保育現場はカスタマーハラスメント対策と日本版DBSにどのような人事労務施策を講じるべきか。

2026年、保育現場に"2つの法的義務"が同時に降ってくる─
2026年10月と12月──。保育園、幼稚園、認定こども園の経営者にとって、この2つの日付は、手帳に赤丸を付けておくべき期限です。なぜなら、わずか2か月の間に『カスタマーハラスメント防止措置の義務化』と『こども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)の施行』という、2つの大型法改正が同時に押し寄せてくるからです。
 
どちらも「就業規則に書いていない」では通用しません。そして、どちらも「うちはまだトラブルが起きていないから」という言い訳が、法的に一切認められなくなる──そういう性質の法改正です。
 
■ カスタマーハラスメント対策義務化(2026年10月1日施行)──保護者の"声"と"暴力"の境界線
令和7年6月の改正労働施策総合推進法により、2026年10月1日から、事業主には顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)への雇用管理上の措置が法的に義務付けられます。
 
保育現場の方であれば、こう思われるかもしれません。「保護者は"お客様"ではなく"子育てのパートナー"だ」と。その通りです。しかし法律はこう定義しています──「社会通念上許容される範囲を超えた言動であり、労働者の就業環境が害されるもの」。つまり、保護者であっても、繰り返しの長時間クレーム、人格否定、威圧的な態度が続けば、それはカスタマーハラスメントに該当し得るわけです。
 
事業主に求められる措置は、大きく4つです。
 
① 方針の明確化と全職員への周知   
② 相談窓口の設置と体制整備   
③ 抑止のための対応マニュアル策定   
④ 被害発生時の事実確認・配慮・再発防止
 
私見で恐縮ですが、保育業界でとりわけ難しいのは③と④ではないかと思います。「寄り添うのが保育者の仕事」という規範意識が強い現場では、毅然とした対応をとること自体が"冷たい対応"と受け取られはしないか──そう躊躇する職員が少なくありません。だからこそ、『個人の判断』ではなく『園のルール』として就業規則に明記し、誰が対応しても同じ筋が通る状態をつくる必要があるわけです。
 
■ 日本版DBS(2026年12月25日施行)──採用と就業規則の根本が変わる
 
こども性暴力防止法は、幼稚園・認定こども園・認可保育所を『法定事業者』と位置づけ、犯罪事実確認と未然防止対策の両方を法的義務としています。
 
確認対象となる職員の範囲は、幼稚園教諭や保育士だけではありません。事務職員、送迎バスの運転手──子どもと継続的に接する可能性がある方すべてが対象になり得ます。短期雇用者やボランティアも例外ではありません。
 
就業規則の改訂で押さえるべきポイントは、主に3点です。
 
第一に、採用時の募集要項に『特定性犯罪前科がないこと』を採用条件として明記すること。   第二に、就業規則の懲戒事由に『重要な経歴の詐称』が含まれていることを確認し、犯罪歴の虚偽申告が解雇事由に該当する旨を明文化すること。   第三に、現職員から犯罪歴が判明した場合の配置転換手順と、配置転換が困難な場合の対応フローを規程化すること。
 
特に第三のケースは、即時解雇が認められない可能性が高いため、配置転換の打診から拒否理由の記録まで、すべてを書面で残す運用が求められます。ここは労務の専門家──社会保険労務士や弁護士と連携して進めるべき領域です。
 
■ 2つの法改正を"バラバラ"に対応してはいけない理由
カスハラ対策とDBS対応は、一見すると別々の法改正に見えます。しかし、就業規則の改訂という実務レベルでは、まとめて対応するほうが圧倒的に効率的です。
 
たとえば、服務規程の見直し。カスハラ対策では『保護者対応に関する行動規範』を加える必要がありますし、DBS対応では『児童対象性暴力防止のための行動規範』を策定しなければなりません。いずれも服務規程の改訂ですから、同時に着手すれば、職員説明会も一度で済みます。
 
あるいは、相談窓口の設計。カスハラ相談窓口とDBS関連の相談窓口を別々に設ける必要はなく、園のハラスメント相談体制として一元化することで、職員にとっても分かりやすい仕組みになります。
 
このあたりの『全体設計』を誤ると、規程が継ぎはぎだらけになり、現場が混乱する。逆に、最初から体系的に設計すれば、法改正のたびに慌てる必要がなくなります。就業規則は"守りの砦"であると同時に、園の運営方針そのものです。
 
■ まとめ──「法改正は待ってくれない」
2026年10月のカスハラ義務化、12月のDBS施行、双方施行日まであまり余裕がありません。就業規則の改訂、職員への説明、運用フローの整備、相談窓口の設計──やるべきことは少なくありません。
 
「うちはまだ大丈夫」と思っている園ほど、実は一番危ない。なぜなら、法改正後に問題が発覚した場合、『知らなかった』では済まされないからです。
 
当事務所では、保育園・幼稚園・認定こども園に特化した就業規則の改訂支援を行っております。カスハラ対策規程とDBS対応規程を一体で設計し、処遇改善等加算のキャリアパス要件にも整合させた人事施策全般もご提案いたします。
 

この記事は私が書きました

児島労務・法務事務所 代表 児島登志郎
 社会保険労務士・行政書士
 組織心理士・経営心理士(一般財団法人 日本経営心理士協会 認定)

 元大阪労働局 総合労働相談員
 元労働基準監督署 協定届・就業規則点検指導員

 

 社会保険労務士として開業する傍ら、大阪府下の労働基準監督署にて総合労働相談員、就業規則・協定届点検指導員を計10年間勤める。 その間に受けた労使双方からの相談数は延べ15,000件以上、点検・指導した就業規則、労使協定届の延べ総数は10,000件以上に及ぶ。 圧倒的な数量の相談から培った経験・知識に基づいた労使紛争の予防策の構築や、社員のモチベーションを高める社内制度の構築を得意分野としている。

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