平成18年の4月より、“高年齢者等の雇用の安定等に関する法律”が改正され、原則事業主には、労働者の65歳までの雇用の確保をしなければならないとされました。
どのような形で雇用を確保するかというと
①定年を65歳以上まで引き上げる。
②定年を60歳のままとするが、労働者が希望すれば、定年後も65歳まで再雇用する。
③定年制そのものを廃止する。
という3つの方法のどれかを講じなければならなくなったわけです。
ただし、すぐに対応することも現実的には難しいでしょうから、一定の経過的措置が設けられ、平成25年3月末日までには65歳までの雇用を確保してください、というようになっております。
(平成22年3月の現時点では63歳までの確保。平成22年4月からは、64歳までの雇用をとりあえずは、確保してください。というようになってます。)
再雇用制度というのは、②の方法の時ですね。
再雇用をした場合に、定年前の給与から額を引き下げるというのは、不利益変更にあたるのでしょうか?
これは、不利益変更にはあたらないと解釈されています。
これはそもそも、60歳の定年後の労働契約はそもそも存在しないため、不利益かどうかを比べる基準が存在していないんだ、というように考えられるためです。
**平成28年5月に定年後の再雇用時に給与を引き下げることは、同一労働、同一賃金の原則に反する行為として、違法という地裁判決が出ました。当サイトではこの判決がまだ現時点では地裁レベルである点等を踏まえ、当記事を作成時の平成22年の状態のままの表現内容にしています。情報の取り扱いに関してはあくまでも自己責任にてお願いいたします。
よって、定年時点で一旦労働契約を切った上で、新たな雇用契約を巻き、その雇用契約上で新たな賃金を設定するということになってくるので、不利益変更にはあたらないということになるのですね!!
(但し、有給休暇の継続雇用としては、例え、定年で一旦雇用契約が切れたとしても、断続期間がない限りは雇用期間は通算するというようになってます。)
しかしながら、会社が継続雇用を導入し、65歳までの雇用の確保を計る代わりに、その交換条件として、55歳から60歳の原則の定年時までの約5年間の給与の減額をしたとすればどうなるでしょう。
これは不利益変更となってしまいます。
よって、変更に関して“高度の合理性および必要性”が不可欠となってくるのです。
しかしながら、一方としては60歳から65歳までの雇用の機会が確保される労働者側の利益の部分も裁判所は判定材料にするようです。
裁判例では、福利厚生制度の適用延長や特別融資制度の新設など、不利益を緩和する措置も取られた上の変更で過半数組合(9割が組合員)との合意があるケースでは、合理性、必要性が認められた変更として、有効とされました。
要は、60歳以降の雇用の確保の労働者側のメリットと、給与の下げ幅のせめぎ合いに最終的にはなるでしょう。
継続雇用制度そのものは、労使協定で会社側が再雇用する従業員の基準を設けることができるわけですから、全従業員がその60歳以降の雇用継続の恩恵にありつけるわけではないので、55歳以降の賃金の減額幅があまりにも大きい場合は、長い目で見た場合に不利益になることも考えられるわけです。
例えば、55歳からの給与減額となり、65歳まで再雇用されたとして、ようやく、減額以前の60歳到達時の賃金に追いつけるような賃金設計をするのであれば、その変更自体が無効と判断される可能性も高いのではないかと思われます。
よって、減額幅を含めて、経過的措置、代替措置、不利益緩和措置を充分に考えた上で、労働組合や従業員代表との協議と充分行えていないと、不利益部分が無効と判断されかねません。
くれぐれも慎重に行う必要があるでしょう。
上記からも判るとおり、制度変更を伴う、就業規則の改定は不利益変更の問題を避けて通ることはできません。
新たな規定の追加の場合はもちろんのこと、経営状況の悪化に伴う場合ですら就業規則の変更に伴う、労働条件の変更に関しては、やり方を間違うと、“合理性のない不利益変更”と判断されてしまう可能性があります。
当事務所では、様々なケースを想定して就業規則の変更のコンサルティングを行っております。
新たな制度の導入に伴う就業規則のご変更の際は、是非、ご相談下さい。