調剤薬局の人材確保と管理

「ヒトの問題」を放置したままでは、薬局経営は立ち行かなくなります

1997年以降の院外処方の拡大によって調剤薬局の数は急増しました。2024年度の衛生行政報告によれば、全国の調剤薬局は63,203店舗コンビニの約56,000店をいまだに7,000店以上も上回っています。

ただし、ここ最近は様子が変わってきています。前年比でわずか+0.6%。18県では店舗数がむしろ減少に転じています。さらに2025年の調剤薬局の倒産件数は38件と過去最多を更新しました(東京商工リサーチ)。「出せば儲かる」時代は、もう完全に終わったということです。

・薬剤師が採れない。これが一番痛い。

 

薬剤師の有効求人倍率は3.24倍(2025年3月時点、パート除く)。全職種の平均が1.22倍ですから、その約2.7倍です。つまり、1人の薬剤師を3社以上で奪い合っている計算になります。

 

しかも薬機法(旧:薬事法)の定めにより、各店舗に管理薬剤師を常駐させなければなりませんし、管理薬剤師は他の店舗との兼務が認められていません。1人の薬剤師が1日に担当できる処方箋は最大40枚で、41枚以上の処方箋が見込まれる場合は追加で薬剤師を配置する必要があります。

 

つまり、店舗を開けるためには一定数の薬剤師が「必ず」いなければならない。この「必ず」が経営者にとってどれだけ重たい制約になっているかは、実際に薬局を経営されている方であれば痛いほどお分かりかと思います。

 

・なぜこんなに足りないのか?

 

大きな原因のひとつは、2006年に薬学部の修業年限が4年から6年に延長されたことです。この移行期に2010〜2011年の卒業者が激減し、現在30代半ばの若手〜中堅薬剤師が極端に少ない「空洞化世代」が生まれてしまいました。

 

令和6年の厚労省統計によると、全国の薬剤師総数は329,045人。人口10万人あたりでは265.8人ですが、地域による偏りが大きい。東京は376.2人、沖縄は148.3人と、実に2.5倍以上の差があります。12県では2036年度までに薬剤師不足が見込まれているという推計もございます。

 

加えて、女性薬剤師の割合が全体の62.0%(203,979人)を占めています。これ自体は業界の強みでもあるのですが、子育て世代になるとパートや非正規に移行する方が多く、結果として夕方以降に常駐できる薬剤師が慢性的に不足するという構造的な問題が起きています。

 

・事業主として「何をしなければならないか」

 

こうした環境下で薬局経営を安定させるには、以下の3つの柱を同時に立てていく必要があります。

 

①採用体制の構築   

 求人倍率が3倍を超えている以上、「募集を出して待つ」だけでは人は来ません。自社の魅力を整理し、求人票の作り方から選考プロセスまで「仕組み」として設計する必要があります。

 

②育成・定着の仕組みづくり   

 せっかく採用した薬剤師が半年で辞めてしまえば、採用コスト(人材紹介手数料で80〜180万円かかることも珍しくありません)は丸損です。評価制度やキャリアパスの可視化を通じて、「ここで働き続ける理由」を仕組みとして提供することが大事です。

 

③女性薬剤師への処遇改善   

 全体の6割以上を占める女性薬剤師が「辞めなくて済む」環境を作ることは、新規採用よりもはるかにコストパフォーマンスが良い施策です。短時間正社員制度や育児との両立支援策の導入を、コストではなく「いま在籍してくれている人材を最大限に活かすための投資」として捉え直す発想が求められます。

 

ここまでお読みになって「うちも同じ状況だ」と思い当たる点があれば、それは御社の中にある人材という資産をもっと活かせる余地があるということでもあります。問題が見えているということは、手の打ちようがあるということですので。

 

当事務所では、調剤薬局様の薬剤師の採用・育成・定着に関する全般的なお手伝いをさせて頂いております。ミスマッチ防止のための選考の仕組みづくり、メンター制度や面談の充実など、「ヒト」に関するお悩みはお気軽にご相談ください。

 人材の採用・育成(戦力化)・定着に関しては、人事コンサルティングに特化した当サイトの姉妹サイト“大阪人事コンサルティングセンター”もご参考にご覧下さい。

※本記事は2026年4月時点の法令・統計に基づいています。出典:厚生労働省「衛生行政報告」「医師・歯科医師・薬剤師統計(令和6年)」、東京商工リサーチ、厚生労働省職業安定業務統計

薬剤師の採用と採用後の処遇について

採用に「仕組み」がある薬局と、「運」に頼る薬局。5年後の差は取り返しがつきません

薬局の数はいまや全国63,203店舗。コンビニより7,000店以上多い。しかし成長率はわずか+0.6%で、18県ではすでに減少に転じています。

 

この状態で薬剤師を1人採用するのにいくらかかるか。人材紹介会社を使えば、年収の25〜35%が手数料ですから、年収600万円の薬剤師なら150万〜210万円。求人広告を併用すればさらに上乗せになります。

 

これだけのコストをかけて採った薬剤師が、入社半年で「思っていたのと違う」と辞めてしまったら? お金だけでなく、残されたスタッフの士気も下がり、さらに追加の採用コストがかかる。この悪循環に心当たりのある経営者の方は少なくないのではないでしょうか。

 

・新卒薬剤師の採用で押さえておきたいこと

 

2026年卒の薬学生が就職先を選ぶ際に重視する項目を見ると、「勤務地」と「教育制度・研修体制」がともに約24%で上位に並んでいます。次いで「やりがい」が18%。給与はもちろん大事ですが、「入社後にどう育ててもらえるか」を相当シビアに見ているということです。

 

にもかかわらず、会社説明会で「キャリアパスは?」「評価基準は?」と聞かれて、しどろもどろになってしまう薬局が結構あるようです。就業規則に基づいた労働条件の説明、等級制度に基づいたキャリアラダーの提示、入社後のメンター配置や面談の頻度——こういったことが「見える化」されているだけで、新卒薬学生に対する訴求力は格段に変わってきます。

 

また、昨今の薬学生はOpenWorkやLighthouse、Instagram、X(旧Twitter)、TikTokなどで就職先の評判をかなり細かくチェックしています。以前のように「2ちゃんねる」の時代ではありません。自社のホームページや採用サイトに、教育体制やキャリア支援の情報をきちんと掲載しておくことは、もはや「やったほうがいい」ではなく「やっていないとマイナス」の時代です。

 

・中途採用で気をつけるべきこと

 

薬剤師不足だからといって、「来てくれるなら誰でもいい」という姿勢で採用を進めると、高確率で失敗します。

 

転職回数が多い応募者については、回数そのものだけで判断するのではなく、それぞれの退職理由やキャリアの方向性を構造化された質問で丁寧に確認することが大事です。「なぜ辞めたのか」の裏にある本当の理由は、面接の中でしか掴めません。

 

なお、2024年4月の労働条件明示義務の改正により、採用時には「就業場所および業務の変更の範囲」を書面で明示することが義務化されています。複数店舗を運営する薬局では、配属店舗の変更がありうることを最初から明確にしておかないと、入社後のトラブルの種になりますのでご注意ください。

 

・採用チャネルの見直し

 

ハローワークの活用について、「あまり効果がない」と思っておられる経営者の方も多いのですが、求人票の書き方一つで応募数はかなり変わります。とくに給与情報の明確さは、ある調査では応募者の**87%**が「最も重視する」と回答しています。

 

加えて、月間訪問者数が約4,000万人ともいわれるIndeedや、求人ボックスなどの検索型媒体を組み合わせれば、人材紹介会社への依存度(=1人あたり100万円超の手数料)を大幅に下げられる可能性があります。自社採用専用サイトの構築も一つの手です。

 

・処遇の「見える化」

 

採用がうまくいったとしても、入社後の評価基準や昇給の仕組みが不透明であれば、結局は「なんとなく不満」が溜まって退職に至ります。賃金テーブルとコンピテンシー連動の評価制度を導入し、「何をすれば、いつ、どのくらい給与が上がるのか」を透明にするだけで、公平感は相当改善します。

 

暗黙のルールの棚卸しだけでも効果がありますので、「いきなり制度構築は大変だ」という場合は、まず現状の給与決定ルールを紙に書き出すところから始めてみてください。

当事務所では、求人票の作成から採用プロセスの構築、人事評価制度の設計まで、一貫してお手伝いをさせて頂いております。

 

▶ 採用体制の構築支援サービスはこちら  https://jinji.kojima-jimusho.com/372560466

 

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  ・人材採用お役立ち情報

  ・採用コンサルティングサービス

 

当事務所では調剤薬局様の就業規則の整備等の労務管理や社員の『採用』『育成』『定着』についてもお力添えをさせて頂きます。

※本記事は2026年4月時点の法令・統計に基づいています。出典:厚生労働省職業安定業務統計、マイナビ「2026年卒内定者意識調査」等

人事制度構築による薬剤師の育成・戦力化

競争に打ち克つ薬局経営をするための人材の戦力化・育成について

調剤薬局業界は競合がひしめく環境になっています。全国63,203店舗。2025年の倒産は過去最多の38件。しかも2026年度の診療報酬改定では、「対人業務」の実績が加算の取得要件に直結する設計に変わりました。

こうした環境の中で他社との競争に打ち克つには、患者様から選ばれる薬局にならないといけないことは言うまでもありません。そのためには雇用する薬剤師の育成や戦力化は必須事項です。

ところが、「育成」と口では言いつつも、実際には明確な基準もなく、経営者の感覚で評価や昇給が決まっている…という薬局さんが少なくないのではないでしょうか。

 

・薬剤師に必要なコンピテンシー(能力要件)

薬剤師は医薬品を調合して患者さまに提供することが主な業務ですが、以下のような能力(コンピテンシー)を身に着けることで、仕事の幅がさらに広がっていきます。

 

・伝達力──対人関係(対患者様や納入業者、社内スタッフ)における伝達能力  

・協調性──チーム業務における同僚への気遣いや上司へのホウ・レン・ソウ  

・指導力──部下や後輩に対して、適切な指導や育成を行うことができる  

・業務の迅速性・正確性──スピーディかつ正確に処方箋の処理をし、医薬品の提供ができる

 

とくに2026年度の報酬改定で、かかりつけ薬剤師指導料が廃止されて服薬管理指導料に統合されたことで、「かかりつけ機能」を担える薬剤師かどうかが報酬に直結するようになりました。伝達力や指導力のある薬剤師を意図的に育てていかないと、取れるはずの加算が取れないということが起きてきます。

 

・職能等級制度の導入により有能な店舗管理者の養成

職能等級制度を導入すると、各職階(リーダー、店長、エリアマネージャー等)ごとに求められる能力が明確になります。従業員にとっても5年後、10年後の自身を投影できるビジョンができますので、「この薬局で長く働こう」というモチベーションに繋がります。

店舗管理者(店長)については、新入社員やスタッフの仕事の習得状況や不安を把握して、安心して働ける職場の雰囲気づくりができる人材になることを目標に置きます。

有効求人倍率3.24倍の環境では、「育てて定着させる」ことの価値が「新しく採る」ことの何倍にもなります。育てる仕組みがない薬局は、せっかくのコストをかけて採った人材を次々と流出させてしまう。この悪循環を断ち切れるのが、人事制度の導入なのです。

 

・人事制度導入の効果

 

調剤薬局が人事制度を構築することで、得られる効果として以下のことが挙げられます。

・人材の育成、戦力化  

・社員のやる気の向上  

・社員の育成計画を人事制度とリンクした管理ができる

・資格等級制度や評価制度と賃金制度をリンクさせることで、中途採用者の給与も容易かつ理にかなった決め方ができる  

・資格等級や評価項目の設計の際に、会社が理想とする社員像、管理者像を明確にし社内に浸透させることができる  

・「成長志向」「社員同士協力を惜しまない」等の良い社内風土を作り出す

 

以下のようなお悩みがあるのであれば、人事制度の導入が切り札的な解決策になります。

 

従業員が増加するに従い、給与を決める仕組みがないため、同程度の能力や経験の社員間でも採用時期の違いだけで給与に差が生まれてしまう。  

・評価の基準や給与体系を従業員から尋ねられても、うまく答えられない。  

・経営者のサジ加減で賞与、昇給、昇格が決まるため、従業員のモチベーション維持や組織の一体感に課題がある。  

・とにかく従業員を戦力化できる仕組みが欲しい。

 

思い当たることがございましたら、まずは現状の給与や評価の決め方を紙に書き出してみるだけでも、課題が整理されるかと思います。そこから「どう仕組み化するか」は私達がお手伝いいたします。

 

  “ヒトを育てる人事制度”につきましては、当サイトの姉妹サイト“大阪人事コンサルティングセンター”に紹介記事を掲載しております。

 

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 当事務所では調剤薬局様の労務管理や従業員の育成、戦力化等“ヒト”に関する全般的な事でお力沿いをさせて頂いております。

※本記事は2026年4月時点の法令・統計に基づいています。出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要【調剤】」(2026年3月5日)、東京商工リサーチ

調剤薬局の労務管理上の留意点

よくある間違い(勘違い)と注意点──2026年版

調剤薬局さんで散見される労務管理上の間違い(勘違い)や注意点をまとめていきます。以前にも同テーマの記事を掲載しておりましたが、法改正が相次いでおりますので、2026年4月時点の最新情報に基づいてアップデートいたしました。

 ・時間外・休日労働協定(36協定)

 

36協定は各店舗ごとに常駐する従業員から「労働者代表」を選出し、その代表者と協定を結んだ上で、管轄の労働基準監督署に届出する必要があります。5店舗あれば、原則として5件の協定が必要です。

 

ただし、ここで一つ補足をさせてください。「本社一括届出」という制度がございます。

 

厚生労働省は、一定の要件を満たす場合に限り、本社でまとめて届出をすることを認めています。紙で届出をする場合は、協定の内容(時間外の上限時間数や有効期間など)が全店舗で同一であることに加え、労働者代表も同一人物であることが要件とされています。

2021年3月からは電子申請(e-Gov)に限り、各店舗の労働者代表が異なっていても本社一括届出が可能になりました。労働組合がない中小規模の薬局チェーンでも、電子申請であれば活用できるようになったわけです。

さらに、2025年3月31日からは厚労省の「確かめよう労働条件」ポータルサイト経由の電子申請で、要件がもう一段緩和されています。本社と各店舗の内容が異なっていても、「内容が同一の店舗同士」をグループにして一括届出ができるようになりました。CSVファイルの自動作成機能や届出先監督署の自動選択機能もありますので、実務的にはかなり使い勝手がよくなっています。

気をつけなければならないのは、**「一括届出の要件を満たしていないのに、本社分だけ出して各店舗分を届け出ていない」**というケースです。この場合、届出のない店舗には有効な36協定がないことになりますので、その状態で時間外労働をさせれば労基法32条違反(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)に問われる可能性があります。

すでに本社一括で届出をされている薬局さんは、現在の届出が最新の要件に合致しているかどうか、一度確認されることをお勧めいたします。

 

 ・時間外労働の上限規制

 

36協定で定められる時間外労働にも法的な上限がございます。原則は月45時間・年360時間。特別条項を付けた場合でも、年720時間以内、単月100時間未満(休日労働含む)、2〜6か月の各平均80時間以内という絶対的な上限があります。

 

門前薬局ですと、隣接するクリニックの診察時間が延びると、どうしても処方箋受付も遅くなります。1人薬剤師の店舗では代わりがいませんから、月45時間を超えてしまう月が年に何度か出るというケースも見受けられます。各店舗の時間外労働を月次できちんと集計し、上限に近づいた段階で応援要員を出せるような体制を作っておくことが大事です。

 

・定額残業代、込み込み賃金

薬剤師さんを採用する際に、前職の年収だけを根拠にして「残業代も諸手当も全部込み込みで年収700万円!!」というような決め方をされている薬局さんも散見されます。これは以前の記事でも書きましたが、このような「エイ!ヤァー!」的な給与決定は非常にリスクが高いです。

最高裁令和5年3月10日判決(熊本総合運輸事件)では、賃金総額の中から通常の労働時間の賃金と割増賃金を判別できないとして、固定残業代の効力が否定されました。

現在の判例法理では、固定残業代が有効と認められるためには最低でも3つの要件が必要とされています。

 

①明確区分性──基本給と固定残業代が金額・時間数ともに明確に区分されていること。  

②対価性──固定残業代が時間外労働の対価として支払われていること。

③差額精算──固定残業代でカバーされる時間数を超える残業が発生した場合、超過分を別途支払う実態があること。

 

就業規則にきちんと根拠を設けた上で運用しないと、トラブルがあった際に会社側が何も反論できないということになってしまいます。薬剤師の年収水準(平均約600万円)で2年分の遡及請求が認められれば、1人あたり数百万円の追加支払いになりかねません。いま現在、固定残業代を導入されている薬局さんは、この3つの要件をきちんと充たしているかどうか、一度点検されることを強くお勧めいたします。

 

 定額残業代の是非に関する最近の司法判断についての詳細はこちらの記事をご参照下さい。

     『“定額残業代”の考え方が否定されつつあります』の記事へ

 

 ・定期健康診断

「我々は患者さんに健康を提供することが仕事なので、健康診断なんて必要ない!」——極まれにこういった勘違いをされている方もいらっしゃるようですが、年1回の定期健康診断は労働安全衛生法で義務付けられている必須事項です。パート・アルバイトであっても、1年以上の雇用見込みがあり、正社員の4分の3以上の時間を勤務している方は対象になります。

複数店舗で異なるシフトパターンの薬剤師がいる場合、対象者の漏れが生じやすくなりますので、一元的な管理台帳の整備をお勧めいたします。

・転籍・出向の根拠付け

地域一帯に店舗展開されている調剤薬局グループでは、グループ内で店舗ごとに法人化されているケースもあるかと思います。そういった場合に、社員を別法人の店舗に勤務させることは、グループ内だから単なる配置換え…という感覚かもしれません。しかし法的には「移籍・転籍」「出向」と解釈されますので、就業規則や契約書への根拠付け、個別の同意が必要になるケースがございます。

なお、2024年4月の労働条件明示義務改正により、雇用契約書には「就業場所および業務の変更の範囲」を記載することが必要になっておりますので、この点もあわせて確認しておきたいところです。

■ 今後の法改正の動き ─ 調剤薬局が備えておくべきポイント

 2025年1月に厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書を公表し、労働基準法の大幅な見直しが議論されています。法案は2026年4月現在まだ国会に提出されておらず、施行時期も確定していませんが、方向性は示されています。調剤薬局の現場に影響が大きい2つのテーマを取り上げます。

(1)週44時間特例の廃止

 従業員10人未満の商業・サービス業に認められていた週44時間の特例について、報告書では廃止の方向性が示されました。対象事業場の87.2%がすでにこの特例を使っていないという実態もあり、廃止の流れ自体は揺るがないと見てよいでしょう。小規模薬局でこの特例を前提にシフトを組んでいる場合は、いまのうちに変形労働時間制の導入やシフト再設計に着手しておくのが得策です。

(2)14日以上の連続勤務の禁止

 現行法では、変形休日制(4週4休)を使えば最大で連続24日間の勤務が理論上可能ですが、報告書では13日を上限とする方向で議論されています。薬剤師が少ない店舗では、急な欠勤や繁忙期に連続勤務が発生しやすく、この規制が入れば応援体制やヘルプ要員の確保が不可欠になります。

 

どちらも「いつ施行されるか」はまだわかりません。しかし方向性が出ている以上、確定してから慌てるより、いまのうちにシフト体制・就業規則・変形労働時間制の設計を見直しておくほうが、結果としていちばんコストがかかりません。

 

当事務所では調剤薬局様が適正に労務管理を行えるよう、就業規則の作成・改定コンサルティングをさせて頂いております。

 調剤薬局様の労務管理や薬剤師の採用、育成、定着に関するご相談はこちらからどうぞ

※本記事は2026年4月時点の法令に基づいています。出典:厚生労働省通達(本社一括届出要件緩和・2025年3月31日)、最高裁令和5年3月10日判決(熊本総合運輸事件)、厚生労働省「確かめよう労働条件」ポータルサイト

女性薬剤師の活躍推進と短時間正社員制度

全体の6割を占める女性薬剤師を「辞めさせない」ことが、最強の採用戦略です

何度もお伝えしている通り、全国の薬剤師329,045人のうち、女性が**203,979人で62.0%**を占めています(令和6年厚労省統計)。調剤薬局の現場を支えているのは、圧倒的に女性薬剤師です。

 

ところが、結婚・出産・子育てのタイミングで正規雇用を離れてパートに移行する方が多く、そのまま現場を離れてしまうケースも少なくありません。先ほど申し上げた通り、薬剤師1人を新たに採用するのに80〜180万円のコストがかかる。離職を防ぐための仕組みに投資するほうが、はるかにコストパフォーマンスが良いのは明らかです。

 

・「フルタイムか、パートか」の二択しかない薬局は、人材を失います

 

多くの薬局で、勤務形態の選択肢が「フルタイム正社員」か「パート」かの二択になってしまっています。子育て中の女性薬剤師にとって、フルタイムは物理的に厳しい。でもパートになれば処遇が大幅に下がり、キャリアも途切れる。この二者択一が、優秀な薬剤師を現場から追い出してしまっているわけです。

 

ここで導入を検討していただきたいのが**「短時間正社員制度」**です。

 

・短時間正社員制度とは

 

短時間正社員制度は、所定労働時間はフルタイムより短いけれども、正社員としての雇用形態・処遇は維持するという仕組みです。

 

たとえば、

 

パターンA:週30時間勤務(1日6時間×週5日)  

パターンB:週32時間勤務(1日8時間×週4日)

 

いずれも正社員として、社会保険・賞与・昇給・キャリア評価の対象となります。給与は労働時間に応じた比例計算になりますが、時間単価はフルタイム正社員と同じです。

 

2020年施行のパートタイム・有期雇用労働法(いわゆる同一労働同一賃金法)、2025年改正の育児・介護休業法により、こうした柔軟な勤務形態の整備は法的にも後押しされています。

 

・導入するメリット

 

①採用コストの削減──いま在籍している女性薬剤師が辞めずに済む。1人の離職を防ぐだけで80〜180万円の採用コストが浮く計算です。

 

②薬局のブランド力向上──「育児をしながら正社員で働ける」という情報は、採用市場で非常に強いメッセージになります。とくに女性薬剤師が就職先を検討する際、こういった制度の有無はかなり重視されています。

 

③夕方以降のシフト問題の緩和──短時間正社員を午前〜午後の時間帯に配置し、フルタイム正社員を夕方以降に集中させるといった柔軟なシフト設計が可能になります。

 

・「コスト」ではなく「投資」として捉える

 

短時間正社員制度の導入には、就業規則の改定、賃金テーブルの整備、評価制度、退職金制度との接続など、一定の準備が必要です。「手間がかかる」と思われるかもしれません。

 

しかし、考えてみてください。全体の6割以上を占める女性薬剤師の離職を防ぐことは、新規採用に走り回るよりも確実で、しかも即効性があります。いま御社にいてくれている薬剤師さんたちこそが最大の資産であり、その資産を守るための仕組みが短時間正社員制度なのです。

 

当事務所では、短時間正社員制度の設計から就業規則への落とし込み、退職金制度の改訂、賃金テーブルの整備、評価制度との接続まで、一貫してお手伝いさせて頂いております。多様な働き方を検討し、女性薬剤師の活用方法を探りましょう。

 

 ※本記事は2026年4月時点の法令・統計に基づいています。出典:厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計(令和6年)」、パートタイム・有期雇用労働法、育児・介護休業法(2025年改正)

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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大阪の社労士、行政書士の児島です。私は10期勤めた労基署の相談員時代に、通算件数15,000件以上もの労働相談を受けてきました。また、年間に300件以上の民間企業・法人の就業規則のチェックを行っており、これらの経験で培った、労働トラブルの予防に対する引き出しの数の圧倒的な多さが当事務所の武器です。

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