幼稚園、保育所、認定こども園が抱える『いまそこにある労務問題』
人手不足…
メンタルヘルス不調…
キツい労働に報われない処遇…
少子化で定員割れ…なのに保育士が足りない…
保育所、幼稚園、認定こども園が抱える「いまそこにある労務問題」とは?
保育士不足問題——「待機児童」から「選ばれる園」の時代
『待機児童問題』という言葉がマスコミ媒体を騒がせて久しいですが、この問題は実はかなり様変わりしてきています。令和7年4月時点の全国の待機児童数は2,254人(前年比313人減)と8年連続で最少を更新し、待機児童問題それ自体はかなり落ち着いてきました。
ところが——ここからが本題なのですが——代わりに浮上しているのが少子化の加速に伴う『定員割れ』の問題です。全国の保育施設の定員充足率は88.4%まで低下しています。この数字が何を意味するかというと、10園あれば1園以上は定員が埋まらないということです。つまり、保育業界は『施設が足りない時代』から『園が選ばれる時代』へと構造的に変わってしまったということになります。
にもかかわらず、保育士不足は相変わらず深刻なままです。こども家庭庁が公表した令和8年1月時点のデータでは、保育士の有効求人倍率は3.88倍。全職種平均の1.27倍の3倍以上です。子どもが減っているのに保育士は足りない。この矛盾した状況の中で、何の手も打たずに『うちは大丈夫』と思い込んでいる園があるとしたら、それはかなり危険ではないかと思います。
令和8年1月時点の全国の有効求人倍率:保育士 3.88倍
(**全職種平均 1.27倍)
出典:こども家庭庁「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」)
園長先生、理事長にお聞きしたいのですが、もし来月、主任クラスの保育士が1人辞めたとして、貴園のクラス運営はきちんと回りますか? その穴を埋められる応募は、すぐに来ますか? こういった事態が、全国の園で日常的に起きているのが現実です。
保育士資格を保有していても、低水準の賃金という先入観から保育士という仕事を選ばない"潜在保育士"は依然として多く存在しますし、勤めていてもキツい割には金銭的に報われない仕事であるため、長期勤続したところで『素敵な将来像』がイメージできずに保育業界から他業種に早期に転職するケースもよく耳にする話です。
しかも、子どもの数が減ったからといって保育士の奪い合いが緩むわけでもありません。企業主導型保育事業を含む認可外の保育施設も増えてきていることから、慢性的に不足している現職保育士の全体のパイを多くの施設で奪い合う状況はまだまだ続いています。
保育業界・幼児教育業界に潜む労務管理の落とし穴
では、どうして保育士という仕事は『素敵な将来像』が描けずに、業界を離れる人が後を絶たない、あるいは資格保有者であってもあえて保育士の仕事を選ばないのでしょうか?
大まかに以下の4つの労務絡みの落とし穴が原因ではないかと思います。
**幼稚園教諭も小学校就学前の幼い児童に接する業務という保育士との類似点から同様の懸案が存在すると推察します。
そしてここで注目していただきたいのは、この4つの落とし穴は、どれも『園長先生の気合い』や『職員さんの頑張り』で埋まるものではないということです。仕組みとして対策を打たなければ、人が辞めるたびに同じことの繰り返しになってしまうわけです。
落とし穴ーその1
メンタル不調のリスクが顕在する職場環境
これは保育士だけではなく、幼稚園教諭にも言えることなのですが、『危険なこと』の認識力・判断力がまだ備わっていない乳幼児、園児の命を預かるといったストレスや緊張感はもちろんありますが、それに加えてこの仕事でメンタル不調の主な温床と考えられるのがクラス単位の担任制です。この『担任制』により向こう1年間は密に接する人間が固定されてしまうということになります(児童、保護者、同僚etc.)。
固定メンバーとの人間関係が良好であれば何の問題もないのですが、保護者や同僚、上司、学年主任等との相性が悪ければ、教諭や保育士のメンタルヘルスに影響が出やすい職場になってしまう可能性は総じて高いと言えるでしょう。現にこういった環境でメンタル不調に陥り、休職や退職を余儀なくされるケースも少なからず見受けられます。
そしてここに、もう一つ見過ごせない問題が加わってきています。保護者からの過度な要求や威圧的な言動、いわゆる『カスタマーハラスメント(カスハラ)』が保育現場でも深刻な問題になっているということです。実はこの点については、2025年6月に労働施策総合推進法が改正され、カスハラ防止措置が全事業主に義務化されました(施行は2026年10月の予定)。保育業界も当然この対象になりますので、就業規則へのカスハラ対応方針の明記や相談窓口の設置等が法的にも求められてくることになります。施行まであと半年を切っています。貴園の対応はいかがでしょうか。
人間関係が必ずしも良好とは限らない環境下で職場定着率を改善するためには、ハラスメント防止の仕組みの整備と同時に、職員たちの『心の耐久性』を鍛えるという試みの必要性も生じてくるのではないかと思います。
落とし穴ーその2
仕事の守備範囲が不明瞭
保育所、幼稚園、認定こども園は小学校就学前の乳幼児のための福祉機関、教育機関という似たような側面を持ちながらも、それぞれ管轄する国の機関や管掌する法律が異なっています。
2023年4月にこども家庭庁が発足したことにより、保育所と認定こども園の管轄はこども家庭庁に移管されました。保育所は児童福祉法、認定こども園は認定こども園法がそれぞれ根拠法となります。幼稚園については引き続き文部科学省管轄で学校教育法に規定されていますが、こども家庭庁との連携体制に移行しています。ちなみに、それ以前は保育所は厚生労働省、認定こども園は内閣府が所管していました。
各法律の中で、保育士や幼稚園教諭の求められる職業像が法律あるいは告示等で規定されているのですが、それらを読み込んでも各々の職域、守備範囲は非常にあいまいな記載となっています。
例えば、こども家庭庁告示(旧・厚生労働省告示)である『保育所保育指針』では保育士に求める職域として『入所する子どもの最善の利益を考慮』『家庭、地域の様々な社会資源との連携を図り』『その職責を遂行するための専門性の向上に絶えず努めなければならない』等の極めてあいまいな表現に終始しており、保育士が提供する労働には『ゴールが見えない』『どこまでやっても際限がない』というように受け取れます。(なお、この保育所保育指針は概ね10年に1度の見直しが行われており、2027年の次期改定に向けた議論がこども家庭庁の保育専門委員会で既に始まっています。)
こういった表現は受け取り方によっては『身を粉にしてでも子供たちのために』というようにも解釈できるわけで、その精神は立派といわざるを得ません。しかしながら、片や労務上のリスクという点で捉えると、過度にこのような精神が園内で『さも当然』という雰囲気で広がってしまうと、保育士や幼稚園教諭の長時間労働を助長するリスクやメンタルヘルス不調のリスクと常に隣り合わせの職場ということになってしまうわけです。
で、ここが重要なのですが、法令が曖昧であるということは、裏を返せば園が独自に『うちの園で求める行動はこれです』という基準を自分たちの手で明確にしなければならないということでもあります。何を持って『十分にやった』とするのか。その線引きを園として持っていなければ、職員は永遠に『ゴールのないマラソン』を走らされることになるわけです。この点は、後述する人事評価制度やコンピテンシーの導入で具体的に解決できる部分ですので、心当たりのある園長先生はぜひ読み進めてください。
落とし穴ーその3
明確なキャリア構築を描きにくい
幼稚園教諭、保育士といった職種は、複数施設を運営する大規模な学校法人、社会福祉法人等に勤務する場合を除き、一般的には勤務地がほぼ1つの施設(園)での従事に限定され、引っ越しを伴うような転勤や異動はレアケースかと思います。
職員のキャリア構築という観点で見た場合、各々の成長段階に応じた将来に向けたキャリアパスを構築していきたいところですが、一つの施設での従事に限定されてしまうと職位(ポジション)も同様に限定され、『担任』『(学年)主任』『園長(施設長)』のたった3つの階層のみとなってしまいます。
ちょっと想像してみてください。新卒で入った22歳の保育士さんが、この先何十年と働いていく中で、目指せるポジションがたった3つしかない。しかも主任になれるのは何年後で、園長になれるのはさらにその何年も先——そういう状況で、果たして『この園で長く頑張ろう』と思えるでしょうか。当方の私見では、このキャリアの先が見えない問題は、給与の低さと並んで保育士の離職原因のかなり大きな部分を占めているのではないかと見ています。
そしてここに非常にタイムリーな話がありまして、令和7年度から処遇改善等加算が一本化され、その獲得要件としてキャリアパス要件が必須化されました。つまり、『職務分野別リーダー』『副主任保育士』『専門リーダー』といった中間的な役割を制度として整備し、キャリアパスを構築している園ほど、加算を適切に獲得・配分できる仕組みに変わったわけです。逆に言えば、キャリアパス制度が未整備の園は加算の獲得面で不利になるということです。
ポジションや階層がさほど多くないにしろ、職員たちが自己の成長過程や将来をイメージできるようにキャリアパス制度(資格等級制度等)は是非とも構築しておきたいところです。これは職員のためだけではなく、園の経営——つまりお金の問題にも直結する話なのです。詳しくはこちらの人事評価制度構築サービスをご参照ください。
落とし穴ーその4
生産性を上げにくい業務内容
保育士、幼稚園教諭の主たる業務は、コミュニケーション能力が途上中の小さな子供と接するという人対人の仕事であるがゆえに、簡単にAI化やICT化で代替できるものではありません。
こども家庭庁(旧・厚生労働省)が開示している『保育士等に関する関係資料』のタイムスタディ調査を見ると、子どもと直接接する業務(室内遊び、食事介助、就寝援助等)以外にも間接的な業務が結構な頻度で発生し、しかも時間的にも手間のかかる仕事として発生しているのがわかります。
以下の統計をご覧いただければ、
①AI化・ICT化に馴染まない業務がほとんどであること
②生産性を上げていくにはかなりの創意工夫が求められる
この2点がお分かりになると思います。
子どもと直接接しない間接業務とその頻度)
| 業務 | 1勤務当たりの平均業務時間(分) | 1勤務当たりの発生率 |
| 会議・記録・報告 | 53 | 100% |
| 連絡帳 | 14 | 93% |
| 掃除 | 10 | 100% |
| 保育計画策定・準備・調整 | 9 | 100% |
| 保育記録の調整・保存 | 7 | 61% |
子どもと直に接する主たる業務とその頻度)
| 業務 | 1勤務当たりの平均業務時間(分) | 1勤務当たりの発生率 |
| 室内遊び | 63 | 100% |
| 表現活動への支援 | 38 | 98% |
| スキンシップ | 32 | 78% |
| 食事摂取の援助 | 29 | 100% |
| 挨拶・日常会話 | 26 | 99% |
| 就寝の援助 | 25 | 77% |
引用元:厚生労働省「保育士等に関する関係資料」
「新たな次世代育成のための包括的・一元的な制度」設計に向けたタイムステディ調査
(みずほ情報総研)
ただし、この分野でも少しずつ変化は出てきています。こども家庭庁は令和8年度までに保育施設のICT導入率100%を目指しており、保育ICT推進加算(仮称)の創設も予定されています。連絡帳のデジタル化や保育記録のICT化、午睡チェックセンサーの導入等、間接業務の効率化を国が後押しする流れは確実に進んできています。
また、2024年度には76年ぶりに配置基準が改定され、4・5歳児は25:1に、3歳児は15:1になりました。2025年度からは1歳児の配置改善加算も導入されています。
こういった国の施策の追い風がある今だからこそ、園レベルでの生産性向上の取り組み——例えば、会議のファシリテーション(仕切り)技術の習得による効率的な会議運営であったり、タイムマネジメントの意識改革であったり——を組織的に進めていくことが、長時間労働の解消と離職防止の鍵になってくるのではないかと思います。
上記の4つの『落とし穴』を埋めるために…。
当事務所はその解決策を用意しています。
私たち社労士は、労働関係法令に基づく適正な職場環境の整備を支援する専門家です。もちろん就業規則等の改訂で法的なリスクへの防御をしっかり固めていくことは大事なことです。しかしながら就業規則だけで4つの落とし穴をすべて埋めていくことは難しいのではないかと思います。
なぜなら『メンタルヘルス不調対策の職場環境整備』『生産性向上の意識づけ』『ゴールの設定』『キャリア構築』などは、より積極的に職員さんたちに働きかけをしていかないとなかなか解決しにくいのではないでしょうか。
そして、もう一つ申し上げたいのは、人が辞めてから慌てるのでは遅いということです。退職届を出す職員は、たいてい何ヶ月も前から心の中で決断を下しています。表面上は何も変わっていなくても、水面下では『もう限界だ』と感じている。経営者がそのサインに気づくのは、往々にして手遅れになってからではないでしょうか。
当事務所では、職員さんたちへの意識付けのための各種研修(コンピテンシー導入等)のご提供や、職員さんたちのモチベーションアップのためのキャリアパス制度・人事評価制度のご提案、さらには人材確保のための採用支援まで、保育・幼児教育の現場に特化した視点で、保育士さん、幼稚園教諭の先生方に『より素敵な将来像を描ける』職場環境の整備にお力添えいたします。
まずは、貴園の現状についてお聞かせいただくところから始めませんか。