就業規則を制定するということは、ただ単に“労働基準法上に定められた義務だから”というだけではありません。
就業規則を制定すること、あるいは、息吹を吹き込んだ就業規則に変更することは色んな効果を結果的にもたらします。
その一つが従業員との無用なトラブルが回避できるということです。
一つの例として懲戒規定を設けることのメリットをお話しましょう。
法律の基本的な考え方として、人に懲罰を与えるためには、どのようなことをすると罪になり、その罪に対してどのような罰を与えるのか、ということを法律等によって明文化された根拠がなければ、人を罰することができないという考え方があります。これを罪刑法定主義といいます。
この明文化された根拠というのが、日本の法律でいうところの、刑法であり、地方自治体でいうところの条例であるわけです。国も地方自治体も明文化された法律、条令があるからこそ、その条文に基づいて人を処罰できるわけですね。
この明文化された根拠をいうのが、会社でいうところの就業規則なわけです。
よって、この罪刑法定主義の考え方からいくと、就業規則がない事業所、あるけれども、懲戒規定を設けていなかったり、あいまいであったりする会社は懲戒解雇を含めて、従業員に懲罰は与えられないという解釈になってしまいます。
ということになると、売上金を横領や着服するような従業員や、無断欠勤をずっと続けている従業員など、従業員側にどう考えても責任があるという場合に対しても、理論上は会社は彼らに対しては何の懲罰も与えられないということになってしまいます。
いざ、このような従業員を懲戒解雇した場合で、その従業員が解雇の不当性を民事上訴えて出たケースでは、残念ながら裁判所はこの“罪刑法定主義”の考え方を指示しており、結果的に会社側に賠償命令を出しているケースが多いように思います。
上記のようにつまらないことで、いざトラブルになっての金銭的、時間的、精神的な損出を防ぐためには就業規則の制定、きちんと機能するために息吹を吹き込んだ形での見直しが不可欠であるといわざるをえないでしょう。