“就業規則に退職後の同業他社との転職や、同業の事業の開業の一定の制限の設定”と不利益変更の関係についてみていきます。

このような制限を設定することは、いわゆる競業避止規定という言い方をしますが、そもそもそのような、規定を設定することが、憲法22条の職業選択の自由に抵触しないのかという問題がありますが、裁判所はある一定の限度を設けて、その有効性を認めています。

いくら、就業規則に記載しているからといって、何から何まで、競業を禁止してしまうと、それは職業選択の自由との兼ね合いがありますので、退職者の権利を不当に侵害してしまう可能性がありますが、

1)営業秘密や企業秘密等の使用者の正当な利益を守る目的
2)労働者の退職前の地位、職務内容
   (会社にとって漏洩すると困るような、機密情報を扱っている業務若しくは職位かどうか)
3)期間や地域等の競合が制限される範囲
4)代償措置の有無

の4つのポイントあるいは制限を設けることにより、有効とした判例もあります。

また、こういった、競業避止規定を設けている場合に、この規定に違反した場合は、退職金を減額又は支給しない旨の規定とリンクさせている場合が多いわけですが、退職金制度を設ける設けないであるとか、どのような制度にするのかどうかということは基本的に事業主側の裁量であることや、退職金という性格上、在職期間中の功労的な意味もありますので、減額したり不支給にしたりすることも可能であると考えられます。

しかしながら、退職金の別の性質として、賃金の後払い的な意味もあるとの理由で、減額、不支給に関しては合理的な理由が必要との見解があります。

裁判例等を見ていると、よほどの背任性が高いような同業他社への転職でない限りは全額不支給にすることは難しいのではないかと考えます。

また、半額に減額する規定に関しても、退職後1年以内の勤務地もしくは隣接した都道府県内での競合に限定された、競業避止規定についてのみ有効とされています。

次に、この競業避止規定、及びそれに伴う退職金の不支給規定を新たに就業規則に追加する場合は、労働者の将来に対しての退職金取得の期待部分を損なう可能性があるため、不利益変更であるとされています。

こういった追加条項を設ける際、どういった点で合理性や有効性を判断するかというと、判例では以下の点を考慮し、合理性ありと判断したものがあります。

1)変更内容
 ①管理職や機密情報を扱う職種の従業員に限定して競業の制約を課していること
 ②期間を1年以内と限定していること 
 ③会社の承諾を得れば、競業避止規定の問題が生じないようにしていること
 ④退職金不支給も絶対条件ではないこと
2)変更の必要性
 会社の存続を左右しかねない要職の従業員の競業や、大多数の従業員のライバル会社の転籍等、今後の会社経営に重大な影響を及ぼすと考えられること

3)代替措置
 功労支給金制度等の導入
4)変更の手続きが適性に行われていること
 組合との協議や従業員の合意


やはり繰り返しですが、こういった手続きは慎重に手続きを踏んで行うべきでしょう。

 

ご覧の通り、労働契約法施行後は、一見会社の裁量と思われるようなちょっとした制度の変更ですら、慎重に行わなければならなくなってきております。

新たな規定の追加の場合はもちろんのこと、経営状況の悪化に伴う場合ですら就業規則の変更に伴う、労働条件の変更に関しては、やり方を間違うと“合理性のない不利益変更”と判断されてしまう可能性があります。

当事務所では、様々なケースを想定して就業規則の変更のコンサルティングを行っております。

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この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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