幼稚園、保育所の労働時間管理、勤怠体系の考え方

幼稚園、保育園、認定こども園の労働時間の設定方法

 ①法令適合

   ②柔軟対応(急なシフト変更時)

      ③人件費的観点(残業手当対策) 

                の三面からの考察

 

 こちらの記事では、幼稚園、保育所の適正な労働時間の設定の考え方を解説していきたいと思います。貴園の業務形態にふさわしい労働時間の設定のヒントとなれば幸いです。

 

 保育所の勤怠体系ー基本的な考え方

 保育所は大まかに『認可保育所』『認可外保育所(企業主導型保育事業含む)』の2つに分かれます。両者の中でも運営上、行政からの締め付けが厳しいのは『認可保育所』のほうになります。認可保育所はサービスの提供日数、時間数や職員配置基準に至るまでかなり厳しく運営基準が設けられ、保育所側の都合によって稼働日数、時間、配置職員数が減らせない等の環境下にあります。そういった環境下においての各職員のシフト管理ということになると、

      ①法令に適合すること

      ②柔軟対応(急なシフト変更時)

    を主に重視させながら、マンパワー的に余裕があれば、

     ③人件費的な面  及び

     ④職員のワークライフバランス的な側面

       を見ていくという優先順位で勤務形態を考えるということになります。

 法令に適合するとは?)

 労働基準法上の法定労働時間は1日8時間以内、1週間40時間以内(労働基準法32条)と決まっています。その例外として、一定期間内における週の平均労働時間が40時間以内という条件下で繁忙な日や週にそれぞれ、8時間超、40時間超の労働時間を設定することができます。いわゆる『変形労働時間制』ですね。

 認可保育所や幼稚園では原則週6日稼働している施設がほとんどだと思われますが、『担任制』を引いている関係で、まだまだ正規雇用の職員に対しては週休2日の導入に踏み切れない事業所も多いかと思います。週6日勤務の場合の以下の2つの例をご覧になってください。

 

 事例1)

曜日 合計
労働時間 休日 7h 7h 7h 7h 7h 7h 42h>40h

 いわゆる『9時〜5時(休憩1時間)週6勤務』ですが、1週間の合計の勤務時間が40時間を超えてしまっているので、法令に適合しません。何らかの手続きを踏まないと法違反となり労基署からの指導、罰則付与の対象となります。

 

  事例2)

曜日 合計
労働時間 休日 7h 7h 7h 7h 7h 5h 40h
 

 こちらは法令に適合した例です。基本的には週6日勤務ですが、閑散な開所曜日の所定労働時間を若干縮小し、週所定の労働時間を法定労働時間である40時間に収まるように調整したケースです。ただ、開所時間が長く、深夜の開所もあり得る認可保育所では特定の曜日だけ勤務時間を短縮することは難しいかもしれません。その場合は職員配置基準を満たし、かつ、各スタッフの労働時間が週40時間を上回らないようにシフト管理を工夫する必要があります。

 

 変形労働時間制の活用)

 業務の都合上どうしても事例1)のような勤務体系を敷かなければならない場合は、法令に適合させるため、いわゆる『変形労働時間制』を導入する必要が生じます。

 変形労働時間制とは、前述した通り、任意の期間を設け、その期間中の週平均の労働時間を40時間以内とすることを条件に、一定手続きの下で、繁忙な日や週にはそれぞれ8時間超え、40時間超えの労働時間の設定を可能とする方法です。

 保育所、幼稚園で検討対象となる変形労働時間制には1カ月以下の期間で調整する方法(1カ月単位変形)と、1年以下の期間で調整する方法(1年単位変形)の2種類がありますが、導入に当たっては手続きの煩雑さや急なシフト変更への柔軟度など色んな側面から検討する必要があります。以下の比較表をご参考になさってください。

 

変形労働時間制導入のメリット・デメリット)

  手続き・メンテナンスの煩雑さ 繁閑に応じたメリハリのある働き方 急なシフト変更時の柔軟性 人件費的観点(残業の調整弁的役割) 労働時間・休日の制約 職員のワークライフバランスの観点 対象者の制限
変形労働時間制を導入しない場合 ×   ×
× 
きつい(1日8h、1週40h、原則1週1休を厳守)
×  
1カ月単位変形  さほど煩雑ではない
 
× 但し、全否定されるわけではない*注釈)参照 
〇 緩い(1日、1週の労働時間は上限なし)
 (1勤務日の所定労働時間を長くとることで週休3日制も可能) 妊産婦の適用には一定の制限あり。年少者は適用除外
1年単位変形 × 手続き、メンテナンスとも煩雑 × 但し、全否定されるわけではない
*注釈)参照 
△ 一定の制約は受けるが自由度はある 〇 (1勤務日の所定労働時間を長くとることで週休3日制も可能)  妊産婦の適用には一定の制限あり。年少者は適用除外
 

*注釈)変形労働時間制は使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提にした制度であるので原則的には、単なる業務の繁閑等を理由として休日振替は行えない。ただし、労働日の特定時には予期しない事情が生じた場合における休日振替も認めない趣旨ではなく、そういった場合は一定の条件の下で休日振替が認められる(行政通達:平成一一・三・三一 基発一六八号)

 ⇒変形労働時間制において、急なシフト変更時の対応が全くNGというわけではない。

 

 上記の表を参照し、どの要素を重視した労働時間の設計を行うのかは、各施設の抱える悩みや事情を考慮したうえで検討しなければなりません。例えば、慢性的にマンパワー不足で職員配置をカツカツで回しているような認可保育所では、何よりも『急なシフト変更時の柔軟性』を重視して検討しなければならないでしょうし、逆に認可外保育所でマンパワー的に比較的余裕のある施設であれば、『人件費的な視点』やリテンション策(離職防止策)として、スタッフのワークライフバランスを考慮にした設計も可能になるでしょう。

 変形労働時間制の導入の有無や、導入するとしたら、どの変形期間を採用するのかは各施設の現状を考慮して検討する必要があります。

 ただし、これは私見ですがシフトの柔軟対応に難ありということで、変形労働時間制の現場での運用を見送った施設であっても、『1カ月単位変形制』については使用者裁量で導入できる根拠は設けておいた方が後々(退職直前のトラブルが起こった時等)何かと便利かと思います。

 

幼稚園の勤務体系ー繁閑のメリハリを活用した設計に

 幼稚園については、前述の保育所ほどは行政機関からの厳格な労務管理を要求されませんので、法令に適合している限り、労働時間の設計にはある程度の自由度はあるといえるでしょう。

 幼稚園の場合は、小中学校と同様に土曜日の園児の在園時間は『半ドン』の事業所が多いと思いますので、上記の事例2のケースのように、土曜日の所定労働時間を少し削ることで、法令に適合する設計に合わせることも比較的容易かと思われます。

 園内の年中業務を見渡すと遠足や運動会等の園内行事が目白押しの学期がある一方で、長い夏季休暇等で直接園児と接する業務からはしばらく遠ざかる期間もあり、非常に繁忙、閑散の差がある業務だと思います。

 もし、労働組合からの反対など導入への障壁がないのであれば、当事務所としては幼稚園の勤務体系として『1年単位の変形労働時間制の採用』を推奨します。幼児教育の現場は1年間という期間の中で繁忙期、閑散期がわりとはっきりと区分けできるので、繁忙閑散のメリハリのある働き方のできる「1年単位変形制」がフィットします。

 幼稚園が『1年単位の変形労働時間制』を導入するメリットは上記の表にも纏めていますが、改めて2点に絞り解説したいと思います。

 ①人件費(残業代)対策

 1年単位変形制は1日8時間、1週40時間にとらわれずに、繁忙期には多めの所定労働時間を割り当てることが可能(ただし一定の制限あり)となります。その分、閑散期で調整し、年間の週平均の所定労働時間が40時間以下であれば、割増賃金は発生しない制度です。繁忙期、閑散期のメリハリのある働き方がそのまま残業代(割増賃金)の調整弁として機能する便利な制度です。

 ②スタッフのリテンション策(離職防止策)

 「1年単位変形労働時間制」はうまく運用すれば、週休3日制の実現も可能な制度です。もちろん、クラス担任制であり担任として業務に穴は空けられない事情も理解しますし、また園内行事が立て込む繁忙期には休日を増やすことは難しいでしょう。ですが園児が登園しない夏季休暇中等の閑散期には教諭たちのワークライフバランスを検討することも可能になるのではないでしょうか。繁忙閑散のメリハリを享受することで、幼稚園教諭たちの仕事と私生活の双方の充実が可能となり、こういった職場環境の提供が離職率の改善につながるケースとなりえます。

 

 保育所、幼稚園の労働時間設定の考え方を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?労務管理において、各々の施設にどのような悩みがあり、どこに重きを置くかということで、労働時間の設定手法も変わってくるということがご理解いただけたならば幸いです。

 

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この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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