昨今の不景気による人件費対策で、毎年一定時期に行われている定期昇給を廃止したいという相談が後を絶ちません。

制度としての定期昇給を廃止するということは、労働条件の不利益変更にあたるとされるのでしょうか?

一般的にある一定時期(多くの企業では毎年4月1日となっている)に定期昇給をさせる旨の就業規則上の規定が定められているとするならば、“使用者が法的に一定額以上の昇給義務を負う”という解釈になってしまいます。

こういった場合に就業規則を変更することによって、定昇を廃止することが不利益変更になるのかどうかと言うことが、議論の対象になってきます。

判例では、現実に不利益を被るか否かよりも、就業規則の変更により、不利益を被る可能性があるだけで、不利益変更に当たるとされております。

よって、定昇の廃止という変更によって昇給がなくなるという不利益を被る可能性がある以上は不利益変更と解釈せざるをえないという結論になってしまいます。

不利益変更に当たるということになれば、今度はその不利益変更が“合理性に基づいた内容”で受容できるのかどうかということを検証していかなくてはなりません。

この合理性の判断基準というのは、“成果主義賃金制度の導入”と同様のレベルで検討していきます。

つまり、合理性は必要であるが、“高度の合理性”までは必要性を求めないという解釈が一般的です。

確かに定期昇給は賃金に付随するもので、重要な労働条件ではありますが、会社が成果主義賃金制度を導入するという条件で、定昇を廃止したとしても、その従業員のがんばりは成果次第では賃金が上昇する可能性がある以上はその廃止自体は不合理とは言えないとの裁判例もございます。

ただ、結果的に定昇の廃止により、賃金が下がってしまう従業員に対しては、経過的措置を設ける等の配慮が必要でしょう。

裁判例では定昇の廃止、成果主義的賃金制度への変更に伴い、月給が15%低下した従業員に対して、何の経過的措置、緩和措置のない変更は不合理とされた例もあります。

逆に、2年間の経過的措置を講じて、賃金の減額分を調整手当等で補ったケースでは、合理性ありとの判例もあります。

また、労働組合との合意による場合は合理性が労使間で調整できたという、最高裁判例もあるようです。

よって、前回の成果主義賃金の導入、及び、今回の定昇の廃止という観点から見た、キーワードとしては、“経過的措置の導入”と“組合や従業員との協議”ということになってくるでしょうか。

上記からも判るとおり、制度変更を伴う、賃金制度や就業規則の改定は不利益変更の問題を避けて通ることはできません。 

新たな規定の追加の場合はもちろんのこと、経営状況の悪化に伴う場合ですら賃金制度および就業規則の変更に伴う、労働条件の変更に関しては、やり方を間違うと“合理性のない不利益変更”と判断されてしまう可能性があります。

不利益変更のリスクを最小限に抑え、昇給原資の範囲内で頑張った社員に公正公平に優遇して、昇給する制度を構築しませんか?当事務所の『人を育てる人事制度』ではそういった制度構築が可能です

      当事務所の『人事制度構築サービス』の紹介ページはこちら

 

加えて、当事務所では、様々なケースを想定して就業規則の変更のコンサルティングを行っております。

新たな制度の導入に伴う就業規則のご変更の際は、是非、ご相談下さい。

就業規則のご相談、ご依頼はこちらから

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

免責事項

当ホームページは情報の掲載に関しては、万全を施すべく尽力しておりますが、サイト運営者の私見に基づく記述も含まれるため、全ての事案に対しての絶対の保証をしているわけではございません。また、法改正や制度変更の際は記事の更新が遅れることがあります。当ホームページ掲載の情報の取扱いに関しては、閲覧者の責任においてお扱いいただきますようにお願いいたします。当ホームページ掲載情報の扱いに際し、個人もしくは法人が何らかの損害を被ったとしても、児島労務・法務事務所ではその責任を負いかねます旨予めご了解下さい。

Copy Right:児島労務・法務事務所 2008

当サイト掲載コンテンツの全部または一部の無断複写・転載・転記を禁じます。

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
06-6673-7856

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝祭日

大阪の社労士、就業規則の児島労務・法務事務所のホームページです。
就業規則の作成・変更を主力業務としている、大阪市住吉区の社会保険労務士です。元労働基準監督署相談員・指導員の代表社労士が長年の経験を活かし、御社にフィットする就業規則・賃金制度をご提供します。

サポートエリア)
最重要エリア)大阪市、堺市、吹田市等を含む大阪府下全域
重要エリア)京阪神地区、奈良地区
*オンライン(Zoom)でのお打合せにより就業規則作成、賃金制度構築等のサービスは全国対応可能です。大阪より遠方のお客様もお気軽にお尋ねください。

サービス内容のご質問、お見積もり依頼歓迎。

込み入った事案の労働相談は必ず事前予約下さい。(飛び込み対応は致しません)

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

06-6673-7856

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝祭日は除く

ごあいさつ

大阪の社労士、行政書士の児島です。私は10期勤めた労基署の相談員時代に、通算件数15,000件以上もの労働相談を受けてきました。また、年間に300件以上の民間企業・法人の就業規則のチェックを行っており、これらの経験で培った、労働トラブルの予防に対する引き出しの数の圧倒的な多さが当事務所の武器です。

就業規則の
児島労務・法務事務所

住所

〒558-0045
大阪市住吉区住吉2-5-28

営業時間

9:00~18:00

定休日

土日祝祭日