幼稚園、保育所、認定こども園が抱える『いまそこにある労務問題』

人手不足…

 メンタルヘルス不調…

  キツい労働に報われない処遇…

 保育所、幼稚園、認定こども園が抱える「いまそこにある労務問題」とは?

 

慢性的な保育士不足問題

 『待機児童問題』という言葉がマスコミ媒体を騒がせて久しいですが、今もこの問題は終結されたわけではなく、大都市近郊を中心に待機児童率は高水準で推移しています。これは単純に施設数が足りないという問題だけではなく、保育士の人材不足問題にも絡んできます。

 施設を運営するためには、定員に沿った保育士の確保が必須でありますが、保育士資格を保有していても、低水準の賃金という先入観から保育士という仕事を選ばない“ペーパー保育士”が潜在的に多く存在したり、勤めていてもキツい割には金銭的に報われない仕事であるため、長期勤続したところで『素敵な将来像』がイメージできずに保育業界から他業種に早期に『転職』するケースもよく耳にする話です。

 また、昨今は企業主導型保育事業所も含む認可外の保育施設も増えてきていることから、慢性的に補足している現職保育士の全体のパイを多くの施設で奪い合う状況にならざるを得ない状況が続いています。

 

  平成30年度の全国平均の有効求人倍率:保育士  3.64倍

               (**全職種平均 1.63倍)

 

保育業界・幼児教育業界に潜む労務管理の落とし穴

 では、どうして上記のように保育士という仕事が『素敵な将来像』が描けずに、業界を離れる人が後を絶たない、あるいは資格保有者であってもあえて保育士の仕事をあえて選ばないのでしょうか?

 

大まかに以下の4つの労務絡みの落とし穴が原因ではないかと思います。

**幼稚園教諭も小学校就学前の幼い児童に接する業務という保育士との類似点から同様の懸案が存在すると推察します。

 

落とし穴ーその1

  メンタル不調のリスクが顕在する職場環境

 これは、保育士だけではなく、幼稚園教諭にも言えることなのですが、『危険なこと』『危ないこと』の認識力・判断力が備わっていない、乳幼児、園児の命を預かるといったストレス、緊張感ももちろんありますが、それに加えてこの仕事でメンタル不調の主な温床と考えられるのはクラス単位の担任制です。この『担任制』により向こう1年間は密に接する人間が固定してしまうということになります(児童、保護者、同僚etc.)。

 密に接する人間関係が良好であれば、何の問題もないのですが、保護者や同僚、上司、学年主任等と1年間過ごす固定メンバーとの相性が悪ければ、教諭、保育士のメンタルヘルスに影響が出やすい職場になってしまう可能性は総じて高いと言えるでしょう。現にこういった環境でメンタル不調に陥り、休職や退職を余儀なくされるケースも少なからず見受けられます。

 人間関係が必ずしも良好とは限らない環境下で職場定着率を改善するためには、職員たちのハラスメント防止の意識の植え付けと同時に、職員たち、教諭たちの『心を鍛える』という試みの必要性も生じてくるのではないかと思います。

 

落とし穴ーその2

 仕事の守備範囲が不明瞭

  保育所、幼稚園、認定こども園は小学校就学前の乳幼児のための福祉機関、教育機関という似たような側面が持ちながらも、それぞれで管轄する国の機関や管掌する法律が異なっています。

 保育所は厚生労働省の管轄で、児童福祉法という法律に管掌され、幼稚園は文科省管轄で学校教育法に規定されています。また認定こども園については内閣府の管轄で認定こども園法という法律が根拠となります。

 その各法律の中で、それら施設に勤める『保育士』『幼稚園教諭』の求められる職業像が法律あるいは告示等でに落とし込まれているのですが、それら告示等を読み込んでも各々の職域、守備範囲が非常にあいまいな記載となっています。

 例えば、厚生労働省告示である『保育所保育指針』では保育士に求める職域、守備範囲として『入所する子どもの最善の利益を考慮』『家庭、地域の様々な社会資源との連携を図り』『その職責を遂行するための専門性の向上に絶えず努めなければならない』等の極めてあいまい、不明瞭な表現に終始しており、保育士が提供する労働には『ゴールが見えない』『どこまでやっても限界を満たさない』というように受け取れます。

 こういった表現は受け取り方によっては『身を粉にしてでも子供たちのために』というようにも解釈できるわけで、その精神は立派といわざるを得ません。しかしながら、片や労務上のリスクとという点で捉えると過度に各施設内、園内でこのような精神が『さも当然』という雰囲気が広がってしまうと、保育士や幼稚園教諭の長時間労働を助長するリスクやメンタルヘルス不調のリスクと常に隣り合わせの職場ということになってしまうわけです。

 

 落とし穴ーその3

  明確なキャリア構築を描きにくい

  幼稚園教諭、保育士といった職種は、複数施設を運営する大規模な学校法人、社会福祉法人等に勤務する場合を除き、一般的には勤務地がほぼ1つの施設(園)での従事に限定され、引っ越しを伴うような転勤したり、異動したりということはレアケースかと思います。

 職員のキャリア構築という観点で見た場合、各々の成長段階に応じ、将来に向けた明確なキャリアパスを構築していきたいところですが、一つの仕事での従事ということに限定されてしまうと職位(ポジション)も同様に限定され、『担任』『(学年)主任』『園長(施設長)』のたった3つの階層のみとなってしまいます。

 この階層の少なさが原因で経営側も職員に対し、成長段階に応じたキャリアパスを明示しにくいのではないのかと推察します。

 こういったことがまだ比較的キャリアの浅い職員や入職間もない若い保育士や幼稚園教諭の長期勤務へのモチベーションを削ぐ一つの要因、つまり『素敵な将来像』がイメージできないということでの離職理由の一つとなってしまいます。

 ポジションや階層がさほど多くないにしろ、職員たちが自己の成長過程や将来をイメージできるようにキャリアパス制度(資格等級制度等)は是非とも構築しておきたいところです。

 

 落とし穴ーその4

  生産性を上げにくい業務内容

  保育士、幼稚園教諭の主たる業務は、コミュニケーション能力が途上中の小さな子供と接するという人対人の仕事であるがゆえにAI化で簡略できるものではありません。少し古い資料(平成22年)ではありますが厚生労働省が開示している『保育士に関する関係資料』で保育士が1日の業務でどのような業務が発生し、各々の業務でどれくらいの時間がかかっているのかということがわかります。

 この資料を見ていくと、ただでさえ大変な子どもと直に接する業務(室内遊び、食事介助、就寝援助等)以外にも間接的な業務も結構頻出し、しかも時間的にも手間のかかる仕事として発生しているのがわかります。

 以下の統計をご覧いただければ、

  ①AI化に馴染まない業務がほとんどであること

  ②生産性を上げていくにはかなりの創意工夫が求められる

  この2点がお分かりになると思います。

 

 こういった業務内容が長時間労働の温床となってしまい(特に保育業界での)短期で離職する原因の1つとなってくるものと思われます。

 国策としての「働き方改革」が昨今取沙汰されますが、安心して働ける職場環境の整備のためにも、職員たちにタイムマネージメントの重要さを認識してもらい、生産性を上げていく意識改革も必要かと思われます。

 例えば、以下の表でもお分かりいただけるように、保育所で最も生産性を阻害する要因の一つは間接業務にある『会議』です。この『会議』についても、職員に『ファシリテーション=仕切り』の技術が身につけば、短時間で効率的な会議の運営が可能になります。

 子どもと直接接しない間接業務とその頻度

  業務 1勤務当たりの平均業務時間(分) 1勤務当たりの発生率
会議・記録・報告 53 100%
連絡帳 14  93%
 掃除  10 100% 
 保育計画策定・準備・調整  9 100%
保育記録の調整・保存  61%

子どもと直に接する主たる業務とその頻度)

業務 1勤務当たりの平均業務時間(分) 1勤務当たりの発生率
室内遊び 63 100%
表現活動への支援 38  98%
スキンシップ 32  78%
食事摂取の援助 29 100%
挨拶・日常会話 26  99%
就寝の援助 25  77%

引用元:厚生労働省「保育士等に関する関係資料」

「新たな次世代育成のための包括的・一元的な制度」設計に向けたタイムステディ調査

    (みずほ情報総研)

 

上記の4つの『落とし穴』を埋めるために…。

 当事務所はその解決策を用意しています。

 私たち社労士は労務リスクを回避する予防士です。もちろん就業規則等の改訂等で顕在的な労務リスクの防御のアドバイスも行っていきます。しかしながら就業規則だけで4つの落とし穴をすべて埋めていくことは難しいのではと思われます。

 なぜなら『メンタルヘルス不調対策の職場環境の整備』『生産性向上の意識づけ』『ゴールの設定』『キャリア構築』などは、より積極的に職員さんに意識の植え付けをしていかないとなかなか解決しにくいのではないでしょうか。

 当事務所では職員さんたちへの意識付けのための『各種研修制度』のご提供や職員さんたちのモチベーションアップのための『キャリア構築制度』のご提案等、より積極的な働きかけで保育士さん、幼稚園教諭の先生方に『より素敵な将来像を描ける』職場環境の整備にお力添え致します。

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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