裁判員制度施行に伴う、労務管理対策!!御社は大丈夫ですか??

本年の5月より、裁判員制度が導入され、既に裁判員制度による裁判が開始されていることは、マスコミ等の報道により、皆様もよくご存知のことと存じます。

さて、この裁判員制度により、裁判への参加が義務付けられた従業員に対して、どのように対処すればよいのかというところは、各企業さん非常に悩ましい部分のようで、最近この手の質問が増えております。特に中小企業さんからしてみれば、一定期間あてにしている労働力が欠けてしまい、致命的な打撃を受けることを懸念されている経営者の方もおられるようです。

この制度の開始に伴い、事業主としてはどのような対処をして行けばよいのでしょうか?

 

 1.裁判員制度と労働基準法7条(公民権行使の保障)の関係

まず、この裁判員制度のスタートが会社や事業所の労務管理する上でどのようなことが懸案事項となるのかをまず見ていきたいと思います。 

労働基準法では、事業主は公の職務(公務)の執行に対して、従業員に必要な時間が請求されれば、拒否はできないという規定があります。(労働基準法7条、公民権行使の保障)

この公の職務というのは、議員等の仕事や、労働委員会の委員、民事訴訟の証人等を指すのですが、裁判員制度の裁判員もこの“公の職務”の中に含まれます。よって、裁判員候補者となり、裁判員や補充裁判員に選出されれば、きちんとした理由がない限りは裁判員を辞退できないわけですから、会社としては、公民権行使を保障しなければならない、つまり、会社は就業期間中であっても裁判員としての“公の職務”を優先させなければならない、ということになってしまいます。よって、まず第一の懸案事項として、会社または事業所は、審理が行われる、数日間から1週間くらいの不在労働者の労働力をどう補うかということを考えなければなりません。それよりもそもそも、不在になるということ、及び不在になる期間を会社または事業所がきちんと把握をしなければならないわけです。

もう一つは賃金の問題です。不就労部分の賃金の取扱いは、有給にするか無給にするかということは、事業主側の裁量になります。(行政通達;昭二二・一一・二七 基発三九九号) そこで、第2の懸案事項としては、不就労部分の賃金に関してどうするのかを考えなければならないわけです。

2.転ばぬ先の杖!!就業規則に規定しておくべきこと

 1)従業員が裁判員等に選ばれた時は、会社に報告する義務を記載しましょう。

まず第一の懸案事項に対する解決策として、当事務所では以下のことを就業規則に規程することを推奨しております。

 ①裁判所候補者名簿記載通知を受けたこと

 ②裁判員候補者として呼び出しを受けたこと

 ③裁判員や補充裁判員に選任されたこと

 ①から③に該当する場合は使用者(事業主)報告を義務付けるという規定を就業規則に定めた上で、報告義務の命令権を確保しておくべきでしょう。まず、会社(事業主)としては、従業員が不在となり、必要な労働力が確保できなくなる可能性があることやその時期、期間等をきちんと把握をして、しかるべく、勤務体制の変更等の対策を練っていかなければなりません。 直前になって言って来られても、会社としては出勤しているという前提で段取りしている行事や会議なんかもあるでしょうから、後になって慌てるということは、絶対に避けたいところです。

 さて、裁判員等に選ばれたときに、事前に会社に報告することを義務づける行為についての是非はよく議論されるところです。

 裁判員法第101条第1項にて“何人も裁判員や裁判員候補者等の指名、住所その他個人を特定するに足りる情報を公にしてはならない”とされています。しかし、この場合の“公にする”とは不特定多数の人間に話したり、知られるような状態にしておくということです。よって、勤務先の休みの調整等に勤務先の事業主や上司等に話すことは、構わないとの解釈になります。

 よって、就業規則に報告義務を設けておくこと自体は、それが、裁判員あるいは裁判員候補者の従業員の休暇やそれに伴う、出勤体制の段取りを目的としている限り可能であると考えられます。

 2)従業員が裁判員候補者名簿記載通知を受け取った場合は、会社(事業主)と協議する旨を記載しましょう。

 裁判員候補者名簿記載通知を受け取ったとしても、まだ裁判員に選出されたわけではないですし、仮に裁判員に選出されるにしても、どの時期に行われるべきものかも、その時点ではわかっていないわけです。よって、会社と協議する機会を設ける旨を就業規則に記載しておきたいところです。特にスペシャリスト職などでは、どうしてもその人でないとできない仕事があるでしょうし、特定な業種ではどうしても時期的に繁忙な時期があるわけですから、その時期に関して会社側と協議することも必要となってくるはずです。よって、辞退の申し出をするかどうか、及び裁判員として参加することが困難な時期についてどのように回答するかと会社と協議の上決定する旨、就業規則に定めておくことを推奨いたします。

 これも前の1)と同じ考え方で裁判員法101条に抵触するものではないと考えます。ただし、あくまで労基法7条の公民権行使の話になりますので、会社は該当従業員と協議することはできても、裁判員を辞退するように強要はできないので、ご注意下さい。

 3)裁判員として不就労日の給与の考え方

 これに関しては先に述べたとおり、有給にするのか、無給にするのは、基本的に会社側の裁量です。無給しても従業員が事前に法定の年次有給休暇を申請してくれば、与えなければなりません。

 年次有給休暇以外に裁判員用の特別の有給休暇を新たに加えられる事業所さんも多く見受けられますが、気をつけなければならないのは、就業規則等に、

 ①裁判員の休暇は有給にしているので、裁判員としての日当は会社に納付する

 ②裁判員としての日当金額は給与から減額する。

 と規定している場合です。この場合は①、②ともに法律に抵触する可能性がありNGです。

 ①の場合は裁判員法第100条の不利益取扱いに該当する可能性があるわけです。例えば有給休暇分が日額8,000円の賃金で、裁判員としての日当が10,000円とするならば、日当の10,000円を納付させることにより、差額の2,000円が従業員が不利益な扱いを受けることになります。

 ②の場合は有給休暇として日額賃金から裁判員としての日当を差し引くのであれば、労基法24条の全額払いの原則に抵触することとなってしまいます。

 しかしながら、特別有給休暇の賃金額をあらかじめ“1日分の日額賃金から裁判員としての日当額との差額”というように、休暇中の賃金額を日額給与と日当額の差額を支給するような、有給休暇にすることは特にはどの法律にも抵触しないので問題ないのではないのでしょうか?

 例えば、日額賃金12,000円で裁判員としての日当が10,000円の場合、裁判員としての特別有給と取得した従業員に対しては、12,000−10,000=2,000円が休暇中の賃金と支給されるような制度を定めておくということです。

特別の有給休暇制度を設けられている企業さんは、法に抵触する部分がないか再度ご確認されてはどうでしょうか?

当事務所では、裁判員制度の施行に伴う、労務管理や就業規則の見直しのご相談を承っております。

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この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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