企業の福利厚生とは、“労働の対価”の賃金とは一線を引いた形で考えられます。
つまり、労働の対価とは関係なく、事業主側が恩恵的、配慮的に従業員のために支給する利益又は費用のことを言います。
例えば、社内住宅ローンの貸付制度であるとか、借り上げ住宅であるとか、フィットネスクラブの法人契約などなど、企業によって従業員に提供する利益は様々です。
企業としては“よい人材に来て欲しい”ということで、福利厚生の充実を計ってきており、就職活動をする側もその受けれる恩恵を会社を選ぶ際の重要なファクターと考えるケースも多いでしょう。
また、入社した後も従業員はこの恩恵的な“福利厚生”をあてにして、入社後の生活設計をすることがあり得るでしょう。
よってこれら福利厚生を会社側からの恩恵的なものだからと割り切って、一方的に廃止してしまうと従業員側からしてみれば、生活設計等を不当に損なうこともあり得るわけです。
福利厚生の一方的な廃止は“賃金”や他の核となる労働条件ほどには厳格ではないにしろ、不利益変更の問題になりえるケースはあるといえます。
また、このような福利厚生は“当該事業場の労働者のすべてに適用される定め”ということになるのであれば、就業規則の絶対的記載事項となり、記載が必要な項目となるわけです。
よってこういった福利厚生を設ける場合は就業規則によって制度化させているケースが大半であるということを考えると、その部分も労働契約の項目の1つであるとの解釈になってしまいます。
よって、就業規則を変更することにより、福利構成部分の労働条件を引き下げる、あるいは廃止するということは、不利益変更となり、その有効性は、やはり合理性及び必要性で持って判断されるということになってきます。
ただ、福利厚生は先ほども述べたように、労働条件の核となるべき、それが直接労働の対価と考えられる賃金や退職金に比べて不利益部分が少ないと考えられるため、合理性や必要性も比較的緩やかに見られる傾向はあるようです。
ただ、従業員の生活設計として組み込まれているような、社内の住宅ローン制度等は廃止したりすることによって、不利益の度合いは少なくないと思われますので、やはり、いくら、恩恵的な部分であるといっても、慎重に吟味し、制度変更をしていく必要はあるでしょう。
ご覧の通り、労働契約法施行後は、一見会社の裁量と思われるようなちょっとした制度の変更ですら、慎重に行わなければならなくなってきております。
新たな規定の追加の場合はもちろんのこと、経営状況の悪化に伴う場合ですら就業規則の変更に伴う、労働条件の変更に関しては、やり方を間違うと、“合理性のない不利益変更”と判断されてしまう可能性があります。
当事務所では、様々なケースを想定して就業規則の変更のコンサルティングを行っております。