改善基準告示とトラック運送業の労働時間管理のポイント

『トラック運転者の労働時間等改善基準』が大きな壁となる運送業界の労務管理

 

トラックドライバーの主な就業形態は大きく分けて次の3パターンになると思われます。

 ・地場輸送

  地元を中心とした一般的な輸送形態で、その勤務形態は会社や個々のドライバーによって異なるが、原則1日完結型の仕事となるので暦日をまたぐような形態とはならない。

 ・作業輸送

  引越し便や倉庫でのピッキング作業を含む、『運転以外の業務もありき』の勤務形態で運転時間と同等またはそれ以上に積荷作業の労働時間占有率が高い。

 ・長距離輸送

  片道距離が300km超の輸送を業態とするもの。業務が1日で完結することは物理的に不可能となるため、車内での仮眠等が必要となる。長時間労働、過重労働の温床となりやすいため、しばしば、行政からの指導対象のターゲットとなることもある。

 

トラック運転者の長時間労働を抑制する『改善基準告示』とは…。

 原則の労働基準法における労働時間の規制は1日8時間以内、1週40時間以内ということだけです。しかしながら、自動車運転者においてはその勤務の特殊性や過重労働による事故の発生のリスクを考慮し、上記労基法の規制に加え、『改善基準告示』というドライバーのみに適用される規制が設けられています。

 

 改善基準告示での主な規制内容としては

定義区分 規制内容
*拘束時間

原則:1ヶ月293時間

ただし、労使協定締結により、1年のうち6ヶ月までは、年間の拘束時間が3,516時間を越えない範囲内で1ヶ月320時間まで延長可

1日の最大拘束時間

 原則:13時間以内

例外:最長16時間以内(15時間超は1週2回まで)

**休息期間

 1日継続8時間以上

(ドライバーの住所地での休息期間が、輸送先等や中継地での休息期間より長くなるように努めること)

 

連続運転時間

 4時間

*運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に30分以上の休憩等(積荷作業も中断事由となる)を確保することにより、運転を中断しなければならない。

(4時間以内での分割休憩や運転中断も可。例えば1回につき10分以上、かつ合計30分以上としてもよい)

トラック運送業の改善基準告示における規制時間の概念、用語の定義

  労働時間=運転時間+作業時間+手待ち時間

  拘束時間=労働時間+休憩時間

  休息期間=1日24時間−拘束時間

  (休息期間は勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠を含むトライバーの自由時間、生活時間と定義される)

 

トラック運転者の労働時間管理を困難にしているのは、純粋な『労働時間』だけの規制だけではなく、上記の改善基準での『拘束時間』『休息期間』『連続運転時間』等の規制であり、長距離輸送が業務の中心となる運送業者さんにとっては、遵守することが非常に困難な場合がケースもたびたび見受けられます。

 また、運送業者さん側が法令遵守の自助努力をしたとしても、荷主側の都合により中々労働時間が減らせないという事情もあるでしょう。

 そういった運送業者特有の逆風のなかで、どのように労働時間管理を行っていけばよいのでしょうか?まずは、『労働時間』を特定し、それを法に準拠するようにマネジメントすることが、対策の一歩だと思われます。

 

 マイクロマネージメントの推奨

 トラックドライバーの労働時間管理を難しくしている原因の一つとして、『非運転時間』の扱いが労働時間にカウントすべきか否かが不明瞭であることです。非運転時間でも休憩しているのか、運転以外の作業をしているのかを、きっちり明確に判定できるような、管理体制の構築は必須となってきます。

 マイクロマネージメントとは、『箸の上げ下ろしのような細かいところまで指示する』管理方法のことを言います。ドライバー業務は内勤ではないので、何から何まで業務を指図するという形態には向かないと思いますが、少なくとも労働時間、休憩時間や休憩場所の特定等はきちんと経営者側も把握していないと、労働時間に算入する必要のない非運転時間まで労働時間とされてしまう可能性があります。

 ここはしっかり、タコグラフやデジタコのチャート紙上などのあらゆるツールを使い、『運転時間』『非運転時間』を特定し、非運転時間=非労働時間と立証できるような管理体制を確立したいところです。

 上記トラック運転者の改善基準での『連続運転時間は4時間以内、30分以上の非運転時間の確保の義務』がありますが、この規制をうまく活用して、オン・オフの切り替えを管理する体制を構築し、就業規則に落とし込んでおく方法を取れれば、非運転時間を労働時間と判定されるリスクは格段に改善できます。

 また、長距離輸送の場合はどうしても労働時間が算定しづらいことがあろうかと思われますが、その場合は多少強引な類推方法でもよいので、労働時間の算定を行っておくことが大事になります。

 ただ、その際は適当に決めるのではなく、過去の実績やテスト走行等の確固とした根拠に基づいた行き先ごとの『標準労働時間』というものを算定しておくのも一つの方法です。

 

参考)働き方改革による時間外労働の年間上限時間の設定

 2019年4月に労働基準法の抜本的改革(いわゆる‘働き方改革’)が行われ、残業時間の上限時間が1か月、1年とそれぞれ設定されました。自動車運転業務は原則これらの適用除外業務となっていますが、2024年(令和6年)4月より年間の時間外労働の上限が960時間という適用のみ受けることとなります。月ごとの上限時間の管理や2か月〜6か月の平均残業時間の管理を強いられる一般業種と異なり、運送業者様はさほど制約がなく、比較的融通が効きやすいと思われますが、令和6年以降は単月ごとの残業計画を立て、実績管理はしっかりと行い、『貯金を使い果たして、年間の集計の最終月に残業ができない』というようなことにならないよう留意する必要はあろうかと思います。

 

 当事務所ではトラック運送業の労働時間管理方法、賃金体制や就業規則の見直しで労務トラブルのリスク軽減のお力添えができます。ご相談は以下のバナーより

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

免責事項

当ホームページは情報の掲載に関しては、万全を施すべく尽力しておりますが、サイト運営者の私見に基づく記述も含まれるため、全ての事案に対しての絶対の保証をしているわけではございません。また、法改正や制度変更の際は記事の更新が遅れることがあります。当ホームページ掲載の情報の取扱いに関しては、閲覧者の責任においてお扱いいただきますようにお願いいたします。当ホームページ掲載情報の扱いに際し、個人もしくは法人が何らかの損害を被ったとしても、児島労務・法務事務所ではその責任を負いかねます旨予めご了解下さい。

Copy Right:児島労務・法務事務所 2008

当サイト掲載コンテンツの全部または一部の無断複写・転載・転記を禁じます。

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
06-6673-7856

受付時間:9:00~18:00
定休日:土日祝祭日

大阪の社労士、就業規則の児島労務・法務事務所のホームページです。
就業規則の作成・変更を主力業務としている、大阪市住吉区の社会保険労務士です。元労働基準監督署相談員・指導員の代表社労士が長年の経験を活かし、御社にフィットする就業規則・賃金制度をご提供します。

サポートエリア)
最重要エリア)大阪市、堺市、吹田市等を含む大阪府下全域
重要エリア)京阪神地区、奈良地区
*オンライン(Zoom)でのお打合せにより就業規則作成、賃金制度構築等のサービスは全国対応可能です。大阪より遠方のお客様もお気軽にお尋ねください。

サービス内容のご質問、お見積もり依頼歓迎。

込み入った事案の労働相談は必ず事前予約下さい。(飛び込み対応は致しません)

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

06-6673-7856

<受付時間>
9:00~18:00
※土日祝祭日は除く

ごあいさつ

大阪の社労士、行政書士の児島です。私は10期勤めた労基署の相談員時代に、通算件数15,000件以上もの労働相談を受けてきました。また、年間に300件以上の民間企業・法人の就業規則のチェックを行っており、これらの経験で培った、労働トラブルの予防に対する引き出しの数の圧倒的な多さが当事務所の武器です。

就業規則の
児島労務・法務事務所

住所

〒558-0045
大阪市住吉区住吉2-5-28

営業時間

9:00~18:00

定休日

土日祝祭日