幼稚園・保育所ートラブルを防ぐ就業規則作成のポイント!

幼児教育業界、保育業界における就業規則の重要性

 これはどの業界でも例外なく言えることなのですが、就業規則の作成し、従業員に対し周知することにより、労務トラブルのリスクを軽減、回避することができます。

 幼稚園、保育業界はその労務環境の特殊性もあり、要点を炙り出した策を講じることにより、就業規則によるディフェンス効果は一層高まります。労使トラブルのリスク回避はもちろんですが、更に付け加えると、特に保育業界では市区町村等労基署以外の行政機関からの定期監査で就業規則の提示を求められることが多く『法律上作成義務があるにも関わらず作成していない』『作っていても法令違反が散見される』ということになると、労基署の監査レベルでは期日を設けて是正を求める『行政指導』で済むものが、市区町村の監査では事業者名の公表や認可の取り消し等厳しい措置を採る自治体もあるようです。

 それはそのまま、近隣に住む住人、つまり各園にとっての今後利用してもらう可能性のある将来の見込み客に対する風評被害にもつながることになりますので、そういったことも含めて就業規則は『きちんとしたもの』を導入しておきたいものです。

 こちらのコラムでは、幼稚園、認定こども園、保育園の就業規則作成・変更に際してのチェックポイントを10項目に絞って解説していきます。

 

 Point1  労働条件変更の担保がされてますか?

 (特に)保育業は、事業者、法人の意向に関わらず、国や地方行政の意向や制度の変化が従業員の労働条件に影響を及ぼす可能性のある業種でもあります。加えて、今般のコロナ禍の教訓としてわかるように、保育業界、幼児教育業界ともに社会情勢の変化が従業員の労働条件に影響を及ぼすことも想定しておかなければなりません。社会情勢の変化、あるいは行政側の制度変更に則した労働条件の変更(給与の不利益変更も含めて)が担保されている条文が入っているかは、是非チェックしておきたい項目です。

 Point2  近隣住民等『外部の視線』を意識した服務規程が設けられてますか?

  これは相対的に若い職員が多いとされる保育業が特に留意する必要があるのですが、通勤時における外部からの視線を意識づける服務規律は必要かと思います。「仕事上の装い」と「私生活でのおしゃれ」にけじめをつける意味でも服装、化粧、髪型等の身だしなみも奇抜と映らないように律するような条文も必要でしょう。また保護者や近隣住民の目につく場所での喫煙も園へのクレーム対象になりかねません。一定のルールは設けておくべきでしょう。

 Point3  必要かつ充分な業務命令権が確保されていますか?

  危険回避能力がまだ備わってなく、予測のつかない行動をとる乳幼児と接するという業務である以上、突発的に起こる緊急事態の際の労務対応は想定しておくべきです。加えて、保育園は国や行政機関からの配置基準を満たした一定の職員数以上の勤務体制を引くことを求められますので、急な職員の欠員時の対応も想定しなければなりません。そういった緊急時に備えるには時間外労働、休日労働、振替休日、他施設へのヘルプ勤務等、施設側が適切な業務命令が出せる根拠条文が記載されているか一度チェックしてみてください。

 Point4  休憩時間の与え方…『手待ち時間』と言われないように。

  法律上の休憩の概念というのは『労務からの完全な開放』ということになります。よって、労務からの完全に開放された状態とはいいがたいのであれば、『手待ち時間』ということで労働時間にカウントされてしまいます。保育園、幼稚園の休憩は一般的に園児の給食時間中、あるいは園児の午睡中に交代で休憩を取らせることが多いと思いますが、“建前上は”休憩時間であったとしても、何か起これば対応しなくてはならない状況であれば、『休憩』ではなく『手待ち』と判断されるリスクもあります。適切な就業規則の条文表現と休憩時間の運用で『手待ち』と判断されるリスクを減らしましょう。

 Point5  ヒヤリ・ハットやその防止策の共有

  幼い命を預かるという業務、しかも『危険なこと』の認識力がまだ備わっていない乳幼児と接する仕事ということを考えた場合、日常業務で『ヒヤリとすること』『ハッとすること』もそれなりに多いはずです。たまたま大事故につながらなかっただけで、『ヒヤリ・ハット』の段階で何か施設として対策を打たなければ、今後賠償が発生するような乳幼児の死傷事故につながるリスクも顕在しているはず。『命を守る』という職務上の使命感が職員のストレス原因の一つになっていると思えますが、業務上起こりえる『ヒヤリ・ハット』とその防止策が職員全員が共有できれば、精神的負担もかなり軽減できます。就業規則はこういった場面では職員の教育ツールとしての効果も発揮するのです。

 Point6  ハラスメント規程の整備

 2019年12月に静岡県内の私立の認可保育所で園長らのハラスメントが原因で現場の保育士たちが一斉に退職したという事件が大きく報道されました。こういったことが起こると、現場の戦力ダウンや園児離れもさることながら、風評面でのダメージも計り知れません。とかく、幼稚園、保育所は『先輩後輩間の暗黙の不文律』や『序列重視のしきたり』なんかが存在するケースもよく見受けられますので、当方の私見ではハラスメントが起こりやすい環境であると感じております。また、『パワハラ防止』については*義務化されることを鑑みて、現行のハラスメント規程がきちんと法令に準拠したものになっているかを一度チェックされることをお勧めいたします。施設に余裕があれば、年1回程度は主任、園長等の上級職員向けにハラスメント研修を行うことができれば、更なるリスク回避策になるでしょう。

 *令和2年6月より大企業には既に義務化されており、中小事業者には令和4年3月末までは努力義務とされ、その後義務化される予定となっています。

  『パワハラ防止法』の詳しい解説ページはこちらから

 Point7  衛生面の規程ー感染症対策

 免疫機構がまだ十分に発達していない保育園児、幼稚園児を預かる立場としては、感染症対策はきちんと条文化しておきたいところです。また、新型コロナウィルス感染症が世の中の脅威となっている現在は『With コロナ、After コロナ対策』としても非常に重要な部分です。園内における集団感染、集団食中毒はもちろんのこと、職員自身もしくは同居の家族、近隣の住民等が何らかの感染症に感染した場合を想定し、施設側が必要な措置を講じる命令権を担保しておく必要があります。さらに給食業者に外部委託することなく、調理・調乳の専門職員を施設が直接雇用しているのであれば、検便に何らかの陽性反応が出た場合のその職員の処遇等も併せて明文化しておくべきでしょう。

 Point8  職場にコスト意識の定着を!

  幼児教育を担う教育者として、また1社会人としても、モノを大切にする行為は、職員自らが模範を示すことで、入園している乳幼児にもよきお手本になるはずです。加えて、認可保育所等はサービスを提供すれば提供するほど、底なしに事業が潤うというビジネスモデルではなく、児童の定員をマックスまで受け入れれば、それ以上の収入は見込めないという施設がほとんどだと思われます。職場の消耗品や文房具等を大切に使う等、コスト意識を定着させるための服務規程は入れておくべきでしょう。経営上の負担を職員全員でカバーするという意識付けを就業規則で示しましょう。

 Point9  有給取得ーきちんと業務が回るように運用されてますか?

 有給休暇の取得ルールについては、職員側の時季指定権(職員が休暇取得したい日、期間を指定できる権利)等の法令を尊重したうえで、使用者が施設の業務がきちんと回るように主導権を持って運用しなければなりません。特に配置職員数が国によって定められている認可保育所は、それらのバランスを取って休暇の運用を行うことは非常に悩ましい部分ではあると思います。職員本人や養育する子供の体調不良など、急な休暇申請がやむを得ないものは別にして、職員配置に極力影響が出ないような休暇取得のルールを就業規則に明記しておくことは非常に重要です。

 幼稚園については、園児の長い夏休み等がある一方で行事が目白押しの学期もあったり、繁忙期、閑散期がはっきり分かれる業種だと思われます。閑散期に有給取得を推奨したり、場合によっては計画的付与を用いて、繁忙期の業務運営に支障のない体制を整えておきたいところです。

 Point10  入職、退職時のルールの設定および強化

 ユニフォーム、名札等の貸与物は、入退職時のルールをしっかり設けないと、貸与物の返還がないまま、あるいは紛失した状態で退職されてしまうということも頻繁に起こります。それ以外でも、入職時において自動車、単車、自転車通勤を許可するのであれば、通勤途上事故のリスクを見越して一定の許可基準を設ける等のルール決めをしておいた方が施設側のリスク軽減につながります。有資格者を証明する証書も入職時きちんと提出を命じる規定を明文化しておくべきでしょう。また、業務上知りえた情報や園児、保護者等の個人情報の取扱いについても入職時、退職時にルール決めをしておかなければ、漏洩、持ち出しの危険も考えられます。入退職時の一定の取り決めはしっかり行っておくことが後々のトラブル防止に繋がります。

 いかがでしょうか?要点を10項目に絞って解説させていただきましたが、幼稚園、保育園の労務管理の留意点については、まだ書き足りないこともたくさんあります。

 当事務所では幼稚園、保育園、認定こども園の就業規則の作成・改訂をお力添えさせていただいております。上記10項目プラスアルファの労務リスクを就業規則の強化で回避しましょう。

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この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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