幼稚園、保育所、認定こども園が抱える『いまそこにある労務問題』

       人手不足…

      メンタルヘルス不調…

  キツい労働に報われない処遇…

      少子化で定員割れ…なのに保育士が足りない…

 保育所、幼稚園、認定こども園が抱える「いまそこにある労務問題」とは?

 

保育士不足問題——「待機児童」から「選ばれる園」の時代

 

『待機児童問題』という言葉がマスコミ媒体を騒がせて久しいですが、この問題は実はかなり様変わりしてきています。令和7年4月時点の全国の待機児童数は2,254人(前年比313人減)と8年連続で最少を更新し、待機児童問題それ自体はかなり落ち着いてきました。

 

ところが——ここからが本題なのですが——代わりに浮上しているのが少子化の加速に伴う『定員割れ』の問題です。全国の保育施設の定員充足率は88.4%まで低下しています。この数字が何を意味するかというと、10園あれば1園以上は定員が埋まらないということです。つまり、保育業界は『施設が足りない時代』から『園が選ばれる時代』へと構造的に変わってしまったということになります。

 

にもかかわらず、保育士不足は相変わらず深刻なままです。こども家庭庁が公表した令和8年1月時点のデータでは、保育士の有効求人倍率は3.88倍。全職種平均の1.27倍の3倍以上です。子どもが減っているのに保育士は足りない。この矛盾した状況の中で、何の手も打たずに『うちは大丈夫』と思い込んでいる園があるとしたら、それはかなり危険ではないかと思います。

 

令和8年1月時点の全国の有効求人倍率:保育士 3.88倍

(**全職種平均 1.27倍)

出典:こども家庭庁「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」)

 

園長先生、理事長にお聞きしたいのですが、もし来月、主任クラスの保育士が1人辞めたとして、貴園のクラス運営はきちんと回りますか? その穴を埋められる応募は、すぐに来ますか? こういった事態が、全国の園で日常的に起きているのが現実です。

 

保育士資格を保有していても、低水準の賃金という先入観から保育士という仕事を選ばない"潜在保育士"は依然として多く存在しますし、勤めていてもキツい割には金銭的に報われない仕事であるため、長期勤続したところで『素敵な将来像』がイメージできずに保育業界から他業種に早期に転職するケースもよく耳にする話です。

 

しかも、子どもの数が減ったからといって保育士の奪い合いが緩むわけでもありません。企業主導型保育事業を含む認可外の保育施設も増えてきていることから、慢性的に不足している現職保育士の全体のパイを多くの施設で奪い合う状況はまだまだ続いています。

 

保育業界・幼児教育業界に潜む労務管理の落とし穴

 

では、どうして保育士という仕事は『素敵な将来像』が描けずに、業界を離れる人が後を絶たない、あるいは資格保有者であってもあえて保育士の仕事を選ばないのでしょうか?

 

大まかに以下の4つの労務絡みの落とし穴が原因ではないかと思います。

 

**幼稚園教諭も小学校就学前の幼い児童に接する業務という保育士との類似点から同様の懸案が存在すると推察します。

 

そしてここで注目していただきたいのは、この4つの落とし穴は、どれも『園長先生の気合い』や『職員さんの頑張り』で埋まるものではないということです。仕組みとして対策を打たなければ、人が辞めるたびに同じことの繰り返しになってしまうわけです。

 

落とし穴ーその1

メンタル不調のリスクが顕在する職場環境

 

これは保育士だけではなく、幼稚園教諭にも言えることなのですが、『危険なこと』の認識力・判断力がまだ備わっていない乳幼児、園児の命を預かるといったストレスや緊張感はもちろんありますが、それに加えてこの仕事でメンタル不調の主な温床と考えられるのがクラス単位の担任制です。この『担任制』により向こう1年間は密に接する人間が固定されてしまうということになります(児童、保護者、同僚etc.)。

 

固定メンバーとの人間関係が良好であれば何の問題もないのですが、保護者や同僚、上司、学年主任等との相性が悪ければ、教諭や保育士のメンタルヘルスに影響が出やすい職場になってしまう可能性は総じて高いと言えるでしょう。現にこういった環境でメンタル不調に陥り、休職や退職を余儀なくされるケースも少なからず見受けられます。

 

そしてここに、もう一つ見過ごせない問題が加わってきています。保護者からの過度な要求や威圧的な言動、いわゆる『カスタマーハラスメント(カスハラ)』が保育現場でも深刻な問題になっているということです。実はこの点については、2025年6月に労働施策総合推進法が改正され、カスハラ防止措置が全事業主に義務化されました(施行は2026年10月の予定)。保育業界も当然この対象になりますので、就業規則へのカスハラ対応方針の明記や相談窓口の設置等が法的にも求められてくることになります。施行まであと半年を切っています。貴園の対応はいかがでしょうか。

 

人間関係が必ずしも良好とは限らない環境下で職場定着率を改善するためには、ハラスメント防止の仕組みの整備と同時に、職員たちの『心の耐久性』を鍛えるという試みの必要性も生じてくるのではないかと思います。

 

落とし穴ーその2

仕事の守備範囲が不明瞭

 

保育所、幼稚園、認定こども園は小学校就学前の乳幼児のための福祉機関、教育機関という似たような側面を持ちながらも、それぞれ管轄する国の機関や管掌する法律が異なっています。

 

2023年4月にこども家庭庁が発足したことにより、保育所と認定こども園の管轄はこども家庭庁に移管されました。保育所は児童福祉法、認定こども園は認定こども園法がそれぞれ根拠法となります。幼稚園については引き続き文部科学省管轄で学校教育法に規定されていますが、こども家庭庁との連携体制に移行しています。ちなみに、それ以前は保育所は厚生労働省、認定こども園は内閣府が所管していました。

 

各法律の中で、保育士や幼稚園教諭の求められる職業像が法律あるいは告示等で規定されているのですが、それらを読み込んでも各々の職域、守備範囲は非常にあいまいな記載となっています。

 

例えば、こども家庭庁告示(旧・厚生労働省告示)である『保育所保育指針』では保育士に求める職域として『入所する子どもの最善の利益を考慮』『家庭、地域の様々な社会資源との連携を図り』『その職責を遂行するための専門性の向上に絶えず努めなければならない』等の極めてあいまいな表現に終始しており、保育士が提供する労働には『ゴールが見えない』『どこまでやっても際限がない』というように受け取れます。(なお、この保育所保育指針は概ね10年に1度の見直しが行われており、2027年の次期改定に向けた議論がこども家庭庁の保育専門委員会で既に始まっています。)

 

こういった表現は受け取り方によっては『身を粉にしてでも子供たちのために』というようにも解釈できるわけで、その精神は立派といわざるを得ません。しかしながら、片や労務上のリスクという点で捉えると、過度にこのような精神が園内で『さも当然』という雰囲気で広がってしまうと、保育士や幼稚園教諭の長時間労働を助長するリスクやメンタルヘルス不調のリスクと常に隣り合わせの職場ということになってしまうわけです。

 

で、ここが重要なのですが、法令が曖昧であるということは、裏を返せば園が独自に『うちの園で求める行動はこれです』という基準を自分たちの手で明確にしなければならないということでもあります。何を持って『十分にやった』とするのか。その線引きを園として持っていなければ、職員は永遠に『ゴールのないマラソン』を走らされることになるわけです。この点は、後述する人事評価制度やコンピテンシーの導入で具体的に解決できる部分ですので、心当たりのある園長先生はぜひ読み進めてください。

 

落とし穴ーその3

明確なキャリア構築を描きにくい

 

幼稚園教諭、保育士といった職種は、複数施設を運営する大規模な学校法人、社会福祉法人等に勤務する場合を除き、一般的には勤務地がほぼ1つの施設(園)での従事に限定され、引っ越しを伴うような転勤や異動はレアケースかと思います。

 

職員のキャリア構築という観点で見た場合、各々の成長段階に応じた将来に向けたキャリアパスを構築していきたいところですが、一つの施設での従事に限定されてしまうと職位(ポジション)も同様に限定され、『担任』『(学年)主任』『園長(施設長)』のたった3つの階層のみとなってしまいます。

 

ちょっと想像してみてください。新卒で入った22歳の保育士さんが、この先何十年と働いていく中で、目指せるポジションがたった3つしかない。しかも主任になれるのは何年後で、園長になれるのはさらにその何年も先——そういう状況で、果たして『この園で長く頑張ろう』と思えるでしょうか。当方の私見では、このキャリアの先が見えない問題は、給与の低さと並んで保育士の離職原因のかなり大きな部分を占めているのではないかと見ています。

 

そしてここに非常にタイムリーな話がありまして、令和7年度から処遇改善等加算が一本化され、その獲得要件としてキャリアパス要件が必須化されました。つまり、『職務分野別リーダー』『副主任保育士』『専門リーダー』といった中間的な役割を制度として整備し、キャリアパスを構築している園ほど、加算を適切に獲得・配分できる仕組みに変わったわけです。逆に言えば、キャリアパス制度が未整備の園は加算の獲得面で不利になるということです。

 

ポジションや階層がさほど多くないにしろ、職員たちが自己の成長過程や将来をイメージできるようにキャリアパス制度(資格等級制度等)は是非とも構築しておきたいところです。これは職員のためだけではなく、園の経営——つまりお金の問題にも直結する話なのです。詳しくはこちらの人事評価制度構築サービスをご参照ください。

 

落とし穴ーその4

生産性を上げにくい業務内容

 

保育士、幼稚園教諭の主たる業務は、コミュニケーション能力が途上中の小さな子供と接するという人対人の仕事であるがゆえに、簡単にAI化やICT化で代替できるものではありません。

 

こども家庭庁(旧・厚生労働省)が開示している『保育士等に関する関係資料』のタイムスタディ調査を見ると、子どもと直接接する業務(室内遊び、食事介助、就寝援助等)以外にも間接的な業務が結構な頻度で発生し、しかも時間的にも手間のかかる仕事として発生しているのがわかります。

 

以下の統計をご覧いただければ、

 

①AI化・ICT化に馴染まない業務がほとんどであること

 

②生産性を上げていくにはかなりの創意工夫が求められる

 

この2点がお分かりになると思います。

 

子どもと直接接しない間接業務とその頻度)

 

  業務 1勤務当たりの平均業務時間(分) 1勤務当たりの発生率
会議・記録・報告 53 100%
連絡帳 14  93%
 掃除  10 100% 
 保育計画策定・準備・調整  9 100%
保育記録の調整・保存  61%

子どもと直に接する主たる業務とその頻度)

業務 1勤務当たりの平均業務時間(分) 1勤務当たりの発生率
室内遊び 63 100%
表現活動への支援 38  98%
スキンシップ 32  78%
食事摂取の援助 29 100%
挨拶・日常会話 26  99%
就寝の援助 25  77%

引用元:厚生労働省「保育士等に関する関係資料」

「新たな次世代育成のための包括的・一元的な制度」設計に向けたタイムステディ調査

    (みずほ情報総研)

ただし、この分野でも少しずつ変化は出てきています。こども家庭庁は令和8年度までに保育施設のICT導入率100%を目指しており、保育ICT推進加算(仮称)の創設も予定されています。連絡帳のデジタル化や保育記録のICT化、午睡チェックセンサーの導入等、間接業務の効率化を国が後押しする流れは確実に進んできています。

 

また、2024年度には76年ぶりに配置基準が改定され、4・5歳児は25:1に、3歳児は15:1になりました。2025年度からは1歳児の配置改善加算も導入されています。

こういった国の施策の追い風がある今だからこそ、園レベルでの生産性向上の取り組み——例えば、会議のファシリテーション(仕切り)技術の習得による効率的な会議運営であったり、タイムマネジメントの意識改革であったり——を組織的に進めていくことが、長時間労働の解消と離職防止の鍵になってくるのではないかと思います。

 

上記の4つの『落とし穴』を埋めるために…。

 

当事務所はその解決策を用意しています。

 

私たち社労士は、労働関係法令に基づく適正な職場環境の整備を支援する専門家です。もちろん就業規則等の改訂で法的なリスクへの防御をしっかり固めていくことは大事なことです。しかしながら就業規則だけで4つの落とし穴をすべて埋めていくことは難しいのではないかと思います。

 

なぜなら『メンタルヘルス不調対策の職場環境整備』『生産性向上の意識づけ』『ゴールの設定』『キャリア構築』などは、より積極的に職員さんたちに働きかけをしていかないとなかなか解決しにくいのではないでしょうか。

 

そして、もう一つ申し上げたいのは、人が辞めてから慌てるのでは遅いということです。退職届を出す職員は、たいてい何ヶ月も前から心の中で決断を下しています。表面上は何も変わっていなくても、水面下では『もう限界だ』と感じている。経営者がそのサインに気づくのは、往々にして手遅れになってからではないでしょうか。

 

当事務所では、職員さんたちへの意識付けのための各種研修(コンピテンシー導入等)のご提供や、職員さんたちのモチベーションアップのためのキャリアパス制度・人事評価制度のご提案、さらには人材確保のための採用支援まで、保育・幼児教育の現場に特化した視点で、保育士さん、幼稚園教諭の先生方に『より素敵な将来像を描ける』職場環境の整備にお力添えいたします。

 

まずは、貴園の現状についてお聞かせいただくところから始めませんか。 

 

 

 

幼稚園・保育所ートラブルを防ぐ就業規則作成のポイント!

幼児教育業界、保育業界における就業規則の重要性

 これはどの業界でも例外なく言えることなのですが、就業規則の作成し、従業員に対し周知することにより、労務トラブルのリスクを軽減、回避することができます。

 幼稚園、保育業界はその労務環境の特殊性もあり、要点を炙り出した策を講じることにより、就業規則によるディフェンス効果は一層高まります。労使トラブルのリスク回避はもちろんですが、更に付け加えると、特に保育業界では市区町村等労基署以外の行政機関からの定期監査で就業規則の提示を求められることが多く『法律上作成義務があるにも関わらず作成していない』『作っていても法令違反が散見される』ということになると、労基署の監査レベルでは期日を設けて是正を求める『行政指導』で済むものが、市区町村の監査では事業者名の公表や認可の取り消し等厳しい措置を採る自治体もあるようです。

 それはそのまま、近隣に住む住人、つまり各園にとっての今後利用してもらう可能性のある将来の見込み客に対する風評被害にもつながることになりますので、そういったことも含めて就業規則は『きちんとしたもの』を導入しておきたいものです。

ここで一つ、園長先生方にお伝えしておきたいことがあります。2025年から2026年にかけて、保育現場に直結する法改正が立て続けに施行されています。カスタマーハラスメント対策の義務化(2026年10月施行予定)、こども性暴力防止法=いわゆる日本版DBS(2026年12月25日施行)、処遇改善等加算の一本化(2025年度〜)、育児・介護休業法の改正(2025年4月・10月施行)等々…。

これだけの法改正が重なった時期は、当方の記憶でもちょっとないと思います。

ここ数年就業規則を見直していない園は、一度総点検されることを強くお勧めいたします。

 こちらのコラムでは、幼稚園、認定こども園、保育園の就業規則作成・変更に際してのチェックポイントを10項目に絞って解説していきます。

 

 Point1  労働条件変更の担保がされてますか?

 (特に)保育業は、事業者、法人の意向に関わらず、国や地方行政の意向や制度の変化が従業員の労働条件に影響を及ぼす可能性のある業種でもあります。令和7年度の処遇改善等加算の一本化、配置基準の改定、カスハラ対策の義務化等、ここ数年だけでも制度がめまぐるしく変わっています。加えて、今般のコロナ禍の教訓としてわかるように、保育業界、幼児教育業界ともに社会情勢の変化が従業員の労働条件に影響を及ぼすことも想定しておかなければなりません。社会情勢の変化、あるいは行政側の制度変更に則した労働条件の変更(給与の不利益変更も含めて)が担保されている条文が入っているかは、是非チェックしておきたい項目です。

 Point2  近隣住民等『外部の視線』を意識した服務規程が設けられてますか?

  これは相対的に若い職員が多いとされる保育業が特に留意する必要があるのですが、通勤時における外部からの視線を意識づける服務規律は必要かと思います。「仕事上の装い」と「私生活でのおしゃれ」にけじめをつける意味でも服装、化粧、髪型等の身だしなみも奇抜と映らないように律するような条文も必要でしょう。また保護者や近隣住民の目につく場所での喫煙も園へのクレーム対象になりかねません。定員充足率が下がり『園が選ばれる時代』に入った今、こういった細かなところでの印象管理は以前にも増して重要です。一定のルールは設けておくべきでしょう。

 Point3  必要かつ充分な業務命令権が確保されていますか?

  危険回避能力がまだ備わってなく、予測のつかない行動をとる乳幼児と接するという業務である以上、突発的に起こる緊急事態の際の労務対応は想定しておくべきです。加えて、保育園は国や行政機関からの配置基準を満たした一定の職員数以上の勤務体制を引くことを求められます。2024年度改定で4・5歳児25:1、3歳児15:1に変更されたことで、必要な職員数が増えた園も多いはずです。急な欠員が出たときに『配置基準を割ってしまう』という事態は絶対に避けなければなりません。そういった緊急時に備えるには時間外労働、休日労働、振替休日、他施設へのヘルプ勤務等、施設側が適切な業務命令が出せる根拠条文が記載されているか一度チェックしてみてください。

 Point4  休憩時間の与え方…『手待ち時間』と言われないように。

  法律上の休憩の概念というのは『労務からの完全な開放』ということになります。よって、労務からの完全に開放された状態とはいいがたいのであれば、『手待ち時間』ということで労働時間にカウントされてしまいます。保育園、幼稚園の休憩は一般的に園児の給食時間中、あるいは園児の午睡中に交代で休憩を取らせることが多いと思いますが、“建前上は”休憩時間であったとしても、何か起これば対応しなくてはならない状況であれば、『休憩』ではなく『手待ち』と判断されるリスクもあります。実際にこの点が争われた裁判例でも、形式的に休憩とされていた時間が実態としては労働時間であると認定されたケースがあります。この『手待ち問題』は、保育園の労務トラブルの中でも特に頻出するテーマです。未払い残業代として遡って請求されるとなると、対象人数×日数×金額で相当な額に膨らむ可能性があります。適切な就業規則の条文表現と休憩時間の運用で『手待ち』と判断されるリスクを減らしましょう。

 Point5  ヒヤリ・ハットやその防止策の共有

  幼い命を預かるという業務、しかも『危険なこと』の認識力がまだ備わっていない乳幼児と接する仕事ということを考えた場合、日常業務で『ヒヤリとすること』『ハッとすること』もそれなりに多いはずです。たまたま大事故につながらなかっただけで、『ヒヤリ・ハット』の段階で何か施設として対策を打たなければ、今後賠償が発生するような乳幼児の死傷事故につながるリスクも顕在しているはず。『命を守る』という職務上の使命感が職員のストレス原因の一つになっていると思えますが、業務上起こりえる『ヒヤリ・ハット』とその防止策が職員全員が共有できれば、精神的負担もかなり軽減できます。就業規則はこういった場面では職員の教育ツールとしての効果も発揮するのです。「事故が起きてからの対処」ではなく「事故を起こさない仕組み」を文書化しておく——これが就業規則によるリスク予防の本質です。

 Point6  ハラスメント規程の整備

 2019年12月に静岡県内の私立の認可保育所で園長らのハラスメントが原因で現場の保育士たちが一斉に退職したという事件が大きく報道されました。こういったことが起こると、現場の戦力ダウンや園児離れもさることながら、風評面でのダメージも計り知れません。とかく、幼稚園、保育所は『先輩後輩間の暗黙の不文律』や『序列重視のしきたり』なんかが存在するケースもよく見受けられますので、当方の私見ではハラスメントが起こりやすい環境であると感じております。法令面の状況を整理しておきますと、パワーハラスメント防止措置は令和4年4月から中小企業を含む全事業者に既に義務化されています。ここまでは対応済みの園も多いかと思います。

しかし——ここからが新しい話です——2025年6月の労働施策総合推進法改正により、カスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置も全事業主に義務化されました(施行は2026年10月の予定)。保育現場では保護者からの過度な要求、威圧的な言動、SNSでの中傷等がカスハラに該当するケースがあり、就業規則のハラスメント規程にカスハラ対応方針をきちんと盛り込むことが法的にも求められてきます。

『保護者の言うことは何でも聞くのが保育の仕事』——この考え方は、もう法的にも通用しない時代になったということです。職員を守ることが、結果として園を守ることにもなります。現行のハラスメント規程がこういった最新の法令に対応できているか、一度チェックされることをお勧めいたします。

施設に余裕があれば、年1回程度は主任、園長等の上級職員向けにハラスメント研修を行うことができれば、更なるリスク回避策になるでしょう。

 

  『パワハラ防止法』の詳しい解説ページはこちらから

 Point7  衛生面の規程ー感染症対策

 免疫機構がまだ十分に発達していない保育園児、幼稚園児を預かる立場としては、感染症対策はきちんと条文化しておきたいところです。新型コロナウイルス感染症は2023年5月に5類に移行しましたが、保育施設における感染症リスクの本質は変わっていません。

季節性インフルエンザ、RSウイルス、ノロウイルスなど、集団感染・集団食中毒のリスクは常に存在しています。園内における集団感染、集団食中毒はもちろんのこと、職員自身もしくは同居の家族、近隣の住民等が何らかの感染症に感染した場合を想定し、施設側が必要な措置を講じる命令権を担保しておく必要があります。

さらに給食業者に外部委託することなく、調理・調乳の専門職員を施設が直接雇用しているのであれば、検便に何らかの陽性反応が出た場合のその職員の処遇等も併せて明文化しておくべきでしょう。

コロナが5類になったからといって、感染症対策の規定を緩めてよいという話ではないということは改めて申し上げておきたいと思います。

 Point8  職場にコスト意識の定着を!

  幼児教育を担う教育者として、また1社会人としても、モノを大切にする行為は、職員自らが模範を示すことで、入園している乳幼児にもよきお手本になるはずです。加えて、認可保育所等はサービスを提供すれば提供するほど、底なしに事業が潤うというビジネスモデルではなく、児童の定員をマックスまで受け入れれば、それ以上の収入は見込めないという施設がほとんどだと思われます。

まして昨今は定員充足率が88.4%まで低下してきていますので、定員すら埋まらない園にとっては、コスト管理は経営の生命線と言っても過言ではありません。

職場の消耗品や文房具等を大切に使う等、コスト意識を定着させるための服務規程は入れておくべきでしょう。経営上の負担を職員全員でカバーするという意識付けを就業規則で示しましょう。

 Point9  有給取得ーきちんと業務が回るように運用されてますか?

 有給休暇の取得ルールについては、職員側の時季指定権(職員が休暇取得したい日、期間を指定できる権利)等の法令を尊重したうえで、使用者が施設の業務がきちんと回るように主導権を持って運用しなければなりません。特に配置職員数が定められている認可保育所は、それらのバランスを取って休暇の運用を行うことは非常に悩ましい部分ではあると思います。職員本人や養育する子供の体調不良など、急な休暇申請がやむを得ないものは別にして、職員配置に極力影響が出ないような休暇取得のルールを就業規則に明記しておくことは非常に重要です。

ここで忘れてはならないのが、2019年4月から施行されている年5日の年次有給休暇の取得義務です。『配置基準の関係で有給が取りにくい』というのは現場の実情としては理解できますが、法律上の義務である以上、『取りにくい』は『取らせなくてよい』の理由にはなりません。計画的付与制度の活用も含めて確実に取得できる運用設計は不可欠です。

 

 幼稚園については、園児の長い夏休み等がある一方で行事が目白押しの学期もあったり、繁忙期、閑散期がはっきり分かれる業種だと思われます。閑散期に有給取得を推奨したり、場合によっては計画的付与を用いて、繁忙期の業務運営に支障のない体制を整えておきたいところです。

 Point10  入職、退職時のルールの設定および強化

 ユニフォーム、名札等の貸与物は、入退職時のルールをしっかり設けないと、貸与物の返還がないまま、あるいは紛失した状態で退職されてしまうということも頻繁に起こります。それ以外でも、入職時において自動車、単車、自転車通勤を許可するのであれば、通勤途上事故のリスクを見越して一定の許可基準を設ける等のルール決めをしておいた方が施設側のリスク軽減につながります。有資格者を証明する証書も入職時きちんと提出を命じる規定を明文化しておくべきでしょう。また、業務上知りえた情報や園児、保護者等の個人情報の取扱いについても入職時、退職時にルール決めをしておかなければ、漏洩、持ち出しの危険も考えられます。入退職時の一定の取り決めはしっかり行っておくことが後々のトラブル防止に繋がります。

そして——ここは全園長先生に必ず知っておいていただきたいのですが——2026年12月25日施行の『こども性暴力防止法』(いわゆる日本版DBS)により、保育所、幼稚園等の子どもと接する業務に従事する者について、採用時に『犯罪事実確認書』を通じた性犯罪歴の確認が義務化されます。就業規則の採用関連規定にこの確認手続きを明記し、園として児童対象性暴力等対処規程を整備し、厳格な情報管理体制を構築する必要が出てきます。

施行まで1年を切っています。規程の整備には時間がかかりますので、対応準備は早急に進めておくべきでしょう。

 いかがでしょうか?要点を10項目に絞って解説させていただきましたが、幼稚園、保育園の労務管理の留意点については、まだ書き足りないこともたくさんあります。

お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、今回お伝えした10項目の中だけでも、ここ1〜2年の法改正で対応が必要になったものが少なくとも4つあります(カスハラ対策、日本版DBS、育児介護休業法改正、処遇改善加算一本化)。古い就業規則のまま放置しているとしたら、それは『鍵のかかっていない金庫』と同じではないでしょうか。

 

 当事務所では幼稚園、保育園、認定こども園の就業規則の作成・改訂をお力添えさせていただいております。上記10項目プラスアルファの労務リスクを就業規則の強化で回避しましょう。

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幼稚園、保育所の労働時間管理、勤怠体系の考え方

幼稚園、保育園、認定こども園の労働時間の設定方法

 ①法令適合

   ②柔軟対応(急なシフト変更時)

      ③人件費的観点(残業手当対策) 

                の三面からの考察

 

 こちらの記事では、幼稚園、保育所の適正な労働時間の設定の考え方を解説していきたいと思います。貴園の業務形態にふさわしい労働時間の設定のヒントとなれば幸いです。

ただ、最初に一つだけ申し上げておきたいことがあります。労働時間の設計というのは、ただ法令に適合していればそれでよいという話ではありません。どの要素を重視するかによって、園の人件費にも、職員の定着率にも、シフトトラブルの頻度にも直結する——つまり園の経営そのものに響いてくるテーマです。少しお付き合いいただければと思います。

 

 保育所の勤怠体系ー基本的な考え方

 保育所は大まかに『認可保育所』『認可外保育所(企業主導型保育事業含む)』の2つに分かれます。両者の中でも運営上、行政からの締め付けが厳しいのは『認可保育所』のほうになります。認可保育所はサービスの提供日数、時間数や職員配置基準に至るまでかなり厳しく運営基準が設けられ、保育所側の都合によって稼働日数、時間、配置職員数が減らせない等の環境下にあります。そういった環境下においての各職員のシフト管理ということになると、

      ①法令に適合すること

      ②柔軟対応(急なシフト変更時)

    を主に重視させながら、マンパワー的に余裕があれば、

     ③人件費的な面  及び

     ④職員のワークライフバランス的な側面

       を見ていくという優先順位で勤務形態を考えるということになります。

ここが大事なところなのですが、多くの園で見受けられるのが、①の法令適合だけクリアして、②③④は『なりゆき任せ』になっているパターンです。法令適合はあくまでスタート地点であって、ゴールではありません。②③④をどこまで設計に織り込めるかで、園の人件費と職員の働きやすさが大きく変わってくるわけです。

 法令に適合するとは?)

 労働基準法上の法定労働時間は1日8時間以内、1週間40時間以内(労働基準法32条)と決まっています。その例外として、一定期間内における週の平均労働時間が40時間以内という条件下で繁忙な日や週にそれぞれ、8時間超、40時間超の労働時間を設定することができます。いわゆる『変形労働時間制』ですね。

 認可保育所や幼稚園では原則週6日稼働している施設がほとんどだと思われますが、『担任制』を引いている関係で、まだまだ正規雇用の職員に対しては週休2日の導入に踏み切れない事業所も多いかと思います。週6日勤務の場合の以下の2つの例をご覧になってください。

 

 事例1)

曜日 合計
労働時間 休日 7h 7h 7h 7h 7h 7h 42h>40h

 いわゆる『9時〜5時(休憩1時間)週6勤務』ですが、1週間の合計の勤務時間が40時間を超えてしまっているので、法令に適合しません。何らかの手続きを踏まないと法違反となり労基署からの指導、罰則付与の対象となります。

 

  事例2)

曜日 合計
労働時間 休日 7h 7h 7h 7h 7h 5h 40h
 

 こちらは法令に適合した例です。基本的には週6日勤務ですが、閑散な開所曜日の所定労働時間を若干縮小し、週所定の労働時間を法定労働時間である40時間に収まるように調整したケースです。ただ、開所時間が長く、深夜の開所もあり得る認可保育所では特定の曜日だけ勤務時間を短縮することは難しいかもしれません。その場合は新配置基準を満たし、かつ、各スタッフの労働時間が週40時間を上回らないようにシフト管理を工夫する必要があります。

 

 変形労働時間制の活用)

 業務の都合上どうしても事例1)のような勤務体系を敷かなければならない場合は、法令に適合させるため、いわゆる『変形労働時間制』を導入する必要が生じます。

 変形労働時間制とは、前述した通り、任意の期間を設け、その期間中の週平均の労働時間を40時間以内とすることを条件に、一定手続きの下で、繁忙な日や週にはそれぞれ8時間超え、40時間超えの労働時間の設定を可能とする方法です。

 保育所、幼稚園で検討対象となる変形労働時間制には1カ月以下の期間で調整する方法(1カ月単位変形)と、1年以下の期間で調整する方法(1年単位変形)の2種類がありますが、導入に当たっては手続きの煩雑さや急なシフト変更への柔軟度など色んな側面から検討する必要があります。以下の比較表をご参考になさってください。

 

変形労働時間制導入のメリット・デメリット)

  手続き・メンテナンスの煩雑さ 繁閑に応じたメリハリのある働き方 急なシフト変更時の柔軟性 人件費的観点(残業の調整弁的役割) 労働時間・休日の制約 職員のワークライフバランスの観点 対象者の制限
変形労働時間制を導入しない場合 ×   ×
× 
きつい(1日8h、1週40h、原則1週1休を厳守)
×  
1カ月単位変形  さほど煩雑ではない
 
× 但し、全否定されるわけではない*注釈)参照 
〇 緩い(1日、1週の労働時間は上限なし)
 (1勤務日の所定労働時間を長くとることで週休3日制も可能) 妊産婦の適用には一定の制限あり。年少者は適用除外
1年単位変形 × 手続き、メンテナンスとも煩雑 × 但し、全否定されるわけではない
*注釈)参照 
△ 一定の制約は受けるが自由度はある 〇 (1勤務日の所定労働時間を長くとることで週休3日制も可能)  妊産婦の適用には一定の制限あり。年少者は適用除外
 

*注釈)変形労働時間制は使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更することがないことを前提にした制度であるので原則的には、単なる業務の繁閑等を理由として休日振替は行えない。ただし、労働日の特定時には予期しない事情が生じた場合における休日振替も認めない趣旨ではなく、そういった場合は一定の条件の下で休日振替が認められる(行政通達:平成一一・三・三一 基発一六八号)

 ⇒変形労働時間制において、急なシフト変更時の対応が全くNGというわけではない。

対象者の制限について一つ補足しておきますと、2025年施行の育児・介護休業法改正により、3歳未満の子を養育する労働者の残業免除請求権も強化されています。保育現場は子育て中の職員が多い職場ですので、変形労働時間制を導入したはいいが、適用除外者が想定外に多くて回らないということにならないよう、事前に対象者の実態を把握した上で設計する必要があります。ここは見落としがちなポイントですので注意が必要です。

 

 上記の表を参照し、どの要素を重視した労働時間の設計を行うのかは、各施設の抱える悩みや事情を考慮したうえで検討しなければなりません。例えば、慢性的にマンパワー不足で職員配置をカツカツで回しているような認可保育所では、何よりも『急なシフト変更時の柔軟性』を重視して検討しなければならないでしょうし、逆に認可外保育所でマンパワー的に比較的余裕のある施設であれば、『人件費的な視点』やリテンション策(離職防止策)として、スタッフのワークライフバランスを考慮にした設計も可能になるでしょう。

 変形労働時間制の導入の有無や、導入するとしたら、どの変形期間を採用するのかは各施設の現状を考慮して検討する必要があります。

 ただし、これは私見ですがシフトの柔軟対応に難ありということで、変形労働時間制の現場での運用を見送った施設であっても、『1カ月単位変形制』については使用者裁量で導入できる根拠は設けておいた方が後々何かと便利かと思います。特に退職直前のトラブルが起こったとき等、使用者側にシフト管理の裁量があるかないかで対応の選択肢がまったく変わってきますので。

なお、変形労働時間制とは別の話になりますが、時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間、特別条項でも年720時間等)は保育業にも当然適用されます。変形労働時間制の導入とは別に、36協定の内容が上限規制に適合しているかも併せて確認しておくべきでしょう。36協定を毎年なんとなく前年のコピーで出している園は、一度内容を精査されることをお勧めします。

 

幼稚園の勤務体系ー繁閑のメリハリを活用した設計に

 幼稚園については、前述の保育所ほどは行政機関からの厳格な労務管理を要求されませんので、法令に適合している限り、労働時間の設計にはある程度の自由度はあるといえるでしょう。

 幼稚園の場合は、小中学校と同様に土曜日の園児の在園は午前のみという事業所が多いと思いますの上記の事例2のケースのように、土曜日の所定労働時間を少し削ることで、法令に適合する設計に合わせることも比較的容易かと思われます。

 なお、2026年4月から幼稚園の1クラスあたりの人数が35人以下から30人以下に引き下げられました(31年ぶりの改定です)。これにより教諭の配置にも変動が生じ得ますので、勤務体系の設計にあたっては新基準を前提にした検討が必要になってきます。

 園内の年中業務を見渡すと遠足や運動会等の園内行事が目白押しの学期がある一方で、長い夏季休暇等で直接園児と接する業務からはしばらく遠ざかる期間もあり、非常に繁忙、閑散の差がある業務だと思います。

 もし、労働組合からの反対など導入への障壁がないのであれば、当事務所としては幼稚園の勤務体系として『1年単位の変形労働時間制の採用』を推奨します。幼児教育の現場は1年間という期間の中で繁忙期、閑散期がわりとはっきりと区分けできるので、繁忙閑散のメリハリのある働き方のできる「1年単位変形制」がフィットします。

 幼稚園が『1年単位の変形労働時間制』を導入するメリットは上記の表にも纏めていますが、改めて2点に絞り解説したいと思います。

 ①人件費(残業代)対策

 1年単位変形制は1日8時間、1週40時間にとらわれずに、繁忙期には多めの所定労働時間を割り当てることが可能(ただし一定の制限あり)となります。その分、閑散期で調整し、年間の週平均の所定労働時間が40時間以下であれば、割増賃金は発生しない制度です。繁忙期、閑散期のメリハリのある働き方がそのまま残業代(割増賃金)の調整弁として機能する便利な制度です。

 ちょっと具体的な数字でお示ししますと、仮に行事が集中する学期に毎日30分の残業が発生していたとして、正規職員10人で月20日分、これを年間で計算すると相当な額の割増賃金になります。この大部分を変形労働時間制で吸収できるとしたら、その人件費効果は無視できないものがあるのではないでしょうか。

 ②スタッフのリテンション策(離職防止策)

 「1年単位変形労働時間制」はうまく運用すれば、週休3日制の実現も可能な制度です。もちろん、クラス担任制であり担任として業務に穴は空けられない事情も理解しますし、また園内行事が立て込む繁忙期には休日を増やすことは難しいでしょう。ですが園児が登園しない夏季休暇中等の閑散期には教諭たちのワークライフバランスを充実させることも可能になるのではないでしょうか。繁忙閑散のメリハリを享受することで、幼稚園教諭たちの仕事と私生活の双方の充実が可能となり、こういった職場環境の提供が離職率の改善につながるケースとなりえます。

「繁忙期は大変だけど、その分閑散期にはまとまった休みが取れる」——こういった職場環境を制度として提供できるかどうかが、同じエリアの他園との人材獲得競争で差をつけるポイントになってくるのではないかと思います。保育士の有効求人倍率が3.88倍という状況の中で、『給与』だけでは差別化しにくいとなると、『働き方の柔軟性』で選ばれる園を目指す戦略は十分にアリではないでしょうか。

 

 保育所、幼稚園の労働時間設定の考え方を解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?労務管理において、各々の施設にどのような悩みがあり、どこに重きを置くかということで、労働時間の設定手法も変わってくるということがご理解いただけたならば幸いです。

 

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処遇改善等加算を有効活用!幼稚園、保育所の賃金制度、給与テーブル設計手法

幼稚園、認定こども園、保育所の賃金制度の設計の勘所について

 平成30年度調査の厚生労働省の公式データ(賃金構造基本統計調査)によると幼稚園教諭、保育士の平均給与は全職種平均よりも3割程度下回っている事実が浮き彫りとなっています。

   年収の全国平均

      幼稚園教諭:360万円

        保育士:356万円

      (全職種の平均:560万円)

 

 こういう事実が有資格者たちの『保育士離れ』の一因となっていると思われます。限られた人件費原資の範中で幼稚園教諭、保育スタッフたちのモチベーション維持をどのようにしてやり繰りするのかを考えていかなくてはなりません。

 加えて今後の少子高齢化の影響で学卒者、有資格者が減少することが確実視されます。就活生たちに我が園を選んでもらうため、また既存の職員たちのリテンション策(引き留め策)としての賃金制度の設計を戦略的に考えていかないといけない段階にきているのではないでしょうか。

 こちらでは、幼稚園、認定こども園、保育園の賃金制度、給与テーブルの設計の基本的な考え方を解説していきます。貴園の賃金制度構築の一助となれば幸いです

 

認可保育所の賃金設計の考え方

 認可保育所の経営資源は国や地方自治体からの公的な運営支援金や拠出金にほぼ依存せざるをえない法人様がほとんどではないでしょうか。また人件費原資に目を向けても『処遇改善等加算』などの公的資金に強く依存せざるを得ない保育所が大半かと思います。

 こういった事情を鑑みた場合、保育所、特に認可保育所のケースでは『使える賃金制度』として機能させるためには、行政から支給される『処遇改善等加算』の獲得を前提として、その支給の意図に沿った形でかつ、支給される人件費原資の額を見込んでの制度構築が求められます。

 ではどのように処遇改善等加算と賃金制度をリンクさせていけばよいのでしょうか?以下の2つの考え方で見ていきます。

 

 1)獲得原資を合理的な改善用途として運用できる賃金制度の構築

 保育事業者を対象とした処遇改善等加算は大まかの分類すると加算Ⅰと加算Ⅱの2種類、これらをさらに細かく階層化すると、加算Ⅰが3層、加算Ⅱが2層と計5階層の成り立ちとなっています。

 加算Ⅰの支給目的は施設(組織)の取り組みとしてスタッフ全体の給与の底上げということで、

  ①ベースアップを含んだ定期昇給原資(基礎分、公務員・民間格差是正分)

  ②組織全体の賃金水準の改善として(賃金改善要件分)

  ③組織としての職員のキャリア構築体系の整備(キャリアパス要件)

   の計3層の構造となっています。

 それに対して加算Ⅱの支給目的はリーダー職を含む中堅職のスタッフに限定して、賃金水準の引き上げを図り職場定着を安定されることを意図する支援金となり

  ④概ね3年以上の経験年数を持つ職務別分野リーダー対象

  ⑤概ね7年以上の経験年数を持つ副主任保育士、専門リーダー対象

  の計2層の構造になっています。

よって、これら処遇改善等加算ⅠおよびⅡの計5つの階層ごとのそれぞれの支給目的、支給方法にリンクした形で、かつ見込まれる人件費原資に見合った形での賃金設計が望まれます

 またこれら処遇改善等加算で支給された人件費原資には、スタッフの支給方法(還元方法)にも階層ごとに一定の制限がかかるために、そういった制限を踏まえたうえでの昇給ルールや各種手当や賞与等の設定が不可欠となります。以下に手当設定の考え方の一例をあげておきます。

 例)処遇改善等加算Ⅱの原資を見越して役職手当を設定する場合

 組織内での役職手当の支給対象者と処遇改善加算Ⅱの受給要件を合わせる必要がある。

 よって単純に組織内での位置付けだけではなく、3年以上、7年以上の経験年数や各職務分野での研修の修了の有無等により役職手当の支給要件を検討しなければならない。

 

 2)獲得要件に見合う賃金制度の構築

 さらに言えば、処遇改善等加算(Ⅰ、Ⅱの双方)の獲得要件を満たすように賃金制度を整備する必要もあろうかと思います。

 主な段階での加算の獲得条件を以下で見ていきます

・処遇改善加算Ⅰの3層目である“キャリアパス要件”を獲得するためには『職位、職責または職務内容に応じた賃金体系』の構築を求められます。それに加え『研修の機会の付与』や『能力評価の実施』等も行わなければなりません。

・処遇改善加算Ⅱの4層目(職務分野別リーダー)、5層目(副主任保育士、はそれぞれ、一定のキャリアや研修を積んだ中堅リーダー層の職員の人数に応じ支給額が決定されるので、支給の対象職員がその職位に該当するということが明確に区分けされている必要があります。

 

 つまり、これらの獲得条件から読み取れる行政からのメッセージとしては、認可保育所では『職位や役割が明確に区分けされる資格等級制度を構築し、それぞれの職位にふさわしい処遇をすることが望ましい』と察することができます。

 

 上記の解説を踏まえて、以下の表に行政から支援される処遇改善等加算に賃金制度をどのようにリンクさせていけばよいかということをまとめてみました。

加算ⅠorⅡ 階層 内容 処遇改善の対象 賃金制度における課題・検討ポイント
処遇改善加算Ⅰ 第1層 基礎分・人勧(公務員と民間の格差是正)分 組織・施設の全体の処遇の底上げ ・基本給の昇給ピッチ
・在職年数に沿ったモデル賃金カーブ


第2層 賃金改善分 ・基本給の昇給ピッチ
モデル賃金カーブ
・賞与設計
第3層 キャリアパス要件分 資格等級制度
職位もしくは役割に応じた手当の設計
処遇改善加算Ⅱ 第4層 職務分野別リーダー 施設内の特定の職位の者のみが対象 資格等級制度
職位に応じた手当の設計
第5層 副主任保育士・専門リーダー

 保育業、特に認可保育所については上記の表における『課題・検討ポイント』に沿った賃金制度を考えていくことが今後の行政からの支援金の“獲得”および“活用”のためには重要になってくるかと思われます。

 *上記で取り上げた処遇改善等加算は当コラム執筆時点(令和2年6月)での全国共通の保育業向け支援金制度の概念に基づき解説記事を記載しております。各地方自治体で独自で支援金の支給基準を設けているケースもございますのでそちらにつきましては都度ご確認ください。

 

 当事務所では、いく通りかの賃金制度設計のコンサルティング手法を持っており、都度経営者様からのご要望やご予算に合わせたやり方をご提案させていただいております。ここでご紹介する、給与設計ソフトを使った賃金設計はキャリアや職務と給与をうまく連動させるという意味においては認可保育所の賃金設計には非常に相性がよいかと思います。ぜひ一度ご覧ください。

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幼稚園・認定こども園、認可外保育所の賃金設計について

 処遇改善等加算として公的機関からの支援金支給の対象となるのは、上記で説明させていただいた認可保育所だけではなく、幼稚園、認定こども園、(認可外保育所のうち)企業主導型保育施設も支給の対象となります。よって、保育所や認定こども園、企業主導型保育施設の中でも、人件費予算を公的な給付に依存するようなケースであれば、上記で解説させていただいた『認可保育所の賃金設計の考え方』を踏襲いただければいいと思います。

 同一法人で認可保育施設、認可外保育施設、幼稚園、認定こども園等の形態が異なる施設を運営しているケースもあろうかとおもいます。そのような場合は『処遇改善等加算』を活用した賃金制度の運用をより慎重に進める必要があります。というのは、施設形態により受給できる施設、できない施設が出てきたり、都道府県をまたがって施設運営するケースでは自治体独自の追加加算の対象になる施設も出てくるので、保育士や幼稚園教諭としてキャリアや能力が同程度の職員であっても勤める施設によっては処遇の格差が出てくるケースも考えられます。そういった環境下でどのように公正公平な処遇を行っていくかということも課題になってこようかと思われます。

 

 幼稚園、認定こども園での賃金設計でもう一つ課題になってくる事案が、リテンション策(離職防止策、引き留め策)としての戦略的な設計です。このページの最初の解説記事(⇒幼稚園、保育所、認定こども園が抱える『いまそこにある労務労務問題』)でも述べた通り、保育業界、幼児教育業界は一般企業などに比べて職層階級が少なく、幼稚園教諭や保育教諭、保育士等がなかなか明確なキャリア構築を描きにくいというのが人材定着を阻害する一つの要因になってきていると思われます。

 『我が園に長期勤続すれば、これだけ成長できて、こんな素敵な未来が待っている!!』というメッセージを若手スタッフや就活中の学生たちにアピールできるような賃金制度に仕上げていきたいものです。

 加えて処遇改善等加算の獲得要件にもある通り、幼稚園教諭、保育教諭のキャリア形成の道しるべをしっかり示すという観点からの賃金制度に作り上げていく必要があろうかと思います。

 幼稚園、認定こども園の賃金設計には、スタッフ一人一人の成長段階がしっかりと把握でき、仕事や役割と処遇がきちんとリンクするような『資格等級制度』を用いて処遇することも選択肢の一つとなってくるでしょう。

 

 当事務所では『資格等級制度』を活用し、組織の中での個々の役割や成長度合いを処遇に反映させ、かつ法人・企業の業績に応じた弾力性のある給与制度も含む『人を育てる人事制度』の構築をお手伝いをさせていただいております。

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 当事務所では、保育所、幼稚園、認定こども園の『スタッフのやる気を高める賃金制度』の構築も含め、採用支援、定着支援等、人事労務に関すること全般でお力添えさせていただくことが可能です。

保育士、幼稚園教諭の育成(戦力化)・定着手法

いかに保育士、保育教諭、幼稚園教諭を育成(戦力化)・定着させるか

 前述した通り、幼稚園教諭、保育士の平均的給与は全職種平均の3割程度下回る低水準にあるという統計データも存在するなか、魅力的な金銭的報酬でもってスタッフの定着を図る策を取れるのは、よほど資産状況のよいごく一部の施設や法人に限定されると思います。多くの施設では限られた人件費予算をやり繰りしながら、保育士、保育教諭、幼稚園教諭を“使える人材”として育成し、定着させることに苦慮されているのではないでしょうか。

 こちらのコラムでは、『コンピテンシー』という概念を使った幼稚園教諭、保育士の育成手法と定着(リテンション)策について解説していきます。

 

 行動を改善してスタッフを戦力化し、定着させる!

     −“コンピテンシー”を使った組織活性化手法

 

 『コンピテンシー』とは、人事労務用語で、高い業績を達成する者に共通する“行動様式”のことです。つまり簡単に言い換えると“仕事のできる人の行動”ということになります。

 例えば、野球のピッチャーの投球フォーム(メカニック)を分析していっても、150キロを超えるスピードボールを投げるすごい能力を持った投手たちには一定の共通した動作がそのフォームの中に見られます。

 野球のピッチャーしかり、一流のアスリートには高いパフォーマンスを発揮する源となる、共通した動作、フォームが必ずあるものです。

 こういったアスリート達の共通した動作、フォームも『コンピテンシー』の一つといえます。

 それを幼稚園教諭、保育士という職業に当てはめて考えると、『保護者からの受けがいい先生』『子供たちから慕われる保育士』『同僚の間で評価の高い幼稚園教諭』など、高い業績を上げるスタッフにはそれなりの行動が必ず伴っているはずです。

 そういった『仕事のできる人の行動=コンピテンシー』を抽出し全員で共有し習慣化すれば、『仕事のできる人』が増え、職場が活気づくというのはご理解いただけると思います。

 

 幼稚園や保育所でコンピテンシーを使った育成、教育を行う利点として

 1)保育士や教諭等スタッフ全員の行動の質が上がる

 2)熟練者が持っているノウハウやコツを全員に共有できる

 3)上記1)2)によって、今までに気付かなかった仕事の面白みややりがいに気付く

 

             の3点が挙げられます。

 

 とかく、幼稚園教諭や保育士という仕事はどちらかというと、自らの裁量で仕事をするというよりも、園児や保護者からの頼まれ事に応えたり、上司、先輩からの指示に従って行動する『受け身』の業務が多いのではないでしょうか?そういった『受け身業務』が多い中でもきちんと、自分たちで抽出した行動目標をしっかりと実行することによって、何らかの結果に繋がってくるようになると仕事にも新たな気付きや面白みを感じるようになってきます。

 こうしたスタッフの『行動の改善』により、園児および保護者、近隣住民の皆さんからの支持を増やし、ファン化させる効果があることはもちろんなのですが、幼稚園教諭、保育士のような『受け身業務』の多い職種では上記の利点3)の効果が多く見受けられ、定着率アップ、離職率の改善につながることも案外と多いのです。

 

 幼稚園で作成した幼稚園教諭のコンピテンシーの事例)

  (*現場で作成したものを当方が適宜アレンジを加えて掲載しております。)

 ・お遊戯会の衣装や製作、演出等で先生自身が手掛けるべきものは『これくらいでいいだろう』とある程度で妥協するのではなく、子供たちや保護者の皆さんが喜び感動し、後々まで思い出に残してもらえるくらいを目標に妥協せずに努力を続ける。

 ・みんなと一緒に活動をするのを嫌がる子供がいたときは、参加を無理強いせずに、『みんながやっているのを先生と一緒に見てみようか』『楽しそうだね!』『みんなうまくできたね。〇〇ちゃんもできるかな?』等の声がけを行い、子供が自発的に参加するように促してあげる。

 ・保護者から否定的で嫌味とも受け止められる意見やクレームをもらっても、貴重なご意見と受け止め、素直に聞き入れて改善する。

 ・失敗をしたときは、周りに掛かる迷惑を最小限に食い止めるため、早急かつ簡潔かつ正確に主任、先輩に報告している。

 ・自分が受け持っているクラスだけ他のクラスとの均衡が崩れないように、他のクラス担任の先生の進捗具合を肩を並べて確認し合いながら、クラスの仕事を進めている。  etc.

 『仕事のできる人の行動=コンピテンシー』の抽出手法

 上記のような『仕事のできる人の行動=コンピテンシー』は1日研修(約6時間)の中で参加者全員で議論し合って抽出していく作業を行います。

 また、研修で抽出した『行動=コンピテンシー』を習慣化させるサポートもお手伝いさせていただいております。(3か月集中導入コース)

 当事務所のコンピテンシーの導入サポートはこちらから

  (姉妹サイト:大阪人事コンサルティングセンターにジャンプします。)

 

“コンピテンシー導入がなぜ業績のアップに繋がるのか?”“コンピテンシーと取り入れると定着率がよくなるのはなぜ?” などなど“コンピテンシー”についてもっと詳しく知りたい経営者の皆様にはこちらに解説記事を上げております。

 “コンピテンシー” デキる社員が増殖する教育手法

  (姉妹サイト:大阪人事コンサルティングセンターにジャンプします。)

 

 様々な業種で作成した『仕事のできる人の行動=コンピテンシー』の事例集をご希望される経営者、人事責任者の皆様にご提供しております。ぜひご参考にどうぞ。

 このコラムでご紹介した『コンピテンシー』以外にも、当事務所では、幼稚園、保育所、認定こども園の労務トラブル予防や人材の戦力化、モチベーションアップ術、定着率アップの手法等に幅広い引き出しを持ち、経営者の皆様、園長先生たちの『人についてのお悩み』を解決に導きます。

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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