と罰”の根拠規定があり、最低条件を満たしていたとしても、それだけでは、直ちにその懲戒処分が有効となるわけではなく、無効になる可能性がありますよ。ということです。
では、その有効無効の判断基準はどこで見ていくのでしょうか?具体的には以下の部分に留意して懲戒処分を行うべきでしょう。
1.不祥事の度合いに相当する処分であること(相当性の原則)
“罪”と“罰”のバランス、つり合いがきちんと取れているかどうかということです。例えば、1回の遅刻だけで、懲戒解雇という最も重いペナルティーを課すことができるかどうかといえば、いくら就業規則に根拠がある処分だといってもそれは、無効になる可能性が非常に高いといえるでしょう。
これは刑事罰で量刑を決めることと同じ理論ですね。少額の窃盗の罪だけで、死刑になるとはまず考えにくいでしょう。(江戸時代以前とか、現代でも独裁国家ではあり得るかもしれませんが、それは置いておきましょう。)
さらに、情状酌量する余地が考慮されたがどうかということも1つの判断基準にはなりえます。例えば、不祥事を起こした従業員の反省の度合いであるとか、何か損害を与えた場合であれば、損害に対して弁償があったかどうかであるとか、そも辺りも考慮の必要があるかと思います。
よって懲戒処分の決定に関しては、具体的にどのような不祥事であり、それに至った動機、会社や他の従業員に対するインパクト、損害の大きさ等を検証し、前述の情状酌量の余地があるかどうかも含めて、不祥事とのバランスに合致した処分を下さないと、処分自体が無効になってしまう可能性があるので要注意です。
2.同一もしくは類似する罪には平等の扱いを!(平等取扱の原則)
同じ懲戒の要因、例えば、1回遅刻をしたことにより、従業員Aに対しては、戒告処分であるのに、従業員Bに対しては、減給の制裁をしたとすれば、なぜ、同じ罪に対しての処分が従業員Bの方が重いのかということになってきます。会社側がこの処分の重さの違いに対して理にかなった説明ができるのであれば、こういった処分ができる可能性はありますが、ただ単なる社長のさじ加減でということであれば、無効になる可能性が高いでしょう。従業員に対する好き嫌いで処分を決めているという風に受け止められかねないからです。
よって、何らかの不祥事が起こった場合は、会社側はその同一もしくは類似の不祥事に対して、過去どのような懲戒処分を課しているのかということを調べる必要が出てきます。そういった類似の不祥事の前例がない場合は、過去どのような不祥事に対して、どれくらいの重さの処分を下しているか、という前例を把握した上で、今回の不祥事が前例の不祥事と比較して、どのくらいの重さ加減なのかを判断し、その重さに適した懲戒処分を割り当てていく必要があります。
3.適正な手続きを経ていること
これは、1つ前の記事の“罪刑法定主義”の部分と内容がかぶってしまいますが、就業規則上に懲戒処分に関する手続きが記載されているのであれば、その手続きを尊守しなければならないということになります。
例えば、懲戒処分に至るまでの事実関係の調査方法であるとか、不祥事を起こした従業員に弁明の機会を与えるか否かであるとか、懲罰委員会等の諮問機関の諮問を経た上で処分を決定するとか、そういった手続きを就業規則上に記載している企業さん、会社さんも結構おありだと思います。
そういった記載があるのであれば、その手続きを経たうえでの処分でないと、手続きの適正を欠く懲戒処分であると判断され、懲戒権の濫用とされる一つの要因になってしまう可能性があります。
蛇足ですが、不祥事を起こした従業員に弁明の機会を与えたり、懲罰委員会の諮問を経たうえでの処分の決定という、手続きを設けることのメリットに関してお話しておきます。従業員に弁明の機会を与えることは、会社側(使用者側)の一方的な決め付けで処分することの抑止力や、会社側(使用者側)の、従業員に対し情状酌量の点があるかどうかを見たうえで判断しようとしている姿勢が、いざ争いになった場合に裁判所が推酌してくれる可能性があると思います。
また、懲罰委員会の審議も、社長のさじ加減で処分を決めるよりは、一定の諮問機関の審議を経て処分決定したという筋書きにしておく方が、いざ、解雇権濫用で争われた場合のよりどころとなるのは間違いないと思います。
あくまで個人的な意見として、こういった従業員の弁明の機会の付与や、(もし会社の組織機能的に可能ならば)懲罰委員会の設置も手続きとして入れておいた方がよいかと思います。
当事務所では懲戒規程の強化も加味した就業規則の見直し案を提示させていただきます。
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この記事は私が書きました
児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
社会保険労務士・行政書士
組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)
元大阪労働局 総合労働相談員
元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員
社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。
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就業規則の作成・変更を主力業務としている、大阪市住吉区の社会保険労務士です。元労働基準監督署相談員・指導員の代表社労士が長年の経験を活かし、御社にフィットする就業規則・賃金制度をご提供します。
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大阪の社労士、行政書士の児島です。私は10期勤めた労基署の相談員時代に、通算件数15,000件以上もの労働相談を受けてきました。また、年間に300件以上の民間企業・法人の就業規則のチェックを行っており、これらの経験で培った、労働トラブルの予防に対する引き出しの数の圧倒的な多さが当事務所の武器です。