“サービス残業対策”として提案される方法で“所定残業”“固定残業”“定額残業”という考え方があります。この方法というのは、残業時間を例えば、20時間なら20時間と固定して、どの月も20時間の残業があったものだとみなして、20時間分の残業代を固定的に毎月支給するというやり方です。

この管理方法に適する労働者というのは、ずっと外出をしている、あるいは直行直帰スタイルで社内で営業時間を把握できない営業社員や、スペシャリスト的な業種で仕事の進め方等を、事業主が指示するのではなく、労働者自身の裁量で決めていく必要がある、いわゆる“専門業務型裁量労働制”に該当する労働者の労働時間管理には向いていると思います。

 しかし、内勤で会社内で労働時間をきっちり把握できる状況の労働者もこのような“所定残業”“固定残業”という方法で労働時間管理をすることに関しては、私個人としては疑問を感じます。

と言いますのは、“きちんと管理すれば発生しない無駄な経費の削減策”いう観点から見た場合にあまりメリットが出てこないわけです。

まず、所定残業20時間という決め事をするのであれば、例え20時間未満の残業しかない月であっても、“20時間分の残業手当は保障しますよ!”という労働者有利の約束事が出来上がってしまうわけです。

それにも関わらず、20時間を超過する月に関しては、例え“所定残業20時間”という決め方をしていたとしても、20時間超の部分は別で支払わなければ、労働基準法24条の“賃金全額払い”の違反行為と解釈される可能性があるわけです。

この場合、経営者が“うちは残業時間は月によって変動するけど、年間平均したら、月20時間くらいなんだから、20時間の所定残業代を月々払っていればそれ以上払う必要がないじゃないか!”という抗弁をしたとしても、その抗弁は通用しないでしょう。なぜなら、労働基準法24条で、“給与全額払い”“一定期日払い”の規定が謳われており、“一定期日(通常は1月)で締めた賃金に関しては全額払わなければならない”となっており、残業手当ももちろん給与の中の一つですから、この法則に従わざるを得ないのです。ですから、25時間残業したにも関わらず、所定残業分の20時間しか支給しないということは、この“賃金全額払いの違反”となる可能性が高いのです。

“20時間未満の残業でも20時間分支払わなければならない。“20時間を越える残業にはその時間分きちんと払わなければならない。”ということになるのであれば、ムダをなくす対策としてはメリットはないのではないでしょうか?

“労務管理や給与計算が簡略化できて楽になりますよ!”というメリットもあるかも知れませんが、それ以上にこの制度を取り入れたところで、経営者が従業員の労働時間を把握する義務が免除されるわけではないということは理解する必要はあると思います。所定残業で定められた時間を超えた場合はその時間分の全額の残業代を支払う必要があるわけですから、労務管理の煩雑さの解消にメリットがあるのかどうかということに関しては、個人的には疑問を感じます。

以上のような理由で、当事務所ではいわゆる“みなし労働時間制”に該当する営業職の方や、“裁量労働制”に該当する専門職の方、長距離のトラックドライバー等の長時間労働が業態となっている方には一定のメリットは享受できる部分はあるにしろ、それ以外の内勤の一般職の方には“所定残業”“固定残業”の導入に関しては推奨しません。前述した“変形労働時間制”や“許可制”等の合理的なサービス残業対策を立てていくべきだと考えます。

当事務所では定額残業代のリスクを回避する賃金制度再構築の提案を行っております。

                  

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この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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