トラック運送業の現状・経営課題・労務上の課題について

トラック運送業界を取り巻く経営環境ー業界を直撃する5つの大きな壁

トラック運送業界を取り巻く経営環境

全日本トラック協会が発行する「経営分析報告書」令和5年度決算版によると、貨物運送事業の平均営業利益率はわずか0.6%にとどまっています。全産業平均が約4.8%であることと比較すれば、トラック運送業がいかに厳しい収益環境にあるかがわかります。とりわけ、車両10台以下の小規模事業者においては実に52%が営業赤字という深刻な状況です。

 

現在のトラック運送業界が直面する経営上の課題は、次の5つに集約されます。

 

1.深刻なドライバー不足の継続と加速

 厚生労働省の職業安定業務統計によると、自動車運転職の有効求人倍率は2.66倍(2026年1月時点)に達しており、全職種平均の約2倍という高水準が続いています。ドライバーの年齢構成を見ると、40〜54歳が全体の44.3%を占める一方で、29歳以下はわずか10%程度にとどまっており、若手ドライバーの確保が極めて困難な状況です。人手不足を理由とした廃業も増加しており、事業存続そのものに関わる課題となっています。

 

2.燃料費の高止まりが収益を直撃

 運送コストの構成比で見ると、最も大きいのが人件費で約40%、次いで燃料油脂費が14.9%を占めています(令和5年度決算版)。燃料油脂費は3年連続で上昇しており、中小規模の運送会社にとっては、燃料費の高騰が営業利益を一気に赤字に転化させるリスクと常に隣り合わせです。どれだけ営業努力をしても、燃料費という外部要因が利益を侵食する構造は、この業界の宿命的な課題といえます。

 

3.傭車依存の増大とそのコスト負担

 自社雇用でドライバーを確保できない事業者が傭車(外注)に依存するケースが増加しています。しかし傭車のコストは自社雇用より割高になることが多く、売上が増えれば増えるほど利益が圧迫されるという矛盾した構造に陥ることもあります。

 

4.物流2024年問題と2030年問題

 

 2024年4月より自動車運転業務に時間外労働の上限規制(年960時間)が罰則付きで適用されています。国土交通省の試算では、何も対策を講じなければ、2024年度には輸送能力の約14%(4億トン相当)、2030年度には約34%(9億トン相当)が不足するとされています。「時間外労働の制限→ドライバーの稼働時間減少→輸送能力の低下→収益の圧迫」という負のスパイラルに陥らないための経営判断が求められています。

 

5.改正物流効率化法(2026年4月施行)への対応

 

 2026年4月から、改正物流効率化法により特定荷主および特定運送事業者に対して物流効率化の取り組みが義務化されます。物流統括管理者(CLO)の選任義務、中長期計画の作成・提出、実運送体制管理簿の作成義務など、運送事業者側にも新たなコンプライアンス負荷が生じます。

 

トラック運送業特有の労務管理上の課題

 こうした経営環境の厳しさに加えて、トラック運送業は労務管理面でも他業種にはない二重の規制負荷を受けています。労働基準法に基づく規制に加えて、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)という、より厳格な規制がドライバーにのみ適用されるため、労働時間管理のハードルが格段に高いのです。

 

 さらに、トラック運送業に特有の歩合給を中心とした賃金体系が、労使間のトラブルを生みやすい構造となっています。これまでにも未払い残業代をめぐる訴訟や労働組合が介入した争議が数多く発生しています。

 

 賃金体系の整備は、労使紛争の予防という観点はもちろんのこと、ドライバーの採用力・定着率の向上という経営戦略的な観点からも極めて重要な課題です。退職金制度も含めた金銭的報酬は、ドライバーのモチベーションに直結するものであり、深刻な人手不足が続く運送業界において、「選ばれる会社」になるための基盤となります。

 

 本ページでは、トラック運送業における労務管理の急所として、改善基準告示に基づく労働時間管理、運送業にふさわしい賃金体系の設計、そしてドライバーの採用・育成・定着について解説いたします。

 

 燃料費という外部要因に振り回されても、従業員が安心して働ける環境を整え、良い人材を惹きつけ、その力を最大限に引き出す経営をしていれば、外的リスクも乗り越えられる ― 私たちはそう確信しています。

 

当事務所ではトラック運送業の労務管理、ドライバーの採用戦略・定着支援のサポートを提供しています。運送業特有の労働時間管理を反映した就業規則、最新の法令・判例に対応した賃金制度の構築はお任せください。                   

 

 

 当事務所ではトラック運送業の労務管理や人材(ドライバー)の採用・戦力化等でお力添えさせていただきます。運送業特有の労働時間管理を盛り込んだ就業規則、賃金制度、退職金の導入や戦力化・定着のための社員教育はお任せ下さい。

改善基準告示とトラック運送業の労働時間管理のポイント

トラックドライバーの主な就業形態

トラックドライバーの就業形態は大きく分けて次の3パターンになります。

 

地場輸送 ― 地元を中心とした輸送形態で、原則として1日完結型の業務です。暦日をまたぐような勤務にはなりにくい形態です。

 

作業輸送 ― 引越し便や倉庫でのピッキング作業を伴い、運転以外の業務もある勤務形態です。運転時間と同等またはそれ以上に荷役等の作業時間の占有率が高くなります。

 

長距離輸送 ― 片道距離が300kmを超える輸送を業態とするものです。業務が1日で完結することは物理的に不可能であるため、車内での仮眠等が不可避となります。長時間労働・過重労働の温床となりやすく、行政からの重点指導の対象となることが多い形態です

 

2024年4月改正の改善基準告示 ― 何が変わったのか

ドライバーには労基法の労働時間規制(1日8時間、週40時間)に加え、「改善基準告示」というドライバーのみに適用される追加規制が設けられています。この改善基準告示は2024年4月に改正施行され、拘束時間や休息期間の基準が大幅に見直されました。

 

改正後の主な規制内容は以下のとおりです。

 ドライバーには労基法の労働時間規制(1日8時間、週40時間)に加え、「改善基準告示」というドライバーのみに適用される追加規制が設けられています。この改善基準告示は2024年4月に改正施行され、拘束時間や休息期間の基準が大幅に見直されました。

規制項目 改正後の改善基準(2024年~)
1年の拘束時間 原則:3,300時間以内(労使協定により最大3,400時間)
1か月の拘束時間

原則:284時間以内(労使協定により最大310時間、年6か月まで)

1日の最大拘束時間

原則:13時間以内、上限15時間(14時間超は週2回までが目安)。ただし、宿泊を伴う長距離貨物運送の場合は週2回まで16時間まで延長可

**休息期間

継続11時間以上を基本とし、9時間を下回らないこと

 

連続運転時間

4時間以内。運転開始後4時間以内又は4時間経過直後に30分以上の休憩等を確保(1回おおむね10分以上で分割も可)。

**連続運転の中断時には原則として休憩を確保する必要があり、荷積み・荷下ろし等の作業による代替は特段の事情がある場合の例外的な取扱いにとどまる

トラック運送業の改善基準告示における規制時間の概念、用語の定義

  労働時間=運転時間+作業時間+手待ち時間

  拘束時間=労働時間+休憩時間

  休息期間=1日24時間−拘束時間

 **休息期間は勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠を含むトライバーの自由時間、生活時間と定義される

改正前と比較した最大のポイントは、休息期間が「継続8時間以上」から「継続11時間以上を基本、最低でも9時間」に引き上げられたことです。これにより1日の拘束時間の上限も実質的に短縮され、特に長距離輸送を主業務とする事業者にとっては、配車計画や運行管理の大幅な見直しが必要になっています。

 

時間外労働の年間上限規制 ― 罰則付きで適用済み

2024年4月より、自動車運転業務についても時間外労働の年間上限が960時間と定められました(労働基準法第36条)。違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。

一般業種に適用される「月100時間未満」「2〜6か月平均80時間以内」といった単月ベースの上限規制は自動車運転業務には適用されませんが、年間960時間の枠内で計画的に労働時間を管理する必要があります。年間の前半に残業が偏り、後半に稼働できなくなるような事態を避けるため、単月ごとの残業計画と実績管理を着実に行うことが大切です。

労働時間管理の精度を高める「マイクロマネジメント」の推奨

トラックドライバーの労働時間管理を難しくしている大きな原因の一つは、「非運転時間」の取扱いです。非運転時間が休憩だったのか、荷役等の作業だったのか、荷主都合の手待ち時間だったのかを、正確に判別できる管理体制を構築することが必要不可欠です。

 

マイクロマネジメントとは、業務の細部まで把握・管理する手法を指します。ドライバー業務は外勤であるため、あらゆる行動を逐一指図する形態には向きませんが、少なくとも労働時間・休憩時間・休憩場所の特定はきちんと経営者側で把握しておかなければ、本来は労働時間に算入する必要のない非運転時間まで労働時間として扱われるリスクが生じます。

 

デジタルタコグラフ、運行記録計、GPSによる位置情報管理等のあらゆるツールを活用し、「運転時間」と「非運転時間」を特定し、非運転時間のうちどこまでが労働時間でどこからが休憩時間なのかを立証できる管理体制を確立することが重要です。

 

改善基準告示における「連続運転時間4時間以内、30分以上の非運転時間の確保義務」を活用し、オン・オフの切り替えを制度として管理する体制を構築して就業規則に明記しておけば、非運転時間を労働時間と判定されるリスクは格段に低減できます。

 

また、長距離輸送の場合に労働時間の算定が困難であっても、過去の実績やテスト走行等の確固とした根拠に基づいた行き先ごとの「標準労働時間」を算定しておくことは、有効な対策の一つです。

 

今後の法改正動向にも注視が必要

2026年通常国会への提出は見送りとなりましたが、約40年ぶりとされる労働基準法の大改正議論は継続しています。検討されている主な論点として、14日以上の連続勤務の禁止、勤務間インターバル制度の義務化(11時間を原則)、法定休日の特定義務化などがあります。

改善基準告示ではすでに11時間のインターバルが原則とされていますが、一般法として義務化された場合には就業規則の改定など新たな対応が求められることになりますので、動向を注視しておくべきです。

 

 当事務所ではトラック運送業の労働時間管理方法、賃金体制や就業規則の見直しで労務トラブルのリスク軽減のお力添えができます。ご相談は以下のバナーより

トラック運送業の賃金設計について

トラック運送業の賃金体系が抱える構造的なリスク

トラック運送業、特にドライバー職の賃金体系は、その業務の特殊性ゆえに、訴訟や労働組合を巻き込んだ団体交渉等の紛争の火種となりやすい構造を内包しています。

 

ここでは、そうした紛争リスクを未然に防ぎ、かつドライバーの処遇改善と経営の持続可能性を両立するための賃金設計の考え方を解説します。

 

トラック運送業の賃金体系の3パターン

トラック運送業のドライバーに適用される賃金体系はおおむね次の3パターンに分類されます。

 

1.固定給のみ ― 月給制(日給月給)・日給制・時給制のいずれかで歩合給なし。地場輸送や作業輸送等の「1労働日完結型」のドライバーに多い。時給制は非正規雇用のドライバー、宅配ドライバー、コンビニ配送ドライバー等に見られます。

 

2.歩合給100% ― 固定給なしの完全歩合給。かつては長距離ドライバーに適用されるケースが見られましたが、後述の保障給の問題や含み型割増賃金の違法性リスクを考慮すると、法的に安全な運用が非常に難しい体系です。

 

3.固定給+歩合給の併用型 ― 最も一般的な賃金体系です。ただし、実態としては固定給部分が日給・無事故手当・食事手当等のわずかな額にとどまり、歩合給が支給額の大部分を占めるケースも少なくありません(特に長距離輸送)。歩合給制度を採用する以上、労働時間に応じた保障給設計が必要であり、自動車運転者では固定的給与と合わせ通常賃金の6割以上を目安にすることが必要です。(行政通達:平成元年基発93号)。

 

<注意>変動式歩合給制度の違法性リスク

100%歩合給であるにもかかわらず、歩合額確定後に「基本給+各種手当+歩合給+割増賃金」の形式に割り振る制度は、トラック運送業やタクシー業界でかつて散見されましたが、現在は違法と判断されるリスクが極めて高い手法です。

 

参考判例としてS交通事件(札幌地裁 平成23年7月25日)では、賃金の実態が営業収入の54%であるにもかかわらず、給与規定上は基本給+歩合給+割増賃金という構成としていた事案について、裁判所は「形式的には割増賃金が支払われていたとしても、実質的には賃金名目の組み替えに過ぎず、実態は100%歩合給である」と判断し、完全歩合給制に基づく割増賃金の再計算による支払いを命じています(会社側敗訴)。

 

固定給と歩合給で割増賃金の額がこれほど変わる理由

時間外労働に対する割増賃金は、固定給部分と歩合給部分で計算方法が根本的に異なります。この構造上の違いが、賃金体系の設計次第で割増賃金の額に大きな差を生み出します。

 

計算例(月間所定労働時間:170時間、時間外労働:80時間の月で考えた場合)

 

① 総支給額が固定給30万円のみの場合

時間給単価 300,000円÷170時間 ≒ 1,765円

         → 残業代単価 1,765円×1.25 ≒ 2,206円

         →残業手当額 2,206円×80時間 ≒ 176,471円

 

② 総支給額30万円(固定給15万円+歩合給15万円)の場合

a. 固定給部分:150,000円÷170時間 ≒ 882円

               → 882円×1.25 ≒ 1,103円

               → 1,103円×80時間 ≒ 88,236円

b. 歩合給部分:150,000円÷(170時間+80時間)= 600円

             → 600円×0.25 = 150円

             → 150円×80時間 = 12,000円

             c. 合計(a+b)= 100,236円

 

③ 総支給額30万円で全額歩合給の場合

300,000円÷(170時間+80時間)= 1,200円

           → 1,200円×0.25 = 300円

            → 300円×80時間 = 24,000円

 

歩合給の1時間当たりの割増賃金は

「月間の歩合給総額÷残業時間を含む月間総労働時間×0.25」で算出されます

   (労基法施行規則第19条1項6号、行政通達 昭23.11.25 基収第3052号)。

 

賃金制度を見直す際に押さえるべき4つの急所

上記の計算構造からは、歩合給比率を高めれば割増賃金が抑えられるように見えるかもしれません。しかし、適正な手続きと法令上の要件を満たさない安易な変更は、抑制したはずの額をはるかに上回る潜在的負債を積み上げる結果を招きます。労使双方にとって公正で持続可能な賃金制度を構築するためには、以下の4つの急所を確実に押さえることが不可欠です。

 

急所1:個別同意の取得と不利益変更への対応

 

賃金形態の変更は、労働条件の中でもドライバーにとって最も重要な事項です。変更によって労働者に不利益が生じる場合は、原則として各労働者の個別同意が必要であり(労働契約法第8条・第9条)、就業規則の変更による場合でも変更の合理性が求められます(労働契約法第10条)。

 

参考として、光和商事事件(大阪地裁 平成14年7月19日)では、基本給減額と歩合給導入に対して社員が異議を唱え、個別同意の有無が争点となりました。裁判所は、変更後の賃金を受領し続けたことを「黙示の承諾」と判断しましたが(会社勝訴)、これはあくまで個別事案の結果です。書面による明確な同意取得と、変更の合理性を裏付ける丁寧な説明・協議のプロセスが不可欠です。

 

歩合給の導入に伴う不利益変更の注意点については、別途解説記事も設けています。

      『賃金制度(歩合給の導入)と不利益変更』の記事へ

 

 

急所2:保障給の設定 ―「結果オーライ」では通りません

 

歩合給の比率を高める場合、労働基準法第27条に規定される保障給の設定は避けて通れません。行政通達(平成元年基発93号)に基づく基準では、保障給は「通常の賃金のおおむね6割程度」とされています。

 

多くの事業者が見落としがちなのは、結果としてその月の歩合給が通常賃金の6割を上回っていても、保障給の定義・基準を就業規則(賃金規程)に明文化がない場合は基準法27条への適合性に重大な疑義が生じ、使用者側の立証は極めて困難となることが予想できます。紛争が起きてから後付けで基準を設定するのも同様に問題とされます。「結果オーライ」や「後出しじゃんけん」は通用しません。あらかじめ制度として規定化しておくことが法の要請です。

 

急所3:歩合給の指標設計 ― ドライバーの納得感を軸に考える

 

どのような指標に基づいて歩合給を算定するかは、制度の成否を左右する決定的な要素です。単純に売上高のみを指標としている事業者が多いと思われますが、可能であればドライバーの努力が成果に結びつきやすく、かつ成果の偏りが少ない指標を設計したいところです。もちろん、企業として何が収益を生み出す要素なのかという視点も指標設計には不可欠です。

 

「ドライバーのモチベーションを高める指標」と「企業の収益に貢献する指標」が合致するポイントを見つけることができれば、制度変更に対するドライバーからの理解・同意も得やすくなります。

 

ここで大切なのは、指標をあまり複雑にしないことです。ドライバー本人が自分の歩合給を計算できるくらい明快な設定であることが、モチベーション維持には不可欠です。

 

深刻な人手不足が続く中で、他業界からの転職者にとっても馴染みやすい賃金体系を設計することは、採用競争力の観点からも重要です。「ベテランだけが稼げる仕組み」では、異業種からの人材流入は見込めません。

 

急所4:含み型割増賃金との併用 ― 国際自動車事件が示した教訓

 

トラック運送業やタクシー業界で広く普及していた「歩合給の中に残業手当の全部または一部を組み込む」という賃金設計について、国際自動車事件 第2上告審(最高裁 令和2年3月30日判決)は、こうした仕組みが割増賃金の趣旨に反すると判断し、審理を東京高裁に差し戻しました。

 

報道によればその後、令和3年2月に和解が成立し、会社側は原告ドライバー198名に対して総額約4億円の和解金を支払い、賃金規則の改定を行っているとのことです。

 

この事件は、不適切な賃金制度が放置された場合にどれほど大きな経営リスクに発展するかを如実に示す事例です。

 

現在、歩合給と定額残業代・みなし残業代制度を併用している事業者は、自社の制度が最新の司法判断に照らして適法であるかを精査する必要があります。とりわけ、割増賃金の「明確区分性」(通常の賃金と割増賃金が判別できること)と「対価性」(時間外労働の対価として支払われていること)の2つの要件を充足しているかが問われます。

 

さらに最近の判例として、ビーラインロジ事件(東京地裁 令和6年2月19日判決)では(乗務時間外手当に関する判決)では、運送会社の「時間外職能給・夜勤長距離手当・特別手当・特務手当」の4つの手当てが通常賃金と認定され、割増賃金の基礎に含めるべきとの判断が示されています。これは地裁判決であるので、今後展開が変わるかもしれない事案ではありますが(記事執筆時:2026年3月段階)参考判例として提示いたしました。

手当の名称如何にかかわらず、実態に基づいた判断がなされる傾向は一層強まっています。

 

国際自動車事件の詳細については別途解説記事を設けています。

 

 『定額残業・みなし残業・含み型残業の司法判断の推移と賃金設計の留意点』の解説記事へ

 

いま直視すべき3つの法改正がリスクを増幅させています

① 未払い残業代の時効延長(施行済み)

令和2年4月の労基法改正により、未払い残業代の消滅時効は本則5年、経過措置として当分の間3年に延長されています。現在、令和2年4月以降に支払日が到来した賃金債務はすべて3年間の時効が適用されています。

 

さらに、2025年6月には日本弁護士連合会が経過措置の速やかな撤廃を求める意見書を公表しており、5年への完全移行が現実味を帯びつつあります。3年でも大きなリスクですが、5年に延長された場合の影響は極めて甚大です。

 

② 月60時間超の割増賃金率50%(施行済み)

2023年4月より中小企業への猶予が撤廃され、月60時間を超える時間外労働には50%の割増賃金率が適用されています。つまり、月100時間の時間外労働に対しては、固定給ベースで見た場合、60時間までは125%、それを超えた40時間については150%で計算した割増賃金を支払わなければなりません。長距離輸送を主業務とする中小運送業者にとって、この負担増はすでに現実のものとなっています。

 

③ 時間外労働の上限規制・年960時間(施行済み)

前章でも触れたとおり、年960時間の上限は罰則付きで適用されています。上限規制の遵守と、その範囲内で適正な処遇を実現する賃金制度の両立が求められます。

 

放置した場合のリスクを数字で確認してみましょう

コンサルティングの現場では、ドライバー1人当たりの月間の潜在的な未払い残業代が5万円〜7万円に上るケースに日常的に遭遇しています。

 

仮にドライバー1人当たり未払い額が月7万円、従業員50人の場合を想定すると ―

 

月間の潜在的未払い残業代 : 7万円 × 50人 = 350万円

年間の潜在的な未払い残業代 : 350万円 × 12か月 = 4,200万円

時効3年で遡及された場合 : 4,200万円 × 3年 = 1億2,600万円

将来5年に延長された場合 : 4,200万円 × 5年 = 2億1,000万円

 

これに付加金(労基法第114条、未払い額と同額)が加わる可能性を考えれば、実質的なリスクはその倍にも及びます。そしてこの潜在的なリスクは、労基署の調査、退職者からの請求、労働組合の団体交渉申入れ、弁護士からの内容証明郵便 ― こうした日常的に起こり得るきっかけ一つで「顕在化」します。

 

リスクを可視化し、適正な制度に移行することが経営を守る

当事務所では、トラック運送業に特化した賃金制度の再構築を通じて、「ドライバーが適正な処遇のもとで安心して働ける環境」と「事業者の経営の安定」を両立する賃金制度の実現をサポートしています。

 

「当社の潜在的な未払い残業代は一体いくらくらいになるのか?」 ― まずは現状の可視化から始めてみませんか。当事務所では専用ソフトで潜在的な未払い賃金の累積額を無料でシミュレーションすることが可能です。お問合せフォームより「未払い残業額のシミュレーション希望」と記載の上、ご送信ください。

 

      “賃金制度改訂サービス:未払い段業代請求リスクの回避のために”

 

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深刻なドライバー不足問題にどう対処する

 もはや「待ちの採用」では人は来ない

冒頭でもお伝えしたとおり、自動車運転職の有効求人倍率は2.66倍を超え、全職種平均の2倍以上という水準で推移しています。29歳以下のドライバーは全体の10%程度にすぎず、40〜54歳が44.3%を占める年齢構成は、今後数年で一気に大量退職期を迎えることを意味しています。

 

2024年問題によって労働時間が制限される中でも収益を維持しなければならない。しかし、ドライバーが採れない、辞めていく ― 多くの運送事業者がこの板挟みに直面しています。

 

ドライバーが「選ぶ側」の時代の採用戦略

有効求人倍率2倍超の環境とは、ドライバーが会社を選べる立場にあるということです。この現実を直視したうえで、「選ばれる会社」になるための施策を講じなければ、人手不足は解消しません。

 

処遇改善こそが最大の採用ツール

 

他業種と比較したとき、トラックドライバーの賃金水準は依然として全産業平均を下回る傾向にあります(厚労省「賃金構造基本統計調査」)。「稼げる仕事」という運送業のかつてのイメージは、労働時間規制の強化とともに薄れつつあります。限られた労働時間の中で適正な処遇を実現する賃金制度を構築することは、採用力の向上に直結する最も本質的な取り組みです。

 

賃金体系が不透明で「何をどう頑張れば給料が上がるのかわからない」状態は、特に異業種からの転職希望者にとっては大きな不安要素です。前章で述べた歩合給の指標設計において、ドライバー自身が自分の報酬を計算できる透明性の高い制度を設計することは、採用面接の場でも強力な差別化要因になります。

 

労務環境の整備が「口コミ」を変える

 

ドライバーの採用チャネルで最も影響力があるのは、実は「現職ドライバーの口コミ」です。就業規則が未整備で労働条件があいまい、残業代の計算方法がよくわからない、有給休暇が取りにくい ― こうした不満は、ドライバー同士のコミュニティの中で瞬く間に広がります。逆に、就業規則が明確で賃金制度が透明、労務管理がしっかりしている会社は、ドライバーの間で「あそこはちゃんとしている」と自然に評価が広まります。

 

就業規則と賃金制度の整備は、コンプライアンスの問題であると同時に、最も費用対効果の高い採用ブランディング施策でもあるのです。

 

定着施策 ― 「辞めない会社」をつくる

 

採用にコストをかけても、早期離職が続けば投資が無駄になります。定着率を高めるためには、入社後の処遇・環境が入社前に説明した内容と一致していること(いわゆる「期待値の管理」)が何より重要です。

 

具体的には、就業規則に明記された労働条件が実際の運用と一致していること、賃金制度が透明で予測可能であること、退職金制度等の長期的なインセンティブが設計されていること、そしてキャリアパスが見えることが、定着率の向上に寄与します。

 

採用の「仕組み化」で競合に差をつける

求人原稿の書き方一つ、ハローワークの活用方法一つとっても、工夫次第で応募数は大きく変わります。「ドライバー募集」とだけ書かれた求人と、具体的な賃金体系・労働条件・キャリアパスが明示された求人とでは、応募者の質も量もまったく異なります。

 

当事務所では、トラック運送業の実態を熟知した上で、採用活動の仕組み化をサポートしています。求人原稿の最適化、面接プロセスの設計、採用後の定着施策まで一貫して支援できるのは、運送業の現場を知り尽くした専門家だからこそです。

 

ドライバー不足を「経営課題の総合対策」として捉える

ドライバー不足の解消は、単に求人広告を増やせば済む問題ではありません。賃金制度、就業規則、労働時間管理、退職金制度、採用プロセス ― これらはすべて連動しています。どれか一つだけを改善しても効果は限定的であり、トータルで設計し直すことではじめて「人が集まり、定着する会社」への転換が実現します。

 

当事務所では、多くのトラック運送業者様から高評価を頂いた「賃金制度の再構築」「就業規則の整備」「採用・定着サポート」の3つのサービスを柱として、ドライバー不足時代を生き抜くための総合的な労務コンサルティングを提供しています。

 

当事務所ではトラック運送業の労務管理でのお手伝いはもちろん、従業員の採用や育成(戦力化)、定着に付きましてもサポートさせていただいております。人手不足の昨今、いい人材をいかに惹き付け、育て、定着させるかは経営側の緊喫の課題でしょう。ヒトの事でお困りであれば当事務所までお声掛け下さい。

「会社の値段」は労務管理で決まる

■ 加速する業界再編 ― あなたの会社は「選ばれる側」でいられるか

トラック運送業界はいま、かつてない速度で再編が進んでいます。東京商工リサーチの調査によれば、2024年度の道路貨物運送業の倒産件数は353件14年ぶりに350件を超えました。

2024年暦年ベースでは374件と更に深刻な数字が出ています。2025年度上半期の人手不足倒産も214件と過去最多を更新し、そのうち道路貨物運送業は33件を占めています。

 

一方で、M&Aによる事業承継は急増しています。日本M&Aセンターの集計では、2024年の物流・トラック運送業界のM&A公表件数は121件に達し、前年の97件から2割以上の増加となりました。上場企業が買い手となる案件も増えています。

 

この二極化の背景にあるのは、2024年4月施行の時間外労働上限規制(年960時間)と改正改善基準告示、そして燃料高・人件費高騰による収益構造の悪化です。単独で生き残れる事業者と、廃業もしくはM&Aによる再編を選ばざるを得ない事業者との差が、急速に開いています。

 

■ M&Aにおける最大のリスク ― 「簿外債務としての未払い残業代」

ここで経営者の皆様にお伝えしたいのは、会社を売却する場合も、存続させる場合も、あるいは他社を買収する場合も、「労務コンプライアンスの状態が会社の命運を左右する」という現実です。

 

M&Aの実務において、買い手が最も神経を尖らせるのが「労務デューデリジェンス(労務DD)」です。労務DDとは、買収対象企業の労務管理の実態を精査し、隠れたリスクを洗い出す調査のことです。

 

トラック運送業の労務DDで繰り返し問題となるのが以下の項目です。

・タイムカード・デジタコ記録と賃金台帳の突合による未払い残業代の有無。

・固定残業代(含み型割増賃金)の適法性。

・歩合給と割増賃金計算の整合性。

・就業規則・36協定の整備状況と届出の有無。

・改善基準告示の遵守状況。

これらの項目で問題が見つかった場合、何が起きるのかを具体的な数字でご説明します。

 

■ 労務リスクが会社の「値段」を破壊する ― 具体的な数字

本サイトの第3章でお示しした試算を、M&Aの文脈に置き換えてみましょう。

 

ドライバー50名の事業者で、1人あたり月額7万円の未払い残業代リスクがあると仮定します。月額350万円、年間4,200万円の潜在債務です。未払い残業代の消滅時効は現在、経過措置として3年(本則は5年)ですから、3年遡及で1億2,600万円。将来5年に完全移行すれば2億1,000万円に膨らみます。

 

M&Aの実務では、この潜在債務が「簿外債務」として扱われます。買い手は当然、この金額を買収価格から差し引くか、あるいは案件そのものを見送ります。実際に、未払い残業代の発覚によってM&Aが破談となった事例は枚挙にいとまがありません。法律事務所の公開事例でも、運送業のM&Aにおいて法務DDで高額な簿外債務が発見され、譲渡価格が大幅に減額されたケースが報告されています。

 

つまり、労務管理の不備は「今、訴えられるリスク」だけでなく、「将来、会社を売れなくなるリスク」「会社の値段が暴落するリスク」でもあるのです。

 

■ 逆に言えば ― 労務整備は「企業価値向上」の最短ルート

この話には、もう一つの側面があります。

 

就業規則が整備され、賃金制度が法令に適合し、労働時間管理が適正に行われている会社は、労務DDを「怖い調査」ではなく「自社の価値を証明する機会」に変えることができます。

 

買い手企業がM&Aの対象として魅力を感じるのは、ドライバーの定着率が高く、労務紛争の履歴がなく、割増賃金の計算根拠が明確で、就業規則と賃金規程が最新の法令に対応している事業者です。これらは全て、日常の労務管理の結果として実現するものです。

 

そしてこれは、M&Aを考えていない事業者にとっても全く同じことが言えます。ドライバーの採用・定着に成功している事業者は、例外なく賃金制度と就業規則が整っています。なぜなら、ドライバーが「この会社は安心して働ける」と感じる最大の根拠は、賃金の計算方法が明確で、残業代がきちんと支払われ、労働時間が適正に管理されていることだからです。

 

■ 経営者が「今」取り組むべき3つの労務整備

事業承継やM&Aの有無にかかわらず、トラック運送業の経営者が今すぐ着手すべき労務整備は次の3点です。

第一に、就業規則の総点検と改定です。 2024年4月の改正改善基準告示、時間外労働上限規制(年960時間)、そして今後議論が進む勤務間インターバル義務化や連続勤務14日制限に対応した就業規則になっているかどうか。多くの事業者の就業規則は、改正前の基準をベースにしたまま放置されています。これは労務DDにおいて真っ先に指摘される事項です。

第二に、賃金制度の再構築です。 固定給・歩合給の配分比率は適正か。保障給は設定されているか。固定残業代の区分は明確か。ビーラインロジ事件(東京地裁令和6年2月19日判決)で示されたように、「時間外職能給」のような名称であっても、実態として通常賃金と認定されれば割増賃金の基礎に含まれます。賃金制度の不備は、未払い残業代という簿外債務の温床です。

 

第三に、労働時間管理の仕組み化です。 デジタコ・タイムカードと賃金計算の連動、荷待ち時間の記録と管理、連続運転時間の中断における休憩確保の運行計画への反映。これらを「ドライバー任せ」ではなく「仕組み」として構築することが、コンプライアンスの証明になります。

 

■ まとめ ― 労務管理は「コスト」ではなく「投資」

トラック運送業の経営者にとって、就業規則の整備や賃金制度の再構築は、「お金と手間がかかるもの」に見えるかもしれません。しかし、倒産と廃業が加速し、M&Aによる業界再編が進む今、労務コンプライアンスの整備は「会社を守るための保険」であり「会社の価値を高めるための投資」です。

 

当事務所では、トラック運送業に特化した就業規則の作成・改定、賃金制度の再構築、そして未払い残業代リスクのシミュレーションを一体的にご提供しています。「今の就業規則と賃金制度で、もし労務DDを受けたらどうなるか」という視点で、御社の労務管理を点検してみませんか。

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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